遠足へ
シロロ家で水を浴びてから家に帰る
シロロの母親であるブラウンは儂らを心配していた
しかし、シロロは余裕そうな顔をしていた
体調の悪い母親を心配させたくはないようじゃ
家に帰って、今日のことを両親に話した
魔物との戦闘について大丈夫だったかと聞かれたが
シロロのおかげでなんとかなったと言っておいた
そういうと、「お礼したいから、シロロを連れてきてね」
と母親のオリビア言われた
まあ、いつかは土魔法習得のために
連れてこようと思っとったからちょうどいいか
また、魔法を曲げられるようになったと、報告すると
オリビアに驚かれた
放った魔法を操るのはかなり高度の技術だそうじゃ
やはり儂は魔法操作に長けているのかもしれん
それにしても、今回の戦闘からわかったが、
魔法のみの戦闘には限界がある
剣術をもっと勉強するべきかもしれん
とりあえず木剣だけでも持ち歩いておこう
それから、月日が経った
今日は遠足に行くそうじゃ
遠足なんて何年ぶりじゃろうか
本当に懐かしい
今回の遠足は近くの森に行って鳥や虫を観察する
という課題じゃ
この時代、まだ紙が貴重で、普段の勉強では
石盤にチョークのような石で書いている
消すときは、布で消す
本当は鳥を観察してデッサンするということをやりたいが
それではなかなか絵は難しい
森に向かって歩いている道中、そんなことを
考えていた
「ノア? どうしたの?」
シロロがこちらをのぞき込んでくる
「ん? いやちょっと考え事してただけですよ」
「そ」
シロロは受け答えが淡泊ではあるが、
今日はなんだかそわそわしている
遠足が楽しいらしい
周りの子供たちもがやがやと騒いでいる
あの餓鬼大将ゴダゴダでさえ、横に
取り巻きを据えて楽し気に歩いている
シスター・ドクハは先頭で子供たちを先導している
「あんたは強いんだから、後ろで子供たちを見て
てくれんか?
まあ、今日、行く森に魔物が出たことはないけどねぇ」
出発する前にドクハに言われた言葉
儂、一応ここで最年少なんじゃが…
こないだのゴダゴダとの魔法バトルのせいで
かなり株を挙げたようじゃ
しばらく歩いてから、開けたところで休憩
子供たちは各々弁当を食べる
もちろんプラスチック製の弁当箱などなく、
植物の葉で巻いて持ってきていたパンや
野菜くらいである
儂は陶器のケースに入っていた
やはりベルナール家は金持ちらしい…
子供たちが儂の弁当に群がってくる
「すげー」
「きれいだね」
「俺にも一口くれよー」
人の弁当に興奮するのも遠足らしさがあっていい
少し子供たちに分けてあげる
孫が増えたみたいでかわいいらしい
興奮もさめ、子供たちが離れていく
隣にいたシロロはむすっとした顔になっている
「どうしたんです? シロロ?」
「他の子ばかりずるい
私にはくれないの?」
「これ以上あげたら、私の分がなくなっちゃうんですが…」
「つーん」
まあ、そこまで言うなら…
「あーん」
「ん!!? …ありがとう」
シロロの口に弁当の一部を突っ込む
シロロはなにやら恥ずかしそうじゃ
かわいいやつめ
「おー、なにやらもう仲良しだねぇ」
ドクハが儂らのところに来て話しかけてくる
「シロロに友達ができて本当に良かったよ」
ドクハは柄にあわない言葉を漏らす
「シロロはいい子ですからね」
「シロロは他の子にそう簡単に心を開かないからねぇ」
ドクハがそういうと、シロロが反応する
「ノアは強い人だとすぐに分かったから
心も力も」
「え? そんな風に見えました?」
「いや、勘」
獣人の勘というやつか…
人間より感覚が鋭いのかもしれん
そんな時、一人の子供がドクハに話しかける
「シスター、ゴダゴダ君たちがいなくなってますー」
「なにぃ! あの子は本当に悪ガキだねぇ…
ノア! 悪いけど、この子たちを頼むよ!
あたしはあの餓鬼大将を探してくるからね」
そういってドクハはゴダゴダらを探しにいった
この辺りは森に囲まれているので、意外と探しにくいかもしれんな
「なんか嫌な予感がする…」
シロロが立ち上がる
「シロロ? ついていくんですか?」
「ちょっとノアはここにいて」
そういってドクハを追った
「えっ ちょっと待ってくださいよ!」
行ってしまった…
しかし、ここの子供をほっていくわけにはいかない
こないだのレッドタイガーの件もある
何も起こらないといいがのぉ…