表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
夜空を見上げる少女等は孤独  作者: 九頭坂本
3/30

野良猫少女

 スマホの画面いっぱいに、カラフルなアプリのアイ

コンが並んでいる。誰と繋がるわけでもないSNSや、

普段全くやらないゲーム、仕様用途の分からない、初

めから入っていた謎のアプリ。

 子供のおもちゃ箱か、カラスの巣か。インストール

はしても、アンインストールは中々しない、僕の面倒

くさがりな性格が散乱したスマホのホーム画面に顕著

に現れているのであった。

 その中で、友だちがお父さんしかいないL I E Nの緑

のアイコンと、アカウントも作っていないTwitterの青

いアイコンの間に、異彩を放つアプリがあった。

 それは、極めて鮮やかな赤色の中に、単調なフォン

トで文字が書かれている、というだけの、非常に分か

りやすく、なんだかしょぼい見た目をしていた。書か

れている文字は、黒い字で二文字。爆発。

 アイコンの下に記載されているアプリ名は、超新星

爆発、であった。英訳するならば、スーパーノヴァ。

 そう、これは僕が作成した超小型核爆弾、スーパー

ノヴァの遠隔起爆装置である。いつでもどこでも、凡

人が友だちへLINEをするような気楽さで、僕はこの街

を吹き飛ばす可能なのだ。

 そして、アプリは、単純明快な構造をしている。

 開くと、画面中央に黒い、ドクロマークの描かれた、

アニメでしか見たことのないようなボタンがある。そ

れをタップすると、最終確認のために、ニ択の質問を

される。

 芸術は?

 選べる選択肢は、二つ。『無回答』『爆発だ!』。

 爆発だ!をタップすると、すぐさま僕のノヴァちゃ

んが起爆。沢山の人間を巻き込んで、街を消し炭にす

るというわけだ。

 天才は、理解されない。

 それゆえに、僕はスマホで凡人のやっているような

SNSは出来ない。だが、核爆弾の起爆は出来る。

 しかし、現状、このアプリは凡人だらけの社会で生

きる中で苛まれていく精神をなんとか保つために、僕

はお前らの命を数回のタップで奪えるのだ、と強がる

ことにしか、役に立っていない。

「一番初めに吹き飛ぶの、僕ん家だしなあ」 

 スマホの電源を切り、スカートのポケットに入れて、

何も無い、広大な空を見上げ溜息をつく。

 これだけのものを持ちながら、なおも凡人の世界に

なす術なく屈するほかないという事実に、改めて、ど

うしようもなく僕は独りなのだと実感する。

 僕は孤独であるが、人間は決して一人では生きてい

けない、ということを想像出来ないほど、自閉的な人

間ではない。だから、たとえ一秒で僕以外の全人類を

滅ぼせるような兵器を持っていたとしても、僕はこの

世界をひっくり返すことは出来ないのである。

「あー、だるいなあ」 

 背負っている、教科書の沢山詰め込まれたリュック

の重さが、体に溶け込んだ一日分の疲労感を増幅させ

る。体育の時間は、相変わらず最悪だった。僕は、運

動が苦手なのに加えて、ペアを組め、と言われても友

達がいないから相手が見つからない。耐え難い劣等感

に襲われ続ける五十分間だった。

 時刻は、大体午後四時。僕は、今日も一日、学校と

いう名の監獄の中での生活を終え、片道三分の通学路

を歩き下校中であった。

 この時間の住宅街には、ちらほらと人影があった。

 僕と同じく下校中の小学生達や、新聞配達をしてい

るおばさん、近所のコンビニで買ってきたと思われる

ホットスナックを美味そうに食べ歩く太ったお兄さん。

 僕は、彼らの飾る住宅街を独り、歩き進めていく。

「ニャー」

 聞き覚えのある猫の鳴き声が聞こえたのは、僕の高

周波ブレードが切り裂いた電柱を過ぎたあたりでだっ

た。少し癖のあるその声は、僕の勘によれば、間違い

なくあの、僕に懐いてきたあの猫のものだ。 

 しかし、その声色の違和感に、すぐに気がついた。

 痛がっている、ような、苦しそうな、感じがした。

確証はない。もちろん僕には猫語は分からないし、心

については凡人よりも理解に乏しい。だが、不思議と

直感的に理解していた。

 あの猫は、虚しく救いを求めている。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ