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月夜に照らされ、銀色の髪が風になびく。
少女はどこか自嘲気味に、監視対象の男をうかがっていた。
「逃げるなら逃げれば良いのに」
グループ幹部の一員である少女は、『とある地域の調査』を命じられた男に対して、どうしようもない葛藤がある。
この世界が崩壊する前、少女はインターネットサイトの『YAY!TUBE』で配信をしていた。顔は晒さず、キャラクターを操作して、そのキャラクターになりきってアイドルをしていた。
ある時は、リスナーのコメントに笑ったり、またある時は、リスナー同士の喧嘩が始まってしまって慌てたり……本当に、他愛のない配信をする日々を過ごしていた。
少女は『YAY!TUBE』というサイトで結構の古参で、配信をしている時こそ、自分が生きていることを強く実感していた。
とはいえ、ネットの活動をプライベートの友人に話すことはなく、リアル世界では内気で、直接人と話すのは苦手だった。これは今もそうだ。
そして、世界の崩壊が起き、そんな生活に転機が訪れる。
少女にとって幸運だったのは、昔からの幼馴染が、今所属しているグループリーダーとなって、生活を保障してくれたことだ。
しかし、何より不幸だったのは、そのグループが――こんな崩壊した世界ではあるけれど――社会通念上、非道なことを率先してする集団になってしまったことだ。
ぼんやりと空虚な思考に埋もれながら月を見上げて、その後に、監視対象の男へ視線を戻す。
「逃げるなら逃げれば良いのに」
もう何度目かわからない独り言が、ため息と一緒に外へもれだす。少女の視線は、監視対象の男が着ている服に注がれていた。
――それから2日後、監視対象の男は襲われ、がれきの中に消えて見えなくなってしまった。