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さがす

「もうこれ養生じゃなくない?」

『そうだな。興行かなあ』


 巨大な鳥の黒い羽を結界の中で毟りながらシアがぼやく。

 猪突牙獣を討伐してから早三日。


 師匠が連日魔獣を連れてくるので、シアは毎日魔獣を討伐していた。

 昨日は双前牙獣そうぜんがじゅうという巨大な鼠で、今日は怪鳥烏けちょうがらすという巨大な鳥である。


 アキが興行と言ったのは、屋敷の警備兵たちがシアと巨大魔獣の戦闘を観戦するようになり、討伐後はその肉が調理され振る舞われるようになったからだ。

 そのおかげで警備兵たちとはすっかり仲良くなったシアである。


「シアルフィーネ様!今日もいい試合だったぜ」「おっ、今日は鶏肉か。昨日の鼠も美味かったなあ」『鶏ガラスープのラーメンが食いたい』「もう俺たちより強いよな。シアルフィーネ様は」


 警備兵に混ざってアキが何か言っていたがシアは無視して、結界の外から声援をくれる彼らに手を振る。


「さすがに毎日はおかしくない?最初は聖女として役立つ魔術を教えてくれるはずだったのに、いつのまにか戦闘がメインになってるんだけど」

『シアの魔法、もとい俺のナノマシンは破格の性能だからな。攫われたりしないよう、護身のために強くなっておいた方が良いというのは正論だろう』


「領都でも魔獣を持ってくるのは週に一回くらいだったのに?」

『近辺で何かやっているのかね、ラヴィちゃんは』


「またそうやって師匠の名前を気安く呼ぶんだから。ああ見えてかなり年上なんだから敬いなさいよ」

『年齢、というか製造年月日なら俺のほうが森人エルフ相手でも圧倒的に先だけどなあ』


 師匠は昼過ぎに屋敷に何処からともなく魔獣を連れて帰ってきて、結界を張りその中にシアと魔獣を放り込む。

 シアが討伐後は仮眠を取って出来上がった飯を食い、夜には再び何処かへと姿を消していた。


「師匠、何かやってます?」

「ん?なんの話だい?いやあ、この辺は平和だから獲物が全然いなくてさ。探すのに苦労してるんだ」


「なら普通に魔術の勉強でもいいのですが」

「いやあ、警備兵のみんなのご期待に沿いたくてねえ」


 普段から他人に興味の薄い師匠なので、やっぱりどうにも様子が変だとシアは感じていた。

 様子が変といえばアンドレイも様子がおかしい。


 猪突牙獣を倒した以降、シアへのちょっかいを一切しなくなっていた。

 屋敷の廊下ですれ違っても、目線すら合わせず通過してしまう。


『多感な年頃だからな。身分はともかく学力と腕力でも敵わないと分かって、すねちゃったんじゃないの』

「まあめんどくさくなくていいけど」


 なんてシアが思ったのも束の間、その夜にもっとめんどくさい事態が発生する。


 屋敷からアンドレイの姿が忽然と消えてしまったのだ。

 彼の両親は相変わらず避暑に訪れた貴族たちの相手で不在のため、執事やメイドたちが顔を真っ青にして屋敷周辺を捜索していた。


『あーあ、シアのせいで家出しちゃったんじゃないか?』

「なによ、なら私がメイド服を着てあいつの残した野菜を食べればよかったの?」

「シアルフィーネ様、お耳に入れて頂きたい話がございます」


 傍から見ると不機嫌に独り言を呟いているようにしか見えないシアに、側仕えのマリスが報告する。


『ふむふむ、つまりアンディ君はずっとラヴィちゃんへ弟子入りを志願していたのか』


 アンドレイの側仕えのメイドと情報交換を行なっていたマリスによると、初日の夜から度々アンドレイは師匠へ弟子入りを志願し、断わられ続けていたという。


 ちなみにアンドレイのメイドたちも魔獣の美味しい肉料理を進呈されてからは、シアへの態度がかなり軟化している。

 マリスとしては主を侮辱された怨みが消えることは無かったが、情報を得るため我慢して交流した成果であった。


「昨晩も〈流星〉様を追いかけて屋敷の外に飛び出していったのを、門番が目撃していました。その時はすぐに門番が追いかけたので事なきを得ましたが……」


「今晩も師匠を追いかけて行ったのかな?」

「その可能性が高いと思われます」


 しかも今回は誰にも見つからずに屋敷から脱走したのだろう。

 話を聞いたシアは一度深く溜息を吐くと、腰掛けていた自室のベッドから立ち上がる。


「訓練服に着替えるわ」

『煙たがってたわりに探す協力はするんだな』

「めんどくさいけど放っておくわけにもいかないでしょ。アンドレイ様に何かあったらお義父様が悲しむもの」


『またまた~、そう言ってもアンディ君のことがそこそこ気になってたり』

「そういうのじゃないから」

『ア、ハイ』


 ぴしゃりと否定されて、冷やかしていたアキが押し黙る。

 シアの言葉しか聞こえていないはずだが、マリスはそのやり取りを微笑ましそうに見ていた。


「私も御供致しましょうか?」

「ううん、ちょっと本気出すから大丈夫。マリスは私が屋敷に残っているつもりで待ってて」


『お、細かい所に気が回ってるねえ。貴族のご子息、ご息女が二人同時に居なくなったら、屋敷の連中の胃がマッハだろうからな』

「うっさいなあ」


 訓練服に着替えたシアはマリスに見送られつつ、二階の自室の窓から外に向かって飛び降りた。

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