かくれんぼ
夏のホラー企画を昨年も書いていたので、慌てて完成させた次第です。まとまってない気がしますが、読んでもらえたらいいなと思います。
これは、いつもの日常を送っていた一人の女性の話。
「あれ? マチなんか今日、雰囲気違くない?」
とある学校の教室で、女子生徒が黒髪長髪の女子生徒ーーマチに話しかけた。
「気づいた? メイク変えてみたの」
「だよね、超似合ってる!」
「ほんとだぁ。どこで買ったの? メーカーは?」
まじまじとメイクを観察するもう一人の女子生徒に、まちは苦笑いしながら答えた。
「ほら、駅前に新しい店出来たじゃん。そこにあった化粧品だよ」
「え、あの激安の? 肌とか大丈夫だった?」
駅前に出来たのは大手ドラッグストアで、オープン記念で色々なものが安く売られている。ここ数日人が絶えない店だ。
「全然問題なかったよ。ていうか、そんなこと考えてなかった。あんなに積んであったのが、最後の一個になっててさ」
「マジ?!」
「そんな人気なら買っとけばよかったなぁ」
しょんぼりと眉を下げる友人に、マチは鞄からいくつか化粧品を取り出す。
「よかったら貸すよ、まだ前のも残ってるし。肌に合うんだったら、また探せばいいじゃん?」
「いいのぉ?!」
目を輝かせて、本当に嬉しそうにする友人に笑ったあと、ドヤっとした顔で言う。
「ほら、私って優しいから?」
そんなマチを見て、友人二人は揃って吹き出した。
「マチのそれほんとサイコォ!」
「それな! もはやマチの決めゼリフじゃん!」
「やめてよ、こんなセリフ言うやつダサくない?」
三人で笑い合っていると、教室の扉が開いて先生が顔を覗かせた。早く帰るように注意される前にと化粧品を雑に鞄に入れて素早く教室を出て玄関に向かう。結局廊下は走らないようにと注意は受けたが、それもまた面白くて三人は笑った。
学校を出たところで、マチは鞄からファンデーションを取り出して二人に差し出す。
「これ貸すから、使ってみて」
「ありがとぉ。私が先に借りてもいい?」
「いいよ。その後貸して?」
「わかった」
会話が終わると三人は手を振って別れた。
いつも通りの帰り道、普段誰もいない公園が気になったマチは一歩足を踏み入れて辺りを見渡してみた。
特に変わったところもなく、彼女はすぐにその場を去った。
家に着いてからも、夕食と入浴を済ませて布団に入る、いつもと変わらない時間を過ごした。
けれど、いつもと違って眠くならない。マチは苦手な勉強すると眠くなるかと教科書を開くが眠くならない。
窓を開けて外の空気を吸ってみる。
ふと、マチはあの公園を見た。
人はいない。けれど、ブランコが揺れているように見えた彼女は、目を凝らして見る。
間違いなく揺れている。
気になった彼女は、その公園に向かった。
到着した時には、すでにブランコは止まっていた。
もしかしたら、誰かが去った後だったのかもしれないと考えたマチは踵を返す。
街灯が点滅する。
背後に気配を感じた彼女が振り返ると、そこには同じ学校の制服を着た女性がいた。なんとなく顔を見るのが怖くて、マチは視線を胸元のリボンへ逸らす。
「な、なに? あんた誰よ……」
「……」
目の前の女性が何も言わないことに更に気味悪さを感じ、家へ走って帰ろうとした時。
「あそぼ」
「!」
「0時までに私を見つけられたら生かしてあげる」
「どういうこと……」
「ただの遊びだよ」
相手が話し出した瞬間、マチは気味の悪さに体が固まった。スマホで時間を確認すると、0時まで1時間しか無かった。範囲も分からないのに1時間は短すぎる。それに、この不気味な女性とも遊びたくなかった。けれど後が怖くなったマチは遊びに付き合うことにした。
「わかった。だけど、範囲はこの公園内だけよ」
「わかった。10秒経ったら探して」
1、2、3、4、5、6、7、8、9、10!
実際には5秒も経っていないが、女性が文句を言うことはなく、姿もなくなっていた。
マチは泣きそうになりながらも、女性を探した。
遊具の裏、草むらの中、木の上。隠れられそうなところは真っ先に探した。けれど見つからない。
あっという間に50分が過ぎた。進展はない。
焦りで、なりふり構わず公園内を走り回って探し始めると、小さな笑い声と共にブランコが僅かに揺れた。
マチはブランコに近づいて座面を支える鎖を掴んで叫ぶ。
「ねえ、ここにいるの?!」
返事はない。
鎖から手を離してまた探そうとした時、ブランコからキィ……と音がした。見てみると、いつの間にかブランコに座って遊んでいる女性がいた。
「あーあ、見つかっちゃった」
「私の勝ちね」
「そうだね、おめでとう。約束通り生かしてあげる」
体はね。
女性の言葉に驚いて、マチは初めて彼女の顔を見た。
見てしまった。自分と瓜二つのその顔を。
途端、マチの体は地面に転がった。
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「マチ、この化粧品めっちゃよかった!」
「私も使ったけど、気に入っちゃったぁ」
友人2人が、借りた化粧品の感想を伝える。それにマチは嬉しそうに笑った。
「ほんと? よかった。今度売ってたら買ってあげる」
「えー、いいよ。教えてくれれば自分で買うから」
「またすぐ無くなるかもしれないし。それにほら、私って優しいから?」
マチはいつものように笑ってそう言った。
補足をしますと、出会った女性はドッペルゲンガーだったということですね。最終的に体は生かされたものの、魂は別物になってます。最後のマチさんは中身が別人というわけです。
ドッペルゲンガーについて改めて調べましたが、存在はあまり悪いものではなさそうです。(あるサイトによれば)
挨拶をして、握手とハグをするといいらしいですが、自分と握手してハグって、なんだか不思議な感じがしますね。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。