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第35話 人気者になった冒険者

 ゴールデンウイーク前の最後の登校日。

 学校中が連休に向けてソワソワしている中、昼休み中のウチの周りだけは全く違う話題で盛り上がっとった。


「掛田! お前凄いやん!」


 鈴木が何度目か分からへん賛辞を送ってくれる。

 いや、鈴木だけやない。

 周りを囲む他の子も色々な言葉を掛けてくれる。

 先日の美咲さんとのコラボ動画のおかげで、ウチは今まで以上に人気者になってもうた。


「いやー、それほどでもないで? ホンマにないで?」


 ウチはそんなつもりなかったんやけどなー。

 周りが騒ぐならしょうがないよなー。

 なぜか、動画の再生回数もうなぎ登りやねんなぁー。


「いやいや、だってあの美咲さんにゾンビの特別な倒し方教えたんやろ? ほんま毎度毎度、一体どこでそんな知識手に入れてるん?」


 わざわざ別のクラスからやって来た女子が鈴木を押しのけて問いかけてくる。

 この子に限らず、今回は囲みの中に女子も多い。

 普段は真中王太郎の話題でしか絡んでこうへん子まで話しかけてくる。

 それだけ美咲さんが女性からも支持されとるんやなってことがわかる。

 いつかウチもこうなりたいもんや。


「いやいや。こればっかりは企業秘密や。言われへん」

「えー、志保のケチ」

「ケチと言われようがアカン」


 言えるわけない。

 全自動皿洗い機として日々を過ごしている、自称冒険者事務局所属の魔王に教えてもらっとるなんて。

 まあ、けどあの全自動皿洗い機が来てから、あっという間にここまで来たんやからなぁ。

 春休みの頭にはまさかこんなことになるなんて思ってへんかったで。


「なら、動画見ながら撮影の裏話聞かせてや。それくらいやったらええやろ?」


 今度は別の女の子が代替案を提示して来る。

 この子に至っては、あんまり絡んだことない子なのにグイグイくるやん。

 なんや?

 宝くじに当たったら現れる親戚か?


「お、それは俺も聞きたいぞ!」


 女子に押しのけられていた鈴木がここで息を吹き返す。

 こいつもこいつでよくもこの女子だらけの空間に下心なくおれるな。

 どんだけ冒険者のファンやねん。


「まあ、それくらいならええで。けど、話されへんこともあるからな!」


 もちろん、美咲さんの広島弁については内緒や。

 あれはウチと美咲さんだけの秘密やからな!

 そんなこんなで、動画の鑑賞会が始まる。

 やれ裏でどんな会話や打ち合わせがあったのか、やれワインを食らったゾンビは本当に臭くないのか等々、根掘り葉掘り聞かれる。


「ほら、もう予鈴なったわよ」


 動画も後半に差し掛かったところで、囲みから離れた自席におった美優がこちらに声をかけてくる。

 なんだかんだでワイワイと盛り上がっとったから予鈴に気付かんかったみたいや。


「あ、やべ! 授業までに黒板綺麗にしとかな! 佐竹サンキュー!」


 日直の鈴木が美優にそう声をかけつつ、最初に囲みから離脱して行く。

 続いて、ウチを囲んでいた他の子も、遅刻しないようにとぞろぞろと戻って行く。

 なんか自分から人が一斉に離れて行くから若干悲しいやん!

 と、そんな流れに逆らうように美優は立ち上がって、ウチの側へと寄って来る。

 おお、流石はマイベストフレンド……。


「なあ、今日の放課後は時間ある?」


 開口一番に美優が何やら暇があるか尋ねてくる。

 今日は特に用事はなかったはずや。

 強いて言えば、もうすぐ始まるゴールデンウイークでの動画撮影について魔王と話すくらいか。

 うむ。暇だな。


「別にええけど。どないしたんや?」


 動画鑑賞で充電がヤバくなったスマホをポケットにしまいながら返事をする。


「もうすぐゴールデンウイークやん」

「うん」

「せやから、ゴールデンウイークの予定を立てようかなって」

「あー、なるほどな」


 まあ、高校生活最後のゴールデンウイークやし、ダンジョンに潜るだけで終わらすのもアカンやろ。

 美優と遊ぶのもええな。

 というか、受験も近づいて来とるし、遊ぶならホンマにここが最後なんちゃうかな。

 ……なんやかんやで夏休みも遊んでまうやろうけど。


「わかったわ。ほな、放課後にガスバーガーでも行って話そか」

「お、乗り気やな」

「誘ったのそっちやん!」

「いやいや、志保のことやから、真中さんと過ごすんかなって思ってたわ」


 美優のその一言で、座席に戻ったクラスの女子が一斉にこちらを見る。


「いらんこと言わんでええねん!」

「ごめんごめん!」


 全く、ウチで遊びよって。

 というか、さっきまでは囲みから離れたところにいて、囲みが解散した今頃話しかけてくるとは……。

 ほーん。なるほど、なるほど。

 ふむふむ。

 なら、今度はこっちから攻撃したろ。


「なあ、美優」

「うん?」

「もしかして、ウチが人気者になってヤキモチ焼いとるんか?」


 ウチの問いかけに美優の顔はみるみるうちに赤くなる。


「ちゃ、ちゃうわ! 自意識過剰なんちゃうか!」

「おー、はいはい。可愛い奴よのぅ」

「かわっ……! な、なにいってんねん!」


 もう少しで耳から湯気が出るんちゃうかというくらい美優が赤面したところで、ちょうど昼休み終了のチャイムが鳴る。


「と、ともかく放課後な!」


 それだけ言い残して美優は席に戻って机に突っ伏してしまう。

 ぶつぶつと何かを言っているようやけど、そこまでは聞き取られへんかった。

 ホンマにこの親友だけは……。

 けど、ゴールデンウイークは何しようかな。

 そんなことを考えながら、午後の授業を受けるのであった。


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