第一話:剣しか勝たんVRMMO
人間の脳神経を読み取って電気信号に変換し、機械に送りこむフルダイブ型VRが一般家庭に普及した現代。ゲームといえばフルダイブ型VRといわれるほどに、VRゲームが人気を博していた。
3D空間に入り込みアバターを動かすことで、まるで自分自身がゲームの世界に入り込んだようなVR体験が家庭でも気軽に遊べるのだ。
特に人気のジャンルがオンラインで多くのプレイヤーが集まるMMOで、これまで数多くのゲームがリリースされている。
王道な剣と魔法のRPG、硬派な銃撃戦が人気のタイトル、牧場を経営してのんびりとしたスローライフを楽しむものなど、ゲームジャンルも様々だ。
とはいえこれまで俺はVR機器を持っておらず、一度もプレイをしたことがなかったのだが。
「ねぇ、剣一。ついにVR機器を買ったって本当かい?」
「おう、マジマジ。夏休みにむけて遊ぼうと思ってさ」
そう。ついに俺もまもなく到来する夏休みを満喫するためにVR専用のゲームハードを買った。そしてそれを友人である渚に伝えた。
町田渚は小学校からの友人で、俺よりもよほどゲーマー歴が長い。VRゲームにも早くから手を出していて知識が豊富だ。
「だから何かオススメのVRゲームはないか? 渚、VRゲームにも色々と手を出していただろ?」
「なるほど、そういうことか」
渚は電話越しでもわかるほど声を嬉しそうに弾ませた。ゲーム仲間が増えると、ニヤニヤしているのだろう。
「それなら剣一にオススメのゲームがあるよ。最近は僕もそれしかやってないってくらいのめりこんでいるオンラインゲームがあるんだ」
「へぇ、そんなに面白いのか?」
「ああ、滅茶苦茶に面白い。何より剣一にぴったりのゲームだ」
「俺にぴったりのゲーム?」
「『スターブレード・ファンタジー』って聞いたことないかい? スタブレって呼ばれているんだけれど」
「……名前は聞いたことある、気がする? 割と新しいゲームだったか?」
「そうだよ。半年前にサービスが開始したばかりのオンラインゲームなんだ」
確か、今年の新規タイトルの中でもかなり人気だと話題になっていた気がする。そこまで詳しくない俺でも名前を聞いたことがある気がするくらいだ。
「どんなゲームなんだ?」
「ジャンルはファンタジー系の王道アクションRPG。特徴としてはタイトルの通り『剣』をテーマにしていて、武器が剣しかないんだ」
「なるほど、それで俺にぴったり、というわけか」
俺の名前である剣一にかけて、らしい。
「でもさ、それってちょっと今更じゃないか? 王道といえば王道なんだろうけど……」
フルダイブVRゲームの最初期には、先駆けとなったゲームやアニメの影響を受けて剣と魔法のファンタジーゲームが量産された。
今でこそガンシューティングやリズムゲーム、恋愛ゲームに経営シミュレーションとゲームジャンルも豊富だが、王道な剣と魔法のファンタジーなんて目新しさがない気もする。色々なゲームを遊んでいる渚が、今更ハマる要素がないと思うが。
そのことを渚に伝えると、「ちっちっち」と妙に気どり始めた。
「わかってない、わかってないよ剣一。スターブレード・ファンタジーの特徴は、剣しかないことなんだ。銃も魔法もない、剣しかないんだよ」
「うん? 聞いたけれど」
「その分、運営が剣に並々ならぬ情熱を注いでいるんだ。プレイヤーが使える武器の種類は複数あるけれど、古今東西、ありとあらゆる剣しかない」
「な、なんだそれ?」
「ちょっとネットで検索してみてよ、面白い記事が出てくるはずだから」
渚に言われるまま、俺はブラウザを立ち上げてスターブレード・ファンタジーと検索する。するとトップには公式サイトが、その下にはいくつかの攻略サイトや交流掲示板サイトが出てきた。
「攻略サイトのトップページを開いてみて」
「わ、わかった」
渚に言われるまま、攻略サイトを開く。するとトップページに大きく表れたのは、「剣しか勝たんVRMMO」の文字。
「なんだこれ……?」
「ほら、よくゲームの攻略サイトであるだろう? 『最強武器ランキング』みたいなやつ。スターブレード・ファンタジーにもたくさんの武器種があるからね。強さのランキングを作ろうとした結果、丁寧すぎる運営のバランス調整とプレイヤー各々の好みが交じり合って、宗教戦争と化した。最終的に生まれたのが、通称「剣しか勝たんVRMMO」との評価だ。あとは文句があるならゲーム内のPVPで他宗派をわからせていくスタイルになった」
「いや、怖いが?」
ちょっと渚の言っている言葉の意味が分からなくなってきた。
「でもその分、近接アクションの出来は僕が今まで遊んだVRゲームでも一番だ。自分が好きな剣を持って、VR空間で身体を動かして派手なアクションを決めるのはとても爽快だよ」
「へ、へぇ……」
ウキウキと声色が高い渚のテンションに押され、かすれた声で返事をしてしまった。
「それにゲームグラフィックも他のゲームを抜き去るくらいに優れているんだ。まるで本物みたいなクオリティさ。世界の作りこみも凄くて、ストーリーを追う楽しさがちゃんとあるんだよ」
「それは良いな。けど、アクションが難しそうじゃないか?」
「大丈夫さ、剣一は運動神経がいいしVRでも卒なくこなせると思う。不安なら僕が教えてあげるからさ」
「そ、それなら安心か……?」
「最近、夏休み前の大型アップデートで新マップが追加されたばかりなんだ。今なら新規プレイヤーの入会特典もあるんだよ。まだまだプレイヤーの攻略も盛んだし、始めるなら今がお勧めのゲームなんだ。そうだ! 明日時間があるなら一緒に遊ぼうよ! 僕が案内してあげるからさ!」
そしてそのまま早口の渚に押し切られるまま、俺の初めてのVRゲーム体験が決定した。
このとき、俺はまだ想像していなかった。多くのプレイヤーに「剣しか勝たん」と言わしめるこのゲームの頭のおかしさを。
そしてそんなゲームに順応してしまった狂信者も、大概おかしなことになっているということを。
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