第10章 戦争、そして共存への道
僕は仕事ができない。
梱包は雑だし、定期的に失言をしてしまうし、発言過多になることも多いし、普通の人よりも不器用で、仕事を覚えるのにも時間がかかる。
そして、詮索してしまったり、懐疑的になってしまったり、また上手く周りと馴染めない時だってある。
だが、僕は勇者だ。
勇者であるということに誇りを持ちたい。
持てるわけねえだろ馬鹿か。
寧ろ勇者の才能があることに憤りだって感じてるよ。
魔術、呪術、武術、錬武術、そして体力。
こんなものは、社会の役に立たない。
この世界には、エルル・ヴァラダスと呼ばれる"核"が存在する。
エルル・ヴァラダスに力を加えると、爆発が起こり、爆発の範囲はそもそものエルル・ヴァラダスの大きさにもよるが、おにぎり1個分のエルル・ヴァラダスで、国を滅ぼせるほどの威力を持っている。
そして、当時、第三次世界大戦において、初めてエルル・ヴァラダスが含有された爆弾が開発された。
通称「エル・ボム0」、そしてそれがクレ・シティ投下されると、その辺りに住む人が爆撃によって死亡し、その後もヴァラダスによる後遺症によって死亡する者が後をたたなかった。
その後ジャポは、降伏し、第3次世界大戦は終わりを迎えた。
第一次世界大戦は、国の代表の勇者達による戦争で、兵器ではなく魔力や武術が主な武器だ。
そして、第二次世界大戦からは、戦闘機や戦車が用いられ、そして、第三次世界大戦は、戦車や戦闘機、軍事ヘリ、そしてアーマードコープスと呼ばれる小型ロボットに乗って戦う者もいた。
魔術や呪術、武術なんてものは、核兵器や各種戦闘機、強力な銃器を前には歯も立たない。
バズーカー砲にもよるが、1発で高層ビルを破壊できるものもある。
ジャポでは、第三次世界大戦を最後に戦争をしなくなったものの、ジャポ以外の国家では今でも戦争が繰り返される。
そして、今日もどこかで失われている命がある。
軍事兵器の前で、勇者では無力だ。
つまり、現代社会において、勇者は必要ない存在となったのだ。
そして、僕は勇者としての才能がある。
それがただ悲しかった。
銃器の訓練は行った。
マシンガン、ピストル、ライフル、ロケットランチャー、ミサイルランチャー。
しかし、これらは、あくまで実戦を想定したシミュレーターで行った。
そして、軍事兵器の訓練も行ったことがあるが、これもシミュレーターでやっただけで実戦ではない。
第四次世界大戦が起こらない限り、軍事兵器の知識は役に立たないだろう。
…自衛隊…というのも考えたが、俺は集団行動が得意じゃないし、管理されたくない。だから一人で全て行ってきた。
仕事は一人では行えない、だから何度も失敗しながらコミュニケーション能力を高め、うまく人と付き合いながら、連携して業務を行わないといけない。
だが、俺はコミュニケーション能力と、業務能力が欠如している。
僕は仕事ができない。だが、勇者だ。
りふに言った言葉を思い出し、顔から火が出るほどの恥ずかしさを感じ、今日も出勤する。
今日は決算報告会だ。俺は出席するが試用期間のドワーフのヤマシタくんは、出席権がなかった。
「あ、ムシロさん」
「今日は、仕事して待ってるの?」
「あ、はい!…ただ僕も行きたかったんですけど決算報告会」
「決算報告会、そんな楽しいもんじゃないよ」
人間大卒新卒入社と、他種族中途入社では、色々と差があるのかもしれない。
俺はヤマシタくんをランチに誘い、彼から様々な話を聞いた。
彼の両親は、法改正前に"勇者"から迫害され、家を焼かれて殺されていた。
しかも、それも残忍な方法で。
何度も何度も殴りつけて、そして父、母は太くて重たい剣で何度も切り付けられ、切り落とした頭部を踏み潰したらしい。
随分と趣味が悪い勇者だ。
そして、人間の手から逃げるために長い間かけて隠れ家を探した。
その間に一人のエルフの少女に出会い、2人で隠れ家を探したらしい。
ヤマシタは、彼女と2人で生涯生きていくことを誓ったらしい。
たどり着いた場所で2人で暮らしていたが、凶暴な害獣エレファンモスにエルフは、踏み潰されて殺された。
その後法改正により、エルフ、ドワーフ、ノームなどの他種族の守られることが決まった。
しかし、8歳の彼は、まだ様々な部分で無知だった。
彼に才能を見出した1人の青年アルトは、彼に言語、数学、哲学、科学、オフィスソフトの操作技術、ビジネスマナーを教えた。
しかし、彼が13歳の頃にアルトは、交通事故によって死んだ。
アルトがヤマシタに残した100万ウェンの貯金と、彼に与えた能力だけで、生きていく他無くなった。
そして、ドワーフであることが理由の不採用で100社以上落ちたヤマシタだったが、彼を1人の男が、救った。それが俺の勤める会社の社長だったってわけだ。
ヤマシタくんにとってその結果は、良いものだったのだろうか、わからない。
だがヤマシタくんは、夢を教えてくれた。
彼は忍者になりたいらしい。
忍術を扱い、悪人を懲らしめる勧善懲悪の忍者が主人公の作品を読み感銘を受けたらしい。
「シン・戦組が、募集してるって。
あそこには、ツテがあるから、ヤマシタくんがその気なら君のことをシン・戦組の隊長のイサミに紹介するよ」
「ありがとうございます!!」と、ヤマシタくんは、深くお辞儀をした。