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転生悪役令嬢、投獄されて運命の人と出会いました~この 「おとしまえ」きっちりつけさせていただきます!  作者: 中村まり


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突然の来客

そんな風に、アーロンと一緒に楽しく過ごす毎日を繰り返しながら、私は乙女ゲームの詳細を思い出そうとことあるごとにトライしていた。


「お嬢様、驚かないでくれ。来客だ」


ガスが格子越しに、ちょっと慌てた様子でやって来た。ルルであれば、ガスは来客とは言わないし、父でもなさそうだし、と思っていると、やってきたのは元婚約者様と、あのヒロインである。


「なんだ。地下牢暮らしがつらいだろうと思って見舞いに来てやったが、元気そうだな」


「殿下、そんなことを言っては、エレーヌ様にお気の毒ですわ」


ヒロインであるエマが、彼をなだめるように言う。


……私をここに投獄させようと画策したくせに、相変わらずうざいヒロインである。


悪役になるのなら、それに徹してもらったほうがずっと潔い。表では、優しい顔して、裏ではこそこそと悪いことをするなんて、最低だ。


その点、エレーヌは違う。


令嬢をいじめる時は、どうどうとしていて、卑屈な所がないのだ。……と、いうかそれは私なんだけどね!


アーロンはどうしているかなとちらりとお隣を伺うと、彼は暗がりに身を潜めて目立たぬようにしている様子。

まあ、こんな修羅場に出てきても、してもらうことは何もないから、別にいいんだけど。


私はエマが持ち込んだ地下牢にそぐわぬ金箔張りの長椅子に斜めに腰掛けながら、ぱんっと扇を開く。


「あら、どなたがいらっしゃったのかと思えば、恥を知らぬ方々がいらっしゃったのですわね」


このくらいの嫌味は言って当然だ。元婚約者様は国王不在に付け込んで、やりたい放題やり散らかしているのだから。


私の様子を見て、元婚約者であるマリエル様は、顔を赤くして激高した。


「反省しているかと思って身に来てやったのに、その態度は何事だ!」


「あら、わたくし、反省すべきことなど、何一つございませんわ。むしろ、反省すべきは、殿下のお隣にいらっしゃる方のことじゃありませんの?」


「ひどい。また私を侮辱するの」


エマが顔色を変えて叫ぶと、わざとらしくしなを作って、マリエルにしなだれかかる。


「殿下、ご覧になって?」


「ああ、しっかり見届けた。この令嬢に対する無礼、すぐに彼女に謝れ」


私は大きくため息をついた。


「なぜ、このわたくしが彼女に謝罪しなければなりませんの? わたくしに無実の罪を着せて、弾劾したのはその方とそのお取り巻きではありませんか」


マリエルは顔を赤くして怒っていた。


「生意気な女だな。そのまま、地下牢に入っておけ。せっかく、この私が恩情で貴族用の牢へと移してやろうと思ったのに、無駄足をしたな」


「あら、それは絶対に貴方の恩情ではありませんわ。どうせ、元老院からの勧告でございましょ?」


わたくしのような令嬢を地下牢にいれるなど何事か、と年老いた貴族たちが息巻いているのが手に取るようにわかる。その背後には、当然、父からの働きかけがあるのは一目瞭然だ。


どうやら図星のようだったらしく、彼はうっと言葉に詰まり、顔をさらに赤くする。


私は、ぱっと扇を閉じ、片手にそれをパンパンと打ち付けながら立ち上がった。そして、格子越しへと近寄る。


私の様子に押されて、エマがはっと青ざめて一歩後ろに下がった。


「そこの泥棒猫。人からこそこそと婚約者をかすめ取るような真似をしなくても、わたくし、こんな男、のしを付けてさしあげますわ。子供の頃から決められた婚約者だと言うことで、わたくしもそれなりの情は湧いておりましたが、こんな愚行をするほどまで愚かだとは、ほとほと呆れましたわ」


「お、俺を侮辱するのは許さんぞ」


「侮辱もなにも、人を貶めるのはよくて、自分が貶められるのはよろしくないのですか?」


私は、にやりと侮蔑的な笑みを浮かべる。


「王様が国に戻られたら、なんとおっしゃるのか見ものですわね」


そんな風に彼とやり取りをしていると、なぜか、エマが隣の牢にちらちらと視線を向けている。


おい、ヒロイン、よそ見している場合か。修羅場を作りに来て、よそ見とは恐れいる。


「殿下のお連れ様は、わたくしより隣の罪人に興味があるご様子ですわよ」


嫌味を込めて、ため息交じりに言うと、マリエルもエマへと視線を向けた。


「おい、エマ、何を見ている?」


マリエルに声をかけられた彼女は、アーロンの牢の前で、時を見計らったうようにわざとらしく叫んだ。


「あら、大変。この方、病気なのではありませんか?!」


突然、エマに叫ばれたアーロンはなぜか唖然としている。呆気に取られて、床に座ったまま、エマを見上げていた。驚きすぎて、声も出ないらしい。


「隣の罪人など、どうでもいいじゃないか」


マリエルがそう言うと、エマは芝居がかった仕草で、王太子に向き合う。


「よくありませんわ。殿下。国の次期王たるもの、病に伏せる人々を見捨ててはなりません」


そんなエマに、マリエルはデレデレとした笑顔を見せる。


「……やはり、エマは優しいな。誰かと違って、お前は誰にでも優しいんだな」


たった今まで、口論していた男がまるで別人のように、鼻の下をのばしている。私は気持ちが悪くなって、早く帰ってくれないかなと、心の中で呟いていた。


エマは、私のことなど一向にお構いなしに、元婚約者殿に甘ったれた声を出す。


「ねえ。殿下、この方を救ってさしあげましょう。この地下牢は寒すぎるわ。こんな所にずっといたら死んでしまう」


「仕方ないな。エマの頼みなら、聞かざるを得ないじゃないか」


完全にふやけた顔をして、マリエルがエマの腰を引き寄せる。私の元婚約者様の胸の中で、エマは甘ったれた声を上げた。


「ね、マリエル様、この方を救ってあげて」


マリエルは、彼女の顎を持ち上げ、その唇にちゅっと、軽いキスをした。


うっぷ。……気持ち悪っ。


醜悪な三文芝居を見せつけられた気がして、私は椅子に腰かけながら、扇で顔を隠してそっぽを向いた。


そんな私に構わず、二人はいちゃいちゃしている。


「では、エマのお願い通り、この囚人を他の場所に移してやろう」


「きちんとお医者様に見せて、看病してくださる?」


エマが上目遣いに彼におねだりして、一層、甘いムードが盛り上がった時だった。


「……お取込み中、申し訳ないが、別に、俺は具合は悪くないぜ」


アーロンがしごく冷静な言葉を放ち、いちゃらぶ中の二人の背後から冷水を浴びせかけたのだ。


「そんなことないわ。貴方は病気なのよ!それも、酷い風邪をひいているのに違いないわ」


エマが気色ばって叫ぶ。彼女のヒステリックな声が、監獄中に木霊した。その声を聞いたガスが何事かと、廊下の端から顔を出したのが見える。


「何を勘違いしているのか知らないが、そこの令嬢。俺は具合は悪くないし、病気でもない。他の監獄に移る必要もないと思う」


彼の二人のばかっぷるぶりを横でまじまじと見ていたのだ。私と同じように、気持ちの悪いものを見たような顔で、アーロンは二人に言った。


「いいえ、貴方は病気なのよ。具合が悪いのに違いないわ」


なぜか、どうしてもアーロンを病気にしたいエマがむきになって叫んでいると、その後ろからガスがそっと近づいてきた。


「おい、看守、本当にこいつは病気なのか?」


ガスに気が付いたマリエルが訊ねると、ガスは素直にその問いに答えた。


「……お嬢様、こいつは確か、先週までは病気だったですが、もうすっかり回復しちまいましたぜ」


その瞬間のエマの顔ったら!


鳩が鉄砲玉を食らったみたいな顔をして、目は大きく見開き、きょとんとしていた。そして、腑に落ちない顔で、小声で何かつぶやいていた。


「……そんなはずは」


ほほほ、残念ね。アーロンはもうとっくの昔に回復している。けれど、なぜ、エマがそんなことを気にするのだろうと、私は訝しがりながら、二人の様子を眺めていた。


私と一戦やりあって、元婚約者様も、わたしのことはどうでもよくなったらしい。


「エマ、ここは寒い。もう帰ろう。俺の話も大体済んだからな」


マリエルに促されながらも、エマはしぶしぶと踵を返した。


「……そんなことないはずなのに」


彼女が不可解な顔をしながら、立ち去る後ろ姿を、アーロンと私は不可解なものを見るような目でながめていた。


そして、二人が立ち去った後、アーロンが、やれやれっといった感じで口を開く。


「あれが、お前の元婚約者様か。それにしても、あれはどうしようもないな」


アーロンもマリエルのばかっぷりを目の当たりにして、呆れたように言う。


「そうなのよ。あれをどうにかしてほしい、ってことで婚約者の役割が、わたくしの所に回ってきたのだけど」


「あれじゃ、国どころか、軍一つ動かせない」


軍の指揮などしたことがないはずなのに、アーロンが呆れた顔をしていた。そう、マリエル殿下は、見かけはとても美しいのだが、中身がアレだった。多分、見目ばかりよいけれど、頭は風船並みと言われている王妃の遺伝子を継いだんだろうと思う。


「……まあ、あいつとの婚約が解消されたのはいい事なのかもしれないぜ」


「ええ、そうね。その点については、同感だわ」


「それにしても、あの女、やたら俺を病気にしたがってたな。なぜだろう」


「さあ? わたくしにも、さっぱり」


エマの不可解な言動に、私とアーロンは、二人揃って首をかしげていたのであった。

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