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剣しか勝たんVRMMO  作者: 雉里ほろろ
第一章:いざ行かん星の世界、切り拓くは我が剣
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第二話:チュートリアルはスキップしないタイプ

 ゲームを起動すると、オープニングムービーが流れ始めた。


「かつて、世界に空と星々しかなかった頃――」


 綺麗なオープニング映像をぼんやり見ながら、俺はゲームの設定を思い返す。


 渚に誘われるままスターブレード・ファンタジーをインストールしてみたが、やっぱり最近のゲームはデータ容量が大きくインストールにも時間がかかってしまった。その間に公式サイトを軽く眺めてゲームの世界観を理解しておいた。


 スターブレード・ファンタジーの舞台となるのはラディカルという世界だ。

 かつて世界にまだ大地がなく、空と星しかなかったころ。

 空の支配者を巡って星々が互いに争いを始めた。二十六の大星がそれぞれ剣を作り、手下の星を従えて戦争を始めたのだ。


 この二十六の大星がそれぞれAからZまで順番にアルファベットと対応していて、二十六種類の剣を作ったらしい。まだ実装されていないものも多いが、将来的には二十六種類全部をゲームに実装する予定なのだとか。


 その戦争は苛烈を極めたが、結局すべての大星が相打ちとなった。その戦争で砕けた剣の欠片が大地に、流れた星の血が海になったらしい。

 力を失った大星は空で傷を癒し、次なる戦いに備えている。そのために新たにできた大地に命を芽吹かせ、自らが作った剣を与えた。


 それがプレイヤーたち人間。ゲーム内でいうと『星の子』ということになる。

 星の子の中でも選ばれたものだけが星剣を手に入れ、二十六の大星の代わりに次なる空の支配者を決める争いを行うのだとか。


 随分と血なまぐさい感じの創世神話だが、実際のゲーム内では星の子たちは割と気ままに人生を送っていて、この創世神話も古い言い伝えでしかない、ということになっている。

 そんな中でプレイヤーは星の子としてラディカルの世界を冒険し、まだ見ぬ地を踏破して星の遺跡を探し、星剣伝説の真偽を確かめていく、というのがメインストーリーなのだとか。




 さて、そんな感じのオープニングを終えると視界が暗転した。

 そして視界が戻ると、そこは宇宙空間のような青と黒の世界だった。周囲には輝く星々が巡り、幻想的な雰囲気を醸し出している。


『星の子よ……』


 すると突然、どこからともなく声が聞こえてきた。


「おおっと、これがチュートリアルか」


 星々からの声、ということらしい。チュートリアルや初期設定の時間だ。


『これから大地に降り立つ、愛しき星の子よ。貴方の名前を教えてほしい』


 目の前にゲームウィンドウと簡易キーボードが出現した。ちょっとびっくりした。


「『プレイヤー名を入力してください』ね。ちゃんとゲームメッセージも出るんだな」


 親切設計だ。こういうウィンドウはVRゲームへの没入感を削ぎやすいから嫌がる人もいるけれど、これくらいなら全然気にならないな。特に俺みたいなフルダイブVRゲーム初体験の人間にとっては、とても助かる。


「名前、かぁ」


 ゲーム内での名前、そういえば決めていなかったな。


「よし、じゃあ『リョーダン』にしておこう」


 自分の名前である剣一。入れ替えると一剣。剣ではなく、刀と読み替えて一刀両断だ。

 強そうだし、他のゲームでもよく使う名前の一つだ。他に良い名前が思いつかなかった。


『良い名です。星の子よ、其方に我らが力を授けましょう。さぁ、選びなさい』


 続いて、目の前の空間にアルファベットが浮かび上がった。AからEの文字と、剣の形をしたマークだ。

 これがいわゆる初期武器、他のゲームでいうところのジョブ選択にあたるらしい。


 スターブレード・ファンタジーは魔法がない分、この武器がジョブに近い役割を担っている。

 剣のマークはAから順に、西洋の直剣、日本刀、海賊が持ってそうな曲剣、小さいナイフ、よくわからない柄だけのやつ。


 初期武器の説明は公式サイトに載っていたので、事前にゲームの設定と合わせて見ておいた。

 このゲームで唯一の武器である剣には大きく分けて二つ、攻撃力と耐久値のパラメータがある。

 攻撃力はそのままダメージに直結するパラメータで、耐久値は長時間使える頑丈な武器かどうかに関わるパラメータらしい。他にも強い武器には装備要求ステータスや特殊効果があるらしいが、ここでは割愛。

 武器は使い続けると耐久値が減り、合わせて攻撃力が低下していく。そしてゼロになると壊れてしまう。だから壊れる前に修理をする必要がある。いわゆる、切れ味を保つ、みたいなパラメータだ。


 そして初期から選択できる五つの武器種にもそれぞれ特徴がある。


 A:アサルトブレードはいわゆる西洋の両刃直剣。攻撃力と耐久値のバランスが良い。


 B:ブシドーブレードは日本刀だ。攻撃力が高く、その分耐久値が低めに設定されている。


 C:カーブブレードは曲剣といわれる武器だ。幅広で反った刀身が特徴的。耐久が高く攻撃力も十分だが、平打ちによる打撃の威力が弱い。


 D:ダガーブレードは短剣。攻撃力が控えめだが、急所に攻撃を当てたときにクリティカル倍率や状態異常付与値が非常に高い。


 E:エナジーブレードはなんと光の剣だ。某宇宙映画に出てきそうな光セイバー。攻撃力がとても高いが使っているだけでどんどん耐久値が減り、何より敵の攻撃を剣で受け止めることが出来ないというピーキーな性能をしている。


 俺は事前に決めていたので、ブシドーブレードを選択した。エナジーと悩んだけど、やっぱり日本刀って格好良いからね。一刀両断を名乗っておきながら刀を持たないのも変だし。


『よろしい。ではそれを身につけなさい。星の印を結び、自らの姿を映し出すのです』


 次は空中に小さな五芒星のマークが浮かび上がった。『星型を指でなぞり、メニューを開きましょう』とのこと。

 マークのとおりに指で星の形を書くと、メニュー画面が立ち上がった。メニューの開き方がお洒落だな。

 ステータスの欄やフレンドの欄はまだ暗く選べないので、素直に装備のところをタップ。

 装備欄の武器1のところに、『旅立ちの日本刀』を装備した。

 すると腰に一振りの日本刀がぶら下がる。おお、装備できた。


 鞘から抜いてみると、しっかりと腕に重みを感じた。握りの部分に巻かれた布のゴワゴワした感触まで再現されている。


「えぇ、凄いな。ゲームなのにちゃんと重く感じる」


 これが最新のフルダイブVRの力か。まるで本物の剣を持っているみたいでちょっと感動するな。いや、本物の剣なんて持ったことないけどさ。


『それは剣、すなわち星の力。この世界を作りし理。さぁ、剣を構えるのです』


 声に従い、俺は右手に持った剣を正面に構えた。剣道はしたことがないから、自己流で不格好かもしれない。けれど自然に自分に馴染むよう構えた。


『剣を振り、自らの前に立つ障害を打ち倒し、道を切り拓くのです』


 目の前にキラキラと光る宝石のようなオブジェが表れた。それと同時に視界の端に『剣を振り、星を切りましょう』とのウィンドウが立ち上がる。 


「どれ、よいしょっと!」


 剣を振り上げ、勢いよく振り下ろす。星のオブジェは真っ二つに切れて、キラキラと光りながら消えた。

 次は離れた位置に三つのオブジェが現れる。


「凄いな、ちゃんと歩けるし走れる」


 その場でジャンプをしてみれば思った通りにジャンプする。調子に乗ってバク転を試みると成功した。現実だと安全マット無しでやるのは怖いが、VRだとやればできるものだな。

 現実世界での俺は今ベッドの上で寝ているはずなんだけど、何だか不思議な感じだ。


 次の星へ駆け寄り、横振り一閃。初めてながら意外と綺麗に決まった。VRゲームの中で体を動かす感覚は現実と大差ない。スゲェなVR。これだけでもちょっと楽しい。

 全ての星を切ると、またどこからか声がした。


『お見事です。その力があれば、どんな困難も乗り越えられるでしょう。貴方は空に昇る資格がある。星の遺跡を探しなさい、我ら二十六の大星は貴方を待っています。いずれは星剣を手にし、この世界を統べる星戦に備えるのです』


 うん、よく分からないがメインストーリー関連なのだろう。何だか大事そうなことを言っている気がする。


『さぁ、星の子よ。貴方の旅路に祝福があらんことを』


 ――称号『いざ行かん星の世界、切り拓くは我が剣』を獲得しました。



 そして再び、視界が暗転した。


次話は1/27の21:00です。

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