第13話 希死念慮
こんな毎日が続けばいい。この日常を僕は愛していた。
仕事なんてしないで僕はずっと3人で遊んでいるだけで人生が進めばいいのに、そんなことを思った。
ルクとメイと僕の3人はそれぞれの得意な戦術で戦った。
僕はライターの先端を鋭く尖らせ、炎を剣として扱うバスタードライターや、剣術、格闘技と魔法。
ルクは巨大な鎌を持って戦う攻撃技。
そして、メイは、俺たちの心と体を癒す、癒し担当だ。
ゴブリン討伐や、ゴーレム討伐、巨大ネズミの討伐のような害獣退治はお手の物。
こうして、最終試験の日が来た。
思い出すだけで胸が潰れそうになるが、その日は航海して向島に行くという単純なものだった。
勇者達は、舟を作り、海へ向かった。
少し風向きが怪しい、これは試験…なのか?
巨大な頭足類であるクラーケンが舟を次々に襲い勇者達が無惨に喰われて殺される。
かつて勇者達だった者の、生首や内臓があちらこちらに飛ぶ。
「舟から降りて逃げるぞ!」と、俺はルクとメイの手を引っ張る。
「いやあああああああ」と錯乱状態に陥るメイ。
「メイ、逃げるぞ!じゃないと殺されてしまう!」
メイは、俺の手を振り解き、別の舟の元へ泳いでいった。
「おい、ルク…俺たちだけでも」と、ルクの手を引っ張る。
「できない…」
「なんだって…」
「俺とメイは、結婚を誓った仲なんだ!
助けに行くよ!」
俺はルクの手を離した。
俺は振り返らなかった。俺は生き残った。
海は血で染まった。
100人いた最終選考まで残った者が俺と5人の男だけとなった。
俺と他の5人は勇者となれたが、俺は試験官に言った。
「ふざけんな。
勇者にすらなってない俺たちをあんな危険な戦いに挑ませるなんて。
お前ら正気じゃないよ」
そう言いながら俺は資格証を受け取った。
死んだメイとルクのためにも、俺は勇者として1人戦う。そう決めた。
だが、力だけでは人は救えないと思った俺は、幅広い学問を学んだ。
こうして辿り着いた、臨床心理学。
僕は精神疾患診断統計マニュアルを読んだり、世界保健機構の発行する診断基準の書かれた本を参考に精神疾患の内容を覚えた。
僕は、誰かのメンタル状態を診断できるぐらいには知識がついたところで、とあるネット上の少女と仲良くなった。
ルネ。
彼女の悩みを聞いたり、彼女の愚痴を聞いたり、そして彼女が不治の病を患ってることを知り、なるべく心に寄り添って彼女の人生を充実させたものにしようとした。
関わってから3ヶ月後、彼女は自殺した。
恐らくメンタル的な理由だろう。
僕は希死念慮を抱いた。
何故自分のような仕事のできない無能男が生き残って彼女のような心優しきひまわりのような女性が死ななければならないのかわからない。
僕は絶望の中で、何度も死を望んだ。
そして、誰も救えないし、英雄にもなれないと悟った僕は社会に迎合し、生きていくことにした。
だが、もう一度言わせてくれ。
僕は仕事ができない。