異世界へ
耳が痛くなる程の観衆の大歓声。
ワンパターンな罵詈雑言。
それら全てをその身に受けながら俺は連れられる。
すると、首に掛けられたネックレス型のAI『ルナ』がその所有者に声をかけて来た。
「……本当にここで死ぬつもり?」
「何度も言わせるなルナ。皆が俺の死を望んでいるんだ……だったら素直に死んでしまおう」
「……平和に過ごしたいから君は世界に対し少数で挑み、見事勝ってのけたというのに……」
「こんな地獄で一年も平和に過ごせたんだ。名残惜しいが、これでよし」
「君ねぇ……」
ルナの溜息が聞こえる。いつも聞いていた溜息もこれで最後になると思うと、何ともやるせない。
階段を一段、一段と踏み締め、付いた先には年季の入ったギロチン。
俺事『東雲 雄一』は、敵の策略で世界に裏切られ今ここで、話の幕を閉じる。
恐怖を抑え、震えを抑え、俺は戦友であるルナに問いをした。
「さぁルナ、誠に御勝手ながら一緒に死んでくれるかい?」
「ああもう!いいよ、一緒に死んでやろうじゃないか!苦楽を共にした仲、こんな所で裏切れないさ!」
「救った世界は裏切ったけどね」
「あははは!それを言っちゃあ駄目だろう!」
そんな他愛のない話をしながら、首を固定される。
無理矢理固定されると思ったが、案外優しくしてくれた。……だが民衆はそうでもないらしい。
「死ねぇぇぇぇぇぇ!!!」
「このゴミクズ野郎がぁ!!!!」
「裏切り者ぉぉぉ!!!」
……うるせぇ……。恩を仇で返したお前らが何を言う……。
「何か言い残す事はあるか?」
死刑執行人が話しかけて来た。お前、俺達が話してる最中一切注意して来なかったが、喋れたんだな……。
「あぁ、1つだけ言いたい事がある」
「やったれぶちかましてやれ」
俺は息を吸い込む。まるで素潜りをする直前の様に多く吸い込む。そして、全てを吐き出した。
「恩を仇で返しやがったお前らぁぁ!!!一先ず全員死ねぇぇ!!!!」
「「「「「!!!!!!」」」」」
「俺達がどんだけ身を粉にしてお前らに尽くしたと思ってる!!戦争の原因ぶっ潰してやったのに感謝こそはされ、暴言吐かれる筋合いはねぇんだよ!!!このカス共がぁぁぁ!!!!」
「もっと言ってやれ!」
「人でなし!!モブ!!路上の石ころ!!神から天罰下れ!!!」
「OKよく言ってくれた!」
「「「「「…………………」」」」」
ははは!急に暴言吐かれて全員固まってやがる!最後に死ぬんだからこれ位いいだろ!
ほら皆んな上向いて固まっ……上??
「上になんかあるのか?」
「すまない、ここからじゃ何も見えない。しょうがないから『神域・千里眼』を許可する。」
「了解」
ペンダントが光る。それと同時に急激に視野が広がった。
これはAIであるルナが許された神秘の1つ、『千里眼』だ。
その広がった視野で上を覗くと…‥俺は絶句した。
「どうだった?なんだった?」
「……俺の頭上の空に穴が空いて……翼を生やした女性が出て来た……」
「は?どう言う意味?」
「そのまんまの意味」
「……は?」
言葉にした通り、頭上の空で巨大な穴と翼を生やした金髪の女性がそこに居た。
超常現象が起き、その場で動けなくなっていた皆を差し置いて、女性は喋り出す。
「おぉそこの英雄よ!こんな所で死んでしまうとは可哀想に!そして勿体無い!私の世界なら貴方程の偉人は大切にされるというのに!あ、そうだ!こっちに連れてこればいっか!皆んな必要無いんだよね?じゃあ持っていきまーす!」
「か、勝手に決めるなぁぁ!!??」
皆が唖然としてる中ギロチンが粉砕、首を掴まれて穴に投げ込まれた!
「はぁぁぁぁ!!??」
「えぇぇぇぇ!!??」
「バイバイこの世界の人たち!ハハハハハ!!」
こうして俺とルナは、この女性の勝手で連れてかれた。この世界を置いて。
穴の中に入り数秒した後、俺達は真っ白な部屋に居た。
「ど、どう言う事なんだ……!?」
「り、理解不能だよ君ぃ……」
「ごめんね、あのままだと君たち死んじゃいそうだったから勝手に連れて来ちゃった。それとも、あのまま死にたかった?」
「い、いや、助かる。その善意はしっかりと受け取ろう。だがその前に……」
「そうだよ!貴方は一体何者!?」
空に穴もあるが、背中に翼を生やしてる時点でこの者は人間じゃない。敵意が無いのは分かるが、それ以外は全く分からない……!
すると、目の前にいる女性は軽いノリで答えを言う。
「御紹介遅れました!私は貴方とはまた別の世界の女神『アステラ』!勇者召喚の為こっちの世界に来てたんだけど、たまたま君達を見つけたんだよ!」
「「め、女神ぃぃぃ!!!???」」
目の前に居るのが正真正銘の神!?確かに先程の所業、神がやったのなら違和感はない。
ルナの使える神秘も神域からアクセスして使ってるから神がいる事も可笑しくはない。
一旦、言ってる事が本当かどうかルナに聴いてみよう……。
「なぁルナ。お前的にどう思う」
「若干波長は違うが、神秘を使う時に受ける神気と同等の力を感じる。あぁ、間違いなく本物の女神様だよ」
「お前が言うならそうなんだろうな……。ははっ、人生何があるか分からないな……」
「全く同感だね……」
初めて神と会った。長年神に助けられたと言っても過言では無い人生、やはり驚きは隠せないが、何処か心に来るものがある。
その時、アステラがいきなり話しかけて来た。
「感傷に浸ってる事悪いけどこっちもあまり時間が無いからね。端的に説明して早速異世界行ってもらうよ!」
「「え、ちょっとまっ……」」
「本日は異世界転移便にご乗車頂き有難う!今回は勇者召喚の方は定員オーバーだからそのまま送っちゃうよ!後、今首に下げてるAIちゃんが使える神秘は諸事情で制限掛けるけど、後々使えるようになるから安心して!」
「まぁ、それは大丈夫だけどそれよりも話を……」
話を止めようとしてもアステラは続ける。
「君達が転移してやる事は特に無し!自由に世界を旅してね!あ、君が前の世界で使ってた武器も後で送っとくね!それと、AIちゃんも一緒に冒険したいでしょ?しょうがないなぁ!そこまで言うならペンダントと肉体が直ぐに切り替われる身体をあげよう!」
ボンッと音と共に目の前には銀色の長髪に白い服の女の子が現れた!
「なんか身体生えたぁ!!!」
「えぇぇ可愛いなぁぁ!!!」
「え、ありがとぉぉぉ!!!」
「で、どういう事だ??!!」
「知らないよぉぉぉ??!!」
やばい、ルナも俺も混乱して来た!いや、元々現状なんて飲み込めてないけど!
そんな彼等にアステラはまだまだ続ける。
「OK!準備は完了!荷物は持った?持ったよね!!じゃあ行ってらっしゃい!揺れに気を付けてね!バイバーイ!!!!」
「「だから話を聴けぇぇぇええええええええ????!!!!!」」
2人は息をつく間も無くアステラによって穴に飛ばされた!
話の聴かない女神に対しての怒りの断末魔を残しながら2人は異世界へ。
そして気づいた時には俺らは草原に突っ立っていた。
周りには少量の木々、脛辺りまである雑草、そして車2台通れる位の広さの一本道。
そして、上空には赤色の光沢のドラゴンが飛んでいた。
「……君、この時ってなんて言うか分かる?」
「分かるかンなもん。処刑間近で神に異世界飛ばされて放心状態の俺らにピッタリな言葉なんざ、あったら恐怖覚えるわ」
「……だよね……」
まぁ、今日は本っっっ当にいろんな事があったけど、本っっっ当に状況理解出来ないけど、一先ずは自由という事は分かった。
「まぁ、今俺達はこうして生きてこの地に立ってるわけだ。あの神の思惑は分からないけど、この際だ!自由に冒険でもするか!」
「はぁ、君って本当に環境の対応早いよね……。まぁ、私も身体を貰ったし歩いたり走ったり物食べたいな!」
「ハハハそれはいい事だ!さぁ、一先ずは街にでも行くか!」
一旦難しい事は忘れて、今を楽しまなくては!
と、その時ルナが気付いた事がある様に固まった。
「?ルナどうした街行くぞ?」
「ねぇ聞きたいんだけど、どうやって街行くの?場所知らないよ?」
「あ、そうじゃん。ならしょうがない千里眼の許可出して」
「さっき神秘制限するよって言ってたじゃん」
「え、あ、そうじゃん。え?え?え?じゃあこっからどうするの?」
「知らないよ!!」
「えぇ!!!!どうしよう!!!」
またもや放心状態の2人。その時2人は同時に同じ事を思った。
「「勝手に送るなら地図くらい渡せよぉぉぉぉ!!!!!」」
2人の断末魔は草原に響いた。まだまだ旅はこれから……というか始まったばかりなのにいきなり前途多難。
2人は仕方なく適当に歩いて行くのだった……。