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剣しか勝たんVRMMO  作者: 雉里ほろろ
第二章:土竜と竜と遺跡と宝石、世界は星のみに非ず
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第二十一話:やっぱりこのゲームおかしいよ

 さぁ今日も今日とてスタブレにログイン。

 西風の平原の川沿いにある小さな農村、カラム村の宿で目を覚ます。


「さて、あのクエストが気になるところだ」


 『サブクエスト:モグモグ百匹組手』。もうクエスト名からして嫌な予感がする。間違いなくあのモグラと戦うよな。

 クエストの進行状況を確認すると、クエスト目標は『挑戦状で指定された場所へ向かう』とのこと。

 モグラが描いたのであろう下手くそな地図を広げる。隣には冒険者協会から貰った綺麗な地図を並べて見比べながら解読だ。


「これ川か……? じゃあこれがあの山で……?」


 この川を越えた先に一つ小さな山がある。モグラの地図曰く、その山の麓に印があるから、ここに来いということなのだろう。


「『森の神殿』とは逆方向なんだよなぁ」


 もともとは新しい武器の試し斬りを軽くしてから、メインクエストで向かうべきダンジョン『森の神殿』に挑むつもりだったのだが。

 こういう寄り道もゲームの醍醐味と考えて楽しむべきか。メインストーリーは逃げるものじゃない、慌てなくても大丈夫だろう。渚と約束したイベントの時期までに、第二の街にたどり着いていれば問題ない。


「川を渡らないといけないんだが……」


 川幅が広いから、泳いで渡るのは難しそうだ。昨日はちゃんと村の中を見て回らなかったから、探せば渡し舟とかあるかな。






 カラム村はカッペルの街とは比べ物にならないくらいに小さな村だ。平原の真ん中に民家がまばらに立ち並んでいるだけ。

 NPCは農作業をしていたり、あるいは木陰で休憩していたりと、のどかな雰囲気がある。

 渡し舟がないかと思い、俺は近くにいたNPCに声をかけた。


「すみませーん」

「おう? 何か用かい?」

「川の向こうに渡りたいんですけれど、舟とかあったりしますか?」

「あぁ、それならあっちの岸辺に小さな舟があるよ。漁師の誰かに頼めば、乗せていってもらえるんじゃないかな?」


 NPCに教えてもらったとおりに進むと、川辺に数隻の小舟が停泊していた。そしてその近くで釣りをしている人たち。


「こんにちは」

「あぁ、こんにちは」

「こんにちはー」


 声をかけると、NPCたち……ではなく二人のプレイヤーだ。

 男女二人組のプレイヤーは川岸に座って釣りを楽しんでいるようだ。頭の上を確認すると、それぞれ男性の方が『シャーロ』、女性の方が『えびはちまき』となっている。


「あっ、プレイヤーさんだった。珍しいね、この村にプレイヤーがくるなんて」

「あはは。どうもこんにちは、リョーダンさん」


 釣りに興じる二人に近寄る。他にプレイヤーはいないようだが。


「この村、プレイヤーが来ないんですか?」

「この村には鍛冶屋がないし、ストーリー進行では立ち寄ることもないからね」

「小さいサブクエストはいくつかあるけれど、基本的に私たちみたいに川で釣りをする人くらいじゃないかしら?」

「釣り好きも最近は海釣りのためにニール港や、新マップのヤマト島の方に流れたからねぇ。しばらくしたらこっちにも人が戻ってくると思うけれど」


 のほほんとした雰囲気で笑いあうお二人。何だか楽しそうだ。


「へぇ、このゲーム、釣りもできたんですね」


 二人は釣り糸を川に垂らしていた。魚とか水生モンスターとかが釣れるのかな?


「釣り竿ってどこで手に入るんですか?」

「あぁ、これ剣だよ」

「剣!?」


 シャーロさんが意味不明なことを言い始めた。いや、どうみても釣り竿だけど。


「初期のアップデートで釣りシステムの実装と一緒に追加された武器、F:フィッシングブレードだよ。釣りをするにはこの釣剣フィッシングブレードが必要なんだ」

「えぇ……?」

「もちろん、カテゴリは武器だからこれで戦うこともできるよ」

「えぇ…………?」


 剣の定義が乱れる。


 と、そのとき。シャーロさんの釣り竿に何かが食いついた。


「おっ、大きい当たりだ。ちょうどいい、せっかくだからリョーダンさんも手伝ってくれるかな?」

「手伝うって何を……?」


 シャーロさんが握りしめた釣剣フィッシングブレードに力をこめる。


「行くよ、せーのっ!」


 シャーロさんが勢いよく釣剣フィッシングブレードを引っ張り上げる。すると針の先に食いついた獲物が釣り上げられた。

 そいつは軽自動車くらいのサイズの巨大な魚だった。凶悪な歯が並んだ大きな口は、簡単に人を呑み込めそうな大きさだ。

 その口の端に釣り針が引っかかっている。


「それっ!」


 シャーロさんが信じられない腕力で釣れたモンスターを振り回し、そのままの勢いで地面にたたきつける。うわ、頭からいった。


「グギャァ!」


 陸に引きずり出された怪魚はヒレを足のように使って四足歩行で立ち上がった。

 頭の上には敵対モンスターを表すアイコンと、『牛食魚』の名前が出ている。


「活きの良い魚が釣れたね!」

「どう見てもモンスターじゃないですかね!?」


 この戦いに加勢してくれってことか。

 腰の土竜刀に手をかけ、腰を低く落とす。チャージは満タンだ。

 隣に並んだえびはちまきさんも釣剣を川から引きあげ、戦いに備えている。


「それっ!」


 えびはちまきさんが釣剣を振り回すと、まるで鞭のように釣り糸がしなり、先端の釣り針が牛食魚に突き刺さった。

 シャーロさんも同じように釣剣を鞭のように扱い、釣り針で攻撃するという奇怪な戦い方で牛食魚にダメージを与える。

 二人がバシン、バシンと連続でヒットを当てると、牛食魚はたまらず怯んで川の中に逃げ込もうとする。


「逃がすものか! 〈引き寄せ〉!」


 シャーロさんが振るった釣剣が牛食魚の背中にヒット。すると釣り針が引っかかり、逃げようとしていた怪魚を捕らえた。


「さぁ、今の隙に!」

「分かりました!」


 俺も負けじと〈瞬歩〉を発動。牛食魚の背中に追いすがり、尻尾の先から頭のほうへ駆け抜けるようにして切り裂く。

 すると牛食魚はポリゴンとなり砕け散った。

 三枚おろしとはいかなかったな。


「お疲れ様。リョーダンさんも突然だったのに、手伝ってくれてありがとう」

「いえ、大丈夫です。お疲れ様でした」


 ちょっとびっくりしたけどね。あんな大きな魚のモンスターも釣れるんだな。


「あっ!」

「どうかしたんですか、シャーロさん?」

「やった、ドロップアイテムで良い食材が手に入った。せっかくだからみんなで食べようか!」

「わぁ、それじゃあ私に任せてください! リョーダンさんも食べていってください。獲れたての新鮮な魚料理をご馳走しますよ!」

「え、あぁどうも」


 ……えっ、さっきの化け魚を食べるの?


 ちなみに、えびはちまきさんが〈料理〉スキルを駆使してふるまってくれた刺身と煮つけはとても美味しかったです、まる。


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