初戦闘
儂はレットタイガーと対峙した
見た目はその名の通り、トラのような見た目
先ほどの魔法は火属性だった
レッドという名前はそこから来ているのじゃろう
この世界に来て、魔物との初戦闘
かなり怖いが、これこそ儂が求めていた「潤い」…!
ここで動けなくてはどうする
「『風の神よ、力なき我にその力の一端をお与えください』」
「『風球』!!」
レッドタイガーにめがけて魔法を打つ
魔法は当たったかに思えたが、すんでのところでかわされる
練り方が甘かったか… 威力が低い
レッドタイガーも魔法を放つ
これをもう一度風魔法を打ち、相殺する
「くっ…!」
相殺した瞬間、小規模な爆発が起こり、少し後ろに飛ぶ
土煙が上がる
相殺するにしても、詠唱するためにラグが発生する
思ったより、魔法での戦闘は難しいのぉ…
次の一撃を繰り出すために、杖を構え、レッドタイガーを探す
その時には、レッドタイガーは目の前に来ていた
「…! 風の…」
とっさに詠唱を開始しようとする
魔法戦ではなく、物理での攻撃に転じたか!
これは間に合わん!
次の瞬間、儂はシロロに抱えられ、横に回避していた
「大丈夫?」
「あ、ありがとう」
シロロに助けられたようじゃ
なんという反応速度…
儂もこの体なら、反応速度早いんじゃが…
「ノアは後ろに下がって魔法で援護して
私が前衛をする」
「でも、シロロ…」
「大丈夫、こいつは戦ったことあるから」
そういうシロロの顔は自信に満ちていた
確かに、この距離じゃと、魔法特化の儂には無理か…
「わかりました さがります
気を付けて」
儂はそういって、素早く後ろに下がり
すぐに詠唱を始める
シロロはレッドタイガーと対峙すると、ピタリと静止した
「ハアァア…!」
声を上げると、シロロ爪が伸びた
レッドタイガーは少しひるんだもののシロロに襲い掛かる
シロロはそれを両手の爪でガード
隙だらけの腹に蹴りを入れる
「ギャン…!」とうなり声をあげてレッドタイガーがノックバックする
そこにめがけ、儂も魔法を打つ
今度は命中!
レッドタイガーは今の2撃でかなり消耗した
ここで、レッドタイガーも最後の力を振り絞るように
咆哮をあげる
そして、もう一度シロロにとびかかる
シロロは先ほどと同様に受けようとしたが、
火事場の馬鹿力なのか今度は押される展開
「クッ…! 重い…!」
シロロが声を漏らす
儂が魔法で援護しないといかんが、この位置では
シロロを巻き込んでしまう…
魔法を曲げてみるか…
やったことはないが…
詠唱を開始して、魔法を打ち出す
魔法はこのままだとあらぬ方向へ行ってしまう
「…ここ!」
打ち出した後の魔法を、曲げる!
魔法はぐにゃりと軌道を変え、レッドタイガータイガーの背を捉える
また、悲鳴を上げるレッドタイガー
その瞬間、レッドタイガーを押す力が弱まる
それをシロロは見逃さなかった
「シッ…!!」
シロロは爪をトラの胸に突き刺し、その血が噴き出す
レッドタイガーははこと切れ、動かなくなった
「…勝った!」
儂は声を上げ、シロロのもとに駆け寄る
その瞬間、シロロは力が抜けたように座り込んだ
「シロロ!大丈夫?」
声をかけると、シロロはこちらを向いた
「うん 大丈夫
ちょっと疲れただけ」
いつの間にか、シロロの爪はいつも通りのサイズになっていた
何やらレッドタイガーの死体をまさぐっている
「すごいです!
シロロがいなかったら、私はやられていました
ありがとうございます」
「あれを使ったから」
「あれっていうのは、さっきの爪が伸びてた状態のことですか?」
「そう 父親の能力を受け継いだの…
一時的に身体能力があがる」
「すばらしい!
それなら、魔法なんて習わなくても、その身体能力を生かすというので
十分じゃないですか?」
シロロは暗い顔をする
「でも、この能力はあんまり使いたくない
なんか、自分が人間じゃないことを嫌でも
感じる」
「……」
慰めようとしたが、シロロは本当に深刻な顔をしていた
だから、それには答えず、話を変えた
「先ほどから何をしてるんですか?
死体をいじると、手が汚れますよ?」
「んっとね… あ、あった」
シロロはきれいな石のようなものを取り出した
「これは魔石 魔物が動くのに必要
高く売れるよ」
「そうなんですね」
やはりファンタジーじゃな
魔石とはベタなものを…
儂でも知っとる
「普段から魔物と戦っているんですか?」
「ちょっと前まで、おかあさんといっしょに
でも、今はお母さんの体調が悪くて
一人での魔物討伐は危険だから…
だから、本当に今日は助かった
こちらこそありがと ノア」
シロロはにこっと笑う
「いえいえ 今回全然役に立てませんでしたし」
「そんなことない ノアの魔法がないと
ダメだった」
「そういってもらえると、うれしいですね」
儂とシロロは微笑みあった
「では、今日は家に帰りましょうか」
「うん ノアもうちで水浴びてから帰って」
「じゃあ、そうさせてもらうよ」
そういいながら、儂らは帰路についた