月曜日
「はぁー」
どうしてこうも朝は憂鬱なのだろうか。
今日が月曜日だからか?
月曜と聞くだけでもう最悪だ。
いっそのこと月曜日を無くして火水木金土日日にしてしまえ。
鳴り止まない目覚まし時計。
陽気な日光と小鳥のさえずり。
今日も変わらずニュース番組はどうでもいいことばかり。
そして、何よりこの眠気。
どれだけ寝たって消えないこの倦怠感とぼぉーっとしたこの感覚。
「クソッ。ンだようるせぇな」
俺はけたたましく鳴り続ける目覚ましを殴りつけると、部屋を出た。
「はぁー!ねみぃー」
今日は月曜日。
より一層それが憂鬱さを加速させる。
今日もまた学校だ。
別に学校は嫌いじゃない。
月曜日という呪われた日のせいだ。
一体どうして先祖様は月曜日という呪いをそのままにするかなぁ。
魔女狩りだの錬金術だのしてる暇あったら月曜の呪いを祓ってくれよ。
「今日の朝は?」
「ごめん。今日、用意できなかったの。だから登校中に何か買って」
「そう」
俺は母さんと何気ない会話をすると、洗面所に向かった。
「おにぃ!早くして〜!!」
「あぁ?」
俺は妹に呼び止められた。
振り返ると、制服に着替え準備万端な妹の姿あった。
「なに?」
「なに?じゃない!昨日の夜のこと忘れてないッ!?」
「昨日の……夜……?」
「サイテー」
妹は俺をゴミを見るような目で見ると踵を返しリビングへと戻って行った。
「はぁー」
憂鬱だ。
「いってきまーす!」
「いってっらっしゃい!」
俺が寝癖を直していると、玄関の方から妹の元気な声と共にガシャという音がした。
アイツもう学校行ったのか。早ぇな。
ここで自己紹介でもしようかな。
俺は佐山 輝、高校二年生だ。
家族は、中二の妹、遥と小六の弟、守。
そして、サラリーマンの父親と専業主婦の母親。
なんてことはない普通の家だ。
俺の通う高校も至って普通な学校。
特筆すべきことと言ったら、校則が緩いくらいだろう。
俺という生き物を飼っているくらいだ。
「それじゃあ、俺も行くわ」
俺はテキトーに準備を済ませると玄関へと向かった。
「いってっらっしゃい!気をつけてね〜!」
「はーい」
母さんの元気な声に後押しされるように俺は玄関を開ける。
今日もまた一日が始まる。
「いらっしゃいやせー」
俺は家から出て自転車で5分ほどの所にあるコンビニに立ち寄った。
気の抜けた店員を横目で見ながら、奥のジュースの売っている所へ一直線に向かう。
今日は何にすっかな。
昨日はこのリンゴジュースだったし、その前はミルクティーだったしな。
今日は……これにしようかな。
俺はいつもとは違うミルクティーを買うことにした。
「いらっしゃいやせー」
ん?
珍しいなこんな時間に俺以外の客が来るなんて。
いつもは俺とあの気の抜けた店員がいるくらいで、他に誰もいないのに。
まぁたまにはそんなこともあるか。
俺は特に気にすることなく、パンやおにぎりの売ってるコーナーへと向かった。
ちなみに俺はいつもというかこういう時は必ず買うパンがある。
それは、照り焼きチキンサンドとミックスサンドだ。
たまごサンドも捨てがたいが、これは自分で作った方が美味しいので買うことはあまりない。
だが、照り焼きチキンサンドはそうもいかない。
鶏肉を焼くという面倒臭い工程をしたくないからな。
これはガキっぽいと言われるからあまり言いたくないが、やっぱりあの味付けが大好きなんだ。
あのなんとも言えない醤油の香ばしさと砂糖の甘さ、みりんの香り。
最高だ。
「ありがとうございやしたー」
俺は会計を済ませるとコンビニの店先で買ったミルクティーを一口飲むと、カバンに買ったものを入れ自転車にまたがった。
「やべッ!」
ふと見下ろした腕時計を見ると時刻は8時5分を回ったところだった。
始業は8時30分。
学校まで自転車で15分ほどかかる。
だがそれは地図上の話だ。
実際には、信号や坂があるせいで20分以上かかる。
つまりこれ以上ここに長居していたら遅刻が確定する。
「まずいー!遅刻はまずい!」
俺は血相を変えて自転車を漕ぎ出した。
あぁああー!憂鬱だー!!
結局俺が学校に着いたのは始業5分前だった。
「よっ!今日も遅せぇのな」
「仕方ねぇだろ」
「お前、朝弱ぇもんな」
「るせぇ!」
「そんな怒んなって」
このムカつく男は俺のクラスメイトにして腐れ縁の谷川 英治。
俺が幼稚園の頃からずっと同じ学校、同じクラスだ。
これは一種の奇跡だと俺は思っている。
そして、今日もコイツに絡まれている。
はぁー憂鬱だ。
俺は英治にそろそろ時間だと言って別れて席へと向かった。
俺が教室にやってきて3分後担任の先生がやってきた。
「おはようございます」
ほわほわとした声が扉を開ける音を包み込むように教室に響いた。
ウチの担任は新任の美人で巨乳な女教師だ。
そのためか、クラスの男子は朝から元気だ。
まったく。コイツらは朝からうるせぇな。
月曜日の朝っぱらかうるせぇな。
こっちは寝みぃんだよ。
「ふぁー」
俺はあくびをしながら机に突っ伏した。
「今日も眠そうなのですね」
俺の失礼極まりない態度に怒るでもなく、まるで天使のような微笑みをしながら隣の女神が俺を見ていた。
「ああ。まぁな。俺、朝弱いからな」
彼女の名前は桜ノ宮 カリン。
日本人にはない端正な顔立ちと金髪が目を引くクラスのいや、学園のマドンナだ。
そんな彼女は俺の隣の席だ。
「へぇーそうなのですね」
俺の何気ない返事にも目を輝かせて聞いてくれる。
あぁーカリンたんマジ天使!!
「輝様は低血圧なのですか?」
カリンたん(いやいやこの呼び方キモイな。これからはやめます)は、俺のことを心配そうに見つめた。
貴女様は聖女様ですか?それとも現人神様ですか?
「いや、そんなことないんだけどさ。朝起きるのが辛いんだよな。分かる?」
「うーんそうですわね」
まずい。カリン様を困らせてしまった。
確実に何言ってるのかしらって顔をしてらっしゃる!
輝史上最大の失態。
「それじゃあ朝の会を始めます」
俺と女神の会話をもう一人の女神が遮った。
クラス委員の号令で朝の会が始まった。
俺が学校が好きな理由があるとすれば、隣の席に天使がいるからだろう。
その絶対的な聖性に当てられて俺のような荒んだ心の持ち主さえも癒す女神の存在が俺を学校へと向かわせているのだろう。
こんな日もいいかもな。
月曜日やるじゃないか。
今日だけは月曜日という呪われた日も女神カリンに清められたのかも。