サクラノキノシタニハ・・・
本作は私の大好きなとある漫画を読んで感じたことを書き留めて出来た物語です。
…―高校一年の春、"それ"は突然舞い降りた。
―桜の花びらとともに―…
入学式の帰り道。
俺はこれから始まる新生活を思い浮かべ、鼻歌を歌いながら桜並木を歩いていた。
びゅうっ!!
突然の突風。
桃色の雪が降っているかのように桜の花びらが舞う。
「うわっ!キレイだな…あっ!!」
一瞬舞い散る桜吹雪の中に一際美しい桜を見た、と思った。
その容姿は淡麗としか言いようがなく、桜色のワンピースがよく似合う女性だ。
俺は一瞬でその女性から目が離せなくなった。
…―そう、俺は恋に落ちてしまったのだ―…
俺はクラブに入らなかった。
決まって夕方になるとあの並木道に現れる彼女に会うために。
大好きなサッカーも辞めた。
親から夕食の時間だと催促のメールが来るまで話すこともあった。
しかし、どんなに話しても彼女はどこに住んでいるのかも教えてくれなかった。
遊びに誘っても答えはノー。
ボーリングやゲーセンや映画も、首を縦に振ってくれることはなかった。
ある日、俺はさりげなく彼女の手を握った。
あれ…?冷たい…
俺は少しだけ違和感を感じた。
暫くして、彼女はあの並木道に現れなくなった。
勝手に手なんか握って、嫌われてしまったのだろうか…
そうだとしても、まだこの思いすら伝えてないのに…
気付いた時には俺は彼女を探していた。
宛なんかないのに。でも見つけられる気がしていたのだ。
何かに引き寄せられるかのように俺はある公園にたどり着いた。
そして、桜の木の下で立っている彼女を見つけた―…
しかし、何かがおかしい…
そうだ…足がない。
「…君は人間ではなかったんだね…」
彼女は頷き、静かに話し始めた。
「…私はこの桜の木。でも、もう寿命みたいで、この場から動けなくなってしまったわ…。最初は人間をからかうだけのつもりだったの…貴方に会うまではね。最期に楽しい時間をありがとう…」
桜の木はだいぶ朽ちている。
「…俺は君が好きだ!人間でなくても構わない!君と一緒にいたいんだ!俺にできることは!?」
「…嬉しいわ…それなら―…」
*****
「…―あれ?ここで終わってる…っだよ、オチまで書けよなぁ」
俺は公園で見つけた古びた日記のようなものを読んでいた。
気付けば夕暮れ。読み始めた頃には周りで遊んでいた子供達も、いつの間にか帰路に着いたようだ。
5月と言えど日が暮れるとまだ寒いな、俺もそろそろ帰るかな…
そう思って買ったばかりの書籍と古びた日記を拾いあげ、腰をあげジーンズに付いた土や草を掃っていると…
「…オチが気になるなら教えてあげましょうか…」
…そうか、俺の後ろの木は桜だったのか―…
【解説】
日記のようなものは、桜の木の妖(以下:妖)が書いたものでした。
何故書いたのか…
それは、人間を食べるために、自分の近くにおびき寄せる"餌"が必要だったから。
何故、人間を食べようとしていたのか…
それは、妖(桜の木)が自分の寿命はもう長くないと悟り、人間を喰らえば、寿命が延びるんではないかと考えたからでした。
この話は、ある漫画を読んで考えました。
人間は様々なものに妖精や妖怪、神が宿っていると考えています。主に自然のものに宿っていると考えられている場合が多いですよね。
しかし、人間の勝手で自然のものに危害が及んでいるのが現状です。
そうなると、それらに宿っているものは人間を恨み、逆に人間を襲い始めるのではないかと、私は考えてこの話を作りました。
ちなみに、この妖怪は日記のようなものに出てくる桜と同様に、死期が近かったため、人に化けて人間をおびき寄せることができなかったので、わざわざ"日記のようなもの"を餌にするという回りくどいことをしたのでした。
つまり、日記のようなものに書いた内容の途中までは、その妖怪の願望の表れですね。死期が近くなったのは、人間が環境を変えてしまったからということもあり、その恨みからこの妖は人間を襲おうとしたのでした。
ちなみにひとつメッセージを組み込みました。
まず、着目して頂きたいのが「タイトル」です。
本文中に出てくる"桜"などは普通に漢字や平仮名で記載されていますが、「タイトル」は何故か"片仮名"になっています。
これは本文中の"片仮名"に注目させるためです。
本文にはいくつかの片仮名の単語が出てきます。
キレイ ワンピース クラブ サッカー メール ノー ボーリング ゲーセン
そこで次に注目するのが「タイトル」そのものです。
タイトルは
「サクラノキノシタニハ…」
⇒"サクラノキ"の下には…
つまり、上記の単語の中の "サ"、"ク"、"ラ"、"ノ"、"キ"の下の行の文字に注目します。
そして、順番もばらばらなので並び替えると、
サクラノキ
↓↓↓↓↓
食ってやる
というメッセージが出てきます。