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異世界やり直し日誌  作者: 塚丸エイト
11/22

獣人

獣の耳を持つその少女は一人で、文字を書く練習をしていた

茶色の髪の毛、猫のような耳

顔は暗いが、小動物のような非常に整った顔をしている

体は華奢で、折れてしまいそうじゃ

身なりからも、あまり裕福な家庭ではないことが伺える


「君は文字の練習をしているの?」


儂はできるだけ優しく声をかけた


その子は急に話しかけられたことに驚いて体を

びくりと振るわせた

と同時に、彼女の猫耳がピンとたった


「…あ、あの、はい、そうです…」


かなり人見知りのようで、声を詰まらせた


「先ほど自己紹介しました、ノア・ベルナールです

 君の名前を教えてくれないかな?」


「…シロロで、す

 よ、よろしくお願いします…」


シロロはへたくそな笑顔を浮かべながらなんとか

自己紹介してきた

やはり、なかなか可愛らしい子じゃないか

この性格のせいで馴染めていないのかもしれん

ここは儂が肌を脱ぐか…


「一人でしたら、私と一緒に勉強しませんか?

 こう見えても、私は結構、勉強得意なんですよ」


儂はそう声をかけた

けれど、シロロはなにやら困った顔をしてこちらを見た


儂は不思議に思ったが、ふと周りから視線を感じた

周りの不思議がるような、特異なものを見る目

どうやらこの子は、性格によって馴染めていないわけでは

ないようじゃな


周りの子供たちの一人が儂に近づいてきた

その子は訝しげな顔をして、儂に小さな声で話しかけた


「ノア君、その子は獣人だよ?

 いいの? 危ないよ!」


「…大丈夫です

 私はこう見えても強いですから」


儂はなんとなく察することができた

この世界では猫耳を持つ獣人は、怖がれている

というより、差別対象といってもいいのかもしれない


子供というのは、常識や周りの思想にすぐに飲まれる

まだ認知機能や判断力が養われていないからじゃ

それに、大人と違い、態度がもろに出る


この教会で、シロロはかなり過ごしにくい環境になっている

今まで感じを考慮するに、本格的ないじめはないように思える

意図的に距離を取られているといった感じじゃな


これは儂が話しかけたのは悪手じゃったかもな…

そんなことを思案していると、シスタードクハが

休憩から帰ってきた

シスターなのに、煙草吸ってていいのか…


ドクハは儂とシロロが一緒にいるのをみて驚いた顔をしていた

しかし、すぐにニヤリと笑った


「よし!餓鬼ども!

 今日は天気がいいから、外で遊んで来い!

 でも、絶対に柵の向こうに出るんじゃないよ!」


子供たちはみんな嬉しそうに声を上げた

餓鬼大将のゴダゴダも、外での活動は楽しみなのか

「俺様の魔法をみせてやろう!」と息巻いている


儂は外に出てほかの子と遊ぶか、シロロについているか

迷っていたところ、ドクハが声をかけてきた


「ノア、あんたはちょっと話がある

 シロロ!あんたもだよ!」


「わかりました」


シロロも嬉しそうにドクハに近づいた

ドクハは口が悪く、おとなしいシロロとは相性が悪そうだが、

シロロはかなりドクハになついているようじゃ


ドクハはシロロの頭にポンと手を置いて話し始めた


「ノア、あんたはこの子が怖くないみたいだねぇ

 明らかに獣人だってのに」


「珍しいなとは思いましたけど、怖くはないですよ

 ただのかわいい女の子じゃないですか」


儂は当たり前のようにそういった

シロロは儂の発言を聞いて、耳がぴくぴくしていた

照れているのかもしれない


「ベルナールのとこは、あんまり敬虔な教徒じゃなかったか

 だから教えられていないのか…」


ドクハはぶつぶつとそう言った


「ノア、あんたは今から言うことを聞いても

 シロロに対する態度を変えないと約束できるか?」


「もちろんです」


儂は即答した

こんな年齢で、差別やいじめに加担するなんてばからしい

それに、大体先ほどの子供の言から予想がつく


「即答かい…

 あんたからは子供らしさを感じないねぇ…

 まあ、それなら言おう


 この世界で最も広く信仰されている宗教はトスリキ教だ

 もちろん、この教会もトスリキ教のものだ

 

 トスリキ教の神はこの世界のすべての人間を救ってくださる

 そう… すべての()()をな」


「つまり、トスリキ教の教えでは獣人は人間には含まれない

 という意味ですか?」


ドクハは頷いた


「話が早くて助かるね

 そう、トスリキ教の教えでは獣人は魔物と同じ扱い

 この世界で獣人は差別的な扱いを受けている

 この教会の子供たちはまだ優しい方かもしれないねぇ」


「では、なぜこの教会にシロロは来ているんですか?

 それに、シスターもトスリキ教徒ですよね?」


「数年前、シロロの母親に頼まれたんだよ

 少しだけ預かってくれないか、ってね


 あたしだって最初は少し怖かった

 でも、なんかこの子に懐かれちまってねぇ

 そうしたら、もう私も情が移っちまった


 もともとあたしは変人シスターってバカにされてきた

 今更、獣人と仲良くしていても、おかしくないのさ」

 

儂は静かにドクハの話を聞いていた

その顔は慈愛に満ちており、シロロの祖母なのでは

ないかと錯覚するほどだった


儂らが話している間、シロロはドクハに抱きつきながら

ドクハを見上げていた


「…なるほど、そういった過去があったんですね」


すると、ドクハは儂の顔を見て、真剣な表情を浮かべた


「ノア、初日からこんなことを頼んで申し訳ない

 けど、あんたは他の子とは違うものを感じたから言う」


 「シロロの友達になってやってほしい」


儂はドクハの真剣なまなざしを受け止めた

まあ、もちろん儂の答えは決まっておる


「はい、喜んで」










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