第一話 リンク
スマホ恋愛シミュレーションゲームアプリ『ラブリープリン』通称『ラプリ』、よくあるゲームだけど、僕はどハマりで、家では共有しているタブレットでプレイ。
かれこれ300時間を超えている。
スチルやルートも全回収、フルボイスもスキップせずに堪能する。
攻略サイトなんて言語道断! 何度同じルートを周回したことか……。
ようやく最後の1人、彼女を攻略すればフルコンプだ。
こうすればこんな反応、あーすればあんな反応と、今や恋愛マスターの僕、桃栗みとし。
言うまでもないが、リアルで彼女なんて出来たことはない! 断じてない!
……そんなに強く言うことでもないけれど。
彼女は……出来たら良いな、とは思うし、高校生になれば何か変わるかなとも思ったけれど、入学してから半年、ゲームによくあるような出会いも無い。
それを求めて入ったアニメ部も、部員は僕と立田の2人だけ。
アニメは、今や日本文化の代表だろうに。
ここ、奈三鷹高校は数年前から制度改革だかで、進学校化に舵を切ったらしい。それが関係あるかは分からないけれど、先月まで居た2年生たちも退部してしまい、このままいけば来年は廃部だ。
何故か僕はアニメ部部長……って、話がそれた。
そんなことよりも、僕の11インチのタブレットの画面いっぱいに、頬をピンクに染めて、待ち焦がれている彼女の顔が映し出されている。
まるで等身大。
ラストシーン、僕からのキスを待っている。
彼女の可愛さと、これで終わってしまう寂しさで胸がキュッとなる。
ドキドキしながらその唇に——もちろん、指でタップなどしない。
変態の僕は、あ、自分で変態って言っちゃった。
でも、男ならみんな憧れるはず! さておき、僕は自分の厚い……もとい、熱い唇でタップする——!
直前、画面が突然乱れた。
あれ? 画面右上の表示が5Gに、4Gに、WiFiにと点滅するように繰り返されている。
電波がおかしい? と思うが早いか、画面がブラックアウト。本体の電源が落ちた。
何? 何? 何が起きた?
すぐさま電源を入れる。
タブレットは普通に起動するも、『ラプリ』自体は落ちているようなので、こちらも立ち上げて僕は驚愕した!
映し出されたのはプロフィールの入力画面。これまでのセーブデータが全て消えていた!
ふわわわわわわ、まじで? こんなことある?
時島さなちゃん? 美ノ川ちりちゃん? 沖野つつじちゃん? 篠平みこもちゃん? 乙馬きょうこちゃん? そしてクリアもしていない、甘染いちやちゃん? どこ行ったあぁぁぁ。
「おんぎゃああああああああ!」
僕は生まれたての怪獣のような奇声をあげた。
放心状態の僕の耳に「何時だと思ってるの!」と、お母さんの怒鳴り声が遠く聞こえる。
普通のマンション住まいで3DKだから、壁一枚隔てた隣にいるのにね。
ごめんなさい、もう夜の11時を過ぎてました。
アプリを何度立ち上げても駄目だった。
僕の368時間……まてよ、日数にして2ヶ月もかからずここまでクリアしたんだった。
余裕じゃないか!
これは僕に与えられた試練! そう思った僕のタップは早かった。
プロフィールを入力して初めからスタートだ!
このゲームの1日は午前、午後、夜の三つのパートに分かれていて、それぞれのパートは5、6個の起こりうる分岐がアイコン表示される。
例えば午前なら『学校』や『サボり』、『バイト』とかの行動アイコンを選ぶと、対応した女の子と出会うようになる……何だこれ?
行動アイコンには行動しか無いはずなのに、女の子の名前のアイコンがある。
九九里翔子? こんな名前のキャラクターはいない。
くくり? なんか聞いた事があるような……ああ、学校だ。校内放送で言っていた、いつだかの試合で表彰されたとかいうバスケ部員。
変わった名前だな、と印象に残っていた。
下の名前は覚えてないけれど。
確かにそんな名前だった。
つづく