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さくら

作者: 海風澪

出逢ったのは、桜が満開になったある昼下がり。

ありがとね。

伝えたいけど、伝えられない。

もっとそばにいてほしかった。

もっともっと―――。



「―――ただいま、さくら。」

そして今日も、手を合わす。

しんと静まり返った、清潔な空間。

ここは、―――ファミリー・メモリアル。つまり、ペット霊園。


この一角に、さくらは眠っている。


2009年9月28日没。1歳。


美緒が生まれたころから、そしてまた新一と志保のいたころの工藤家を知っている。

美緒にとっては、たったひとりの、かぞく。



霊園の職員が、感動したように、さくらの遺影に向かって、語りかける。

「さくらちゃん、よかったねぇ。いいひとに、めぐりあえて。

こんなふうにしあわせになれる野良猫が、増えるといいんだけどね。」




―――――そうだったの、だろうか。さくらは。

わたしと一緒に暮らして、楽しかっただろうか。満足してるだろうか。



―――――――出逢ったのは、さくらが満開になった、ある昼下がり。


美緒は、1歳、か、それくらい。

さくらは、1か月。まだまだ子供の、猫。子猫。

さくらに触って、ばいばい、と、手を振った美緒に、ついてきた。

それが、出会い。




外へ出て、ふぅと、息をつく。

また、言えなかった。



「さよなら」を。


さくらが亡くなった日から、何度も、何度も。

云おうとした。


けど、言えない。



ありがとう、は言える。

でも、さよなら、は言えない。


――――――どうして、だろう。


亡くなったことを、認めたくないから?

かぞくが、居なくなってしまったから?





―――――ちがう、ちがう。




――――ほんとはただ、そばにいてほしいかった――――



あかい、紅葉が目の前を通り過ぎていく。

いつ、言えるかな。












―――――出逢ったのは、桜が満開になった、ある昼下がり。

     まるで姉妹のように、過ごした季節。

     いつまで、忘れないでいることができるだろうか――――。



―――――いまはまだ言えないことば。

     いつか言えるだろうか。

     そのときは、笑っていられるだろうか。

     そうして時が過ぎて、思い出は色あせて。

     みんなのこころから、さくらがいなくなっても。

     わたしだけは、覚えていたい。

     それが、とおいむかしのおもいでの、ひと欠片でも、いい。

     

     さくらとずっといっしょに、いられますように。

     

     去年の七夕の願い事。


     でも、来年からは。

 

     またいつか、あえますように。


     それが1年後なのか、10年後なのか。

     来世なのかは、わからない。

 

     でも、あえればいいな――――――――



―――――さよならがいえたとき。

     そのときはきっと。

     「またね」も、いえたらいいな、なんて。





















――――――――別れたのは、秋の風が吹き始めた、9月。

あらすじの、いえるかな、あのことば、は、さよなら。

      あえるかな、またいつか、は、またね。


                            です。

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