第2章 木曜日のタイガー
僕は仕事ができない。
手先が不器用で、コミュニケーションも苦手、人の顔色を伺うことも多く、自尊心は低い。
自己表現は、殆どしてない。
会社で評価される人間とは、剣士や魔術士ではないらしい。
僕は刀や銃の所持を法律上許可された立場で、私服警察に近い。
ヒーローに憧れていた。
テレビに映るその姿は、まさに僕の理想だった。マスクを被ったその超人の姿に、僕は憧れたものだ。
僕は、自分が考えたスーパーヒーロー、ライターマンになれるように筋トレもしたし、剣術を学んだり、武術、魔術、呪術、銃や武器の使い方ありとあらゆる討伐スキルを磨いた。
しかし、ある時気づいてしまった。
資本主義社会における、正義とは仕事ができることである。つまりどれだけ強くても、討伐ができても、決して社会的な強さにはならないと。
僕は、初め専門職を目指した。
フリーランスの魔術士、剣士、戦士、勇者、魔術士等。
戦闘系の資格を目指したのは、学術系の資格よりも技能面での評価が決まるため、キャンプで狩猟の繰り返した結果、害獣や、魔獣を狩ることが多く、また筋トレや呪術の練習も趣味の一つであったため、楽しく覚えられた。
それを仕事にできれば良かった。
だが戦術は、誰でも高められるし、勇者を目指す者も多い。
そのため、フリーランスの勇者であっても仕事が得られない兼業勇者が増えた。
ライターの先端を剣に変えて、擬似的な剣を作り害獣を討伐するスキルは田舎では時に役立った。
強いだけの人間は、価値がない。
強くて、魔法が使えて、パソコンも使えて、コミュニケーションもできる。
なんなら都会に害獣は殆ど現れないし、勇者によって編成された害獣討伐部隊が戦う。
たまに、害獣討伐部隊がいないエリアに害獣が出ることがあり、そういう時に害獣を倒すと多少は評価される。
が、実益に繋がることはない。
害獣討伐部隊だって、隊員よりも、仕事のしてない害獣部隊管理本部の管理職の方が儲かるのが現状だ。
何故なのだろう、貧富の格差の広がり方は、面白い。
何故なら500年前では、英雄だったであろう勇者の年収が、現在150万ウェン、そして殆ど仕事をしないで空を眺めているような無能管理職の年収が1000万ウェン超えだったりする。
現代社会において稼ぐスキルというのは、コミュニケーション能力、営業スキル、ポテンシャル、法学や医療技術、あとは運やその人自身のエンターテイナー性等だろう。
今の時代、介護士や保育士よりも勇者の方が年収が低いと呼ばれている。
不思議な話だ、こんなに年収が低い勇者になりたがる馬鹿なクソガキがまだいるなんて。
朝、少しだけ筋力トレーニングをしてから出社し、タスクをこなす。
「あ、おはようございますモシモさん。」
上司のモシモさんに声をかける。
近くのデスクのもんじくん、ソシテさん、シカシさん、エースさん、ジョインくんに挨拶をし、業務を始める。
カタカタ、カタカタとキーボードに情報を打ち込んだり、打ち合わせをしたり、自社の商品を他社に営業しに行ったり、時折書類整理や、備品の補充をしたりする。
社内ではめっきり信頼を失っているだろう。
それでも良い、まだ働けているのだから。
だが、僕は仕事ができない無能だから、どれだけ努力しても会社で目立てる存在になることは難しいだろう。
良い、それでも。まだマシ。
少なくとも勇者よりは、安定した職業だ。
ランチタイムは、少しだけ喫煙をし、ランチを食べて、仕事に戻る。
たまに仲の良い同僚と会話したりするし、上司や上長との打ち合わせもある。
そして、ランチタイムを早めに終えて仕事をする。
定時まで仕事をしたら、残業申請は通らないため、サービス残業をするか、上がる。
これを月曜から金曜日まで繰り返す。
今日は木曜日、これで良いのか悩むところだ。