ノアの魔法
その後も儂はシロロと一緒に過ごした
シロロは人見知りではあるが、優しく接すれば
意外とすぐ儂になれてくれた
おそらく差別で周りの態度が冷たいことによって
自分から近づけないだけなのじゃ
本来は友達を作れる性格ではあるのじゃろう
儂は文字の書き方を教えてあげた
何やら孫の宿題を手伝ったことを思い出すのぉ
その日の学校はそれ以降つつがなく終了した
家に帰ると、オリビアが玄関で出迎えてくれた
学校でのことを聞いてきた
オリバーは畑に出ているようだ
儂が友達ができたといったら、とても喜んでくれた
「今日はごちそうね」とウキウキしながら、夕食の
準備を始めた
シロロが獣人であることはとりあえず言わないでおいた
今までトスリキ教の教義についてほとんど教えてもらっていないので
そこまで目くじら立ててくることはないと思っているが…
その日の夜も、魔法の総量を高める訓練と魔力回路に魔力を流す練習
だけやって眠った
これは寝る前の習慣と化していた
特に魔法の総量を高める訓練は魔力切れまで魔力を放出するため、
寝る前にすれば泥のように眠ることができる
むしろやらなきゃ寝られない体になってしもうた
それにしても魔法が強くなりすぎてそろそろ部屋で普通に
魔法を打つのはまずくなってきたのぉ
なので、あえて風の魔法をしっかりと練らず、自然風と同等の
威力の魔法を出し続けるようにしている
明日も学校か
シロロの環境がよくなっていければいいがのぉ~
次の日も教会に行った
シロロは昨日と同じところに一人でいた
儂はシロロに話しかけた
「おはようございます シロロ」
シロロは猫耳をピクリと動かしてこちらを向いた
「…おはよう ノア」
シロロは挨拶を返してくれた
表情も暗くはない
子供というのはすぐ仲良くなれるものじゃなと思った
長いこと大人をやっていると、友達を作るのは
難しいと感じるようになる
大人になると、仕事で時間がなかったり
趣味や価値観が多様化するため、意外と気が合う人を
見つけるのは難しい
それに、仕事していると有能かそうでないかが、その人の
評価に直結してしまう
その点、子供は一緒にいれば、仲良くなれる
そんなことを考えながら、シロロに勉強を教えてあげる
昨日からだが、やはり周りからの視線を感じる
獣人と仲良くするのは、珍しいということだろう
ドクハが「外で遊んできな」と声をかけると
子供たちは一斉に外にでようとする
すると、周りの子供たちが儂にも話しかけてきた
「ノア、今日は俺たちと遊ぼうぜ!」
儂は迷った
シロロを一人にするのは悪い気がする
かといって、「シロロも入れてやってくれないか」と
いうのは確執を深めるだけのような気がする
そうこうしているところに、ゴダゴダが割り込んできた
「おい、お前!
獣人と仲良くしているなんておかしいだろ!
それより、俺様と魔法勝負しろ!」
論理のない破綻した発言だが、子供なのでこんなもんだろうか
「今日は、皆さんに誘われたので魔法勝負はまたの機会に…」
「いやだめだ!俺様と勝負しろ!」
ゴダゴダは食い下がってきた
これは会話じゃ会話が成り立たんのぉ
「…わかりました では、広いところまで行きましょう」
ここは儂が折れる方が賢明かのぉ
隣にいるシロロが不安そうな顔をしている
「ノア、大丈夫?」
「心配しないで 魔法は得意なんだ」
儂はそういってうなずいた
儂らは教会の外の開けた場所まで出た
子供たちも魔法を見るのは珍しいのか離れたところから儂らを見ている
ドクハはタバコを吸っているのか気づいていない
「どうやって勝負するんですか?」
儂は杖代わりの木の棒を吟味しながら、ゴダゴダに
話しかける
「そうだな…
あそこにある2本の木に向かって魔法を打つ
俺様が右、お前が左だ
魔法を交互にうち、先に木を倒せた方の勝ちって
のはどうだ?」
「では、それでいいですよ」
儂はルールを聞いてうなずいた
「じゃあ、俺様からいくぜ
『火の神よ、力なき我にその力の一端をお与えください』
『火球』!!」
ゴダゴダの火の玉は野球ボールほどの大きさだった
真っ直ぐ飛んだように見えたが、木には当たらず
横を通り過ぎてしまった
「チッ! 当たらなかったか…」
儂は結構驚いた
この世界では子供の魔法使い自体そこまで多くない
そして、魔法とは最初は威力も大したことのないし、
真っ直ぐ飛ばせないものだからじゃ
今のゴダゴダの魔法の威力は素晴らしいものじゃった
もしあれが2,3発木に当たれば、木は折れたじゃろう
それに、横にそれてしまったが、弾道自体は真っすぐで
魔法の操作性も悪くない
この餓鬼大将、ただの目立ちたがり屋かと思えば、
かなりの才能があるようじゃ
先ほどまでは、手加減して花を持たせてやろうと思っていた
しかし、今の魔法を見て考えが変わった
ここで一度この餓鬼大将の鼻を折る
これが年長者、人生の先輩からの贈り物
これから、努力するようになれば、この子は…
「素晴らしい魔法じゃ
儂も本気を出そう…」
つい、気持ちが高ぶって地が出てしまう
やはり才能ある若者を見ると、血が滾るのぉ
「『風の神よ』」
その言葉と同時に、魔力を練り始める
「『力なき我にその力の一端をお与えください』」
練った魔力を魔力回路に流し込む
そして、その魔力を杖に集め、凝縮する
木の枝が壊れてしまい、集める先を指先に変更
風が儂を中心に吹き荒れ、周囲の子供たちが騒ぎ始める
ゴダゴダの顔つきが変わった
「『風球』」
凝縮した魔法を木に向かって放つ
放った魔法はうねりをあげて進み、狙っていた木にぶつかった
その瞬間、爆発が起こりゴダゴダが狙っていた木も
一緒に粉々になってしまった
儂はふぅとため息をついてゴダゴダに体を向ける
「私の勝ちですね」
ゴダゴダは儂の言葉に返答することなく、
呆然と立ち尽くしていた
しかし、すぐに調子を取り戻したのか
「そ、そうだな お前の勝ちだ…
まあ、今日は調子悪かったしな!」
そう言い訳して教会に帰っていった
周りの子供たちは儂に集まり、
口々に「すごい!」「なんでできるようになったの?」
と聞いてきた
子供たちに囲まれていると、その外にシロロの姿が見えた
シロロは微笑んでこちらを見ていた
儂もその笑顔を見て、相好を崩した