第六話:初心者案内
銀髪緑眼は作者の性癖
始まりの街カッペルに戻され、冒険者組合の二階ベッドでリスポーンした俺は、背中を伸ばしてベッドから起き上がる。
「あー……ゲーム初日からリスポーンかぁ」
あの虎、どう考えても初心者用マップにいていいモンスターじゃないと思うんだが。あれ、ステージボスか? それともレアモンスター?
とはいえ当面の目標は決まった。あの『黒毛の狂虎』とやらをいつか討伐してやる。こういう目標があるほうが、ゲームのモチベーションは上がるからな。
いつの日かのリベンジを誓い、メニューを開く。
「さて、リスポーンのデメリットは……お金とアイテムの一部ロストか」
システムメッセージが浮かび上がり、リスポーンで失ったアイテム一覧とお金が確認できた。
まぁ妥当だな。薬草もいくつか無くしていたが、多めに拾っていてよかった。クエストクリアの分は残っている。
「あー、アイテムを宿に預けていればロストしないのか」
宿の機能は大きく二つ、リスポーン地点の設定と、アイテムコンテナの利用だ。
アイテムコンテナはいわゆる倉庫。インベントリに入りきらないアイテムを預けられる機能で、ここに入れたアイテムはリスポーンしてもロストしないみたいだ。
せっかくなのでインベントリに残っていた不要なアイテムを預けておく。
リスポーン地点の更新は今のところは関係ない、と。
「しばらくはこの冒険者組合の部屋で居候かな」
他の街の宿屋に行けば、お金を払うことでリスポーン地点を更新できるみたいだ。
さて、宿の機能の確認も終わったし行動再開。
まずはぶっ壊れてしまった日本刀を剣の欠片で修理しておく。
そして冒険者組合の一階に降りて採取してきた薬草を受付のお姉さんに届ける。
するとクエストクリアの報酬として僅かなお金をもらい、次のクエストを言い渡された。
なんでもこの薬草は手を怪我した鍛冶師の人からの依頼品らしく、その鍛冶師の人まで薬草を直接届けてほしい、とのこと。
鍛冶屋はカッペルの街中にあるので、次はそこに向かうお使いクエストである。
『メインクエスト:初めてのお使い』スタートだ。
とはいえ先に待ち合わせの時間が来てしまった。クエストの進捗もキリがいいし、待ち合わせ場所に行くことにしよう。
場所はカッペルの中心にある広場だ。冒険者組合の建物から出てすぐで、大きな噴水が目印。
待ち合わせにはよく使われるスポットらしく、他にも多くのプレイヤーがいる。野良パーティーの募集もしてるみたいだ。
間違えないように頭の上に表示されているプレイヤーネームを見て確認し、待ち合わせの人物に声をかけた。
「よっ、お待たせナギ。案内を頼むぜ」
「リョーダン、ね。チュートリアルお疲れ様」
小さな少女剣士が俺を労った。
待ち合わせの相手とは当然、俺のことをスターブレード・ファンタジーに誘った渚だ。プレイヤーネームが『ナギ』であることを事前に聞いていたので間違えることなく声を掛けられた。
「チュートリアルはどうだった?」
「剣がマジで重くてちょっと感動した。あとアリアちゃんが可愛い」
「ふふっ、早速VRを楽しんでいるようで何よりだよ」
ナギは俺を見上げ、口元を緩めた。
課金したのか知らないが、初期プリセットにはないお洒落な編み込みの銀髪。ライトグリーンの目。白をベースにしたドレスみたいな防具と背中に背負った二本の剣。
リアルと変わらないのは150cmを下回る低身長くらいだ。
「いやお前のアバター張り切ってるなぁ」
「ふふ、可愛いだろう?」
その場でくるりと回ってみせるナギ。防御力があるのか不明なスカートの裾がふわりと揺れる。物理演算スゲェ。
「確かに可愛いな」
「…………。うん、そ、そうだろう?」
「何照れてんだよ」
「だって君、リアルだと僕のことを可愛いなんて言わないじゃないか……」
リアルでも渚は割と可愛い部類の女の子だが、確かに面と向かって可愛いとは中々言わないな。
ちょっと俺も初めてのVRで浮かれているのかもしれない。もしくは慣れない戦闘後でテンションが高い。
「で、街を案内してくれるんだろ? よろしく頼むぜ、ナギ」
「……話を逸らされたけど、まぁいいか。メインクエストはどこまで進めたんだい?」
「薬草取ってきて、次は鍛冶屋に届けてくれだってさ」
「なるほどね、それならちょうどいい。鍛冶屋から順にクエストをこなしながら、この街を探検しようか」
ナギとフレンド登録を交わし、二人で並んで歩き出した。
「そういえば、リョーダンは初期武器をブシドーブレードにしたんだね」
鍛冶屋に向かう道中、ナギは俺の腰に吊られた『旅立ちの日本刀』を見てぼそりと呟いた。
「ん? まぁそうだな。日本刀って格好良いし。格好良さで言えばエナジーブレードと迷ったんだけどな」
「そっか……」
何故だかナギは少しだけ寂しそうに笑った。
「そういうナギは二刀流かよ」
彼女が背中に背負っているのは二本の剣。どちらも直剣だろう。このゲーム、二刀流もできるんだな。
すると次の瞬間、ナギはパッと顔を明るくした。
「そうだとも! だって二刀流が一番格好いいだろう!?」
「そこは人それぞれじゃないか……?」
VRゲームのブームの先駆けとなった有名な作品では、主人公が二刀流で戦う。その他にも、主人公が二刀流で戦う多数のアニメやゲーム作品がある。
二刀流は確かに格好良いし人気があるが、果たして一番かどうかは個人の好みじゃないだろうか。
「このスターブレード・ファンタジーは武器を同時に二つまで装備できるけれど、アサルトブレード系統には二刀流専用のスキルがあるんだ」
「へぇ、それは知らなかった」
主に武器を二つまで装備できることを。確かに装備欄には『武器1』と『武器2』があったな。てっきり盾を装備するための装備枠だと思っていたのだが。
「直剣には専用の二刀流スキルがある。これはつまり、運営が二刀流を推しているということなんだよ!」
「そ、そうか……?」
スキルが用意されていることと運営が推していることは必ずしもイコールではないと思う。
しかし興奮で頬を紅潮させて話をするナギは聞く耳を持たない。
「剣が二本あるってことはね、一本よりも二倍強いってことなんだよ!」
「そんな単純計算ではないだろ」
急にIQが溶けたな、ナギ。いったいどうした。
「今からでも遅くないよ! リョーダンも二刀流にしないかい?」
「いやぁ……俺はいいかなぁ」
ほら、俺ってば名前からして剣一だし。二本持たなくても。
「そう……それは残念だね……」
ナギは肩を落として露骨にがっかりした。と思うと突然慈愛に満ちた穏やかな笑みを浮かべて、
「でもいいんだよ。いつかきっと、リョーダンにも二刀流の良さが分かる日がくるさ……」
「お、おう」
果たして来るか?
スタブレを熱心に遊んでいるプレイヤーの中にはナギのように突然発作を起こす人もいます。
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