第28話 情報社会を体感する魔王
スマホの使い方を一通り佳保殿に教わったので、志保の部屋へ戻って使って見ることとする。
共用のパソコンでは何かミスをしてはいけないと思い、習っていた動画視聴以外はしたことがなかった。
自分用のスマホを手に入れたことで、この世界での生活が更に便利となったはずだ。
「さて、何を調べるか……」
早速、インターネットでの検索機能というのを使ってみる。
ふと、ダンジョンそのものについてはあまり調べていなかったことを思い出す。
せっかくであるから、ダンジョンについて調査をしてみるとしよう。
「検索ワードは【ダンジョン 詳細】とでもしておこう」
すると検索結果の一番上に『ダンジョン徹底解説』なるサイトが表示される。
こうも素早く調べたい情報が出てくるとは、この世界は何度も言うが恐ろしい。
他の世界では図書館を利用するのだけでも身分や料金が必要だったりするというのに。
「ふむ。これでも見てみるか」
どうやらダンジョンそのものの基礎的な解説から、各階層での出現するモンスターなどが記載されているようである。
冒険者の紹介や解説などは一切されておらず、投稿動画も表示されていない。
まさにダンジョンだけに特化したサイトであった。
「ほう。これは面白いな」
早速、読み進めて情報を集めて行く。
そもそもダンジョンが実装されたのは今から20年ほど前と比較的最近であった。
技術上の問題で安全な取り扱いができなかったダンジョンコアを制御できるようになったことで、ダンジョンゲームと冒険者が生まれたのだという。
しかし、『ゲーム』というのは志保に聞く限りでは仮想空間での遊びのはずだ。
ところが、ダンジョン内にタマネギなどの現実の物品を持ち込むことができるし、逆にスライムが服を溶かすように外部への干渉もできる。
どうにも、技術の進歩によるゲームで片付けることができないような気がしてならない。
「ここでもダンジョンコアがなぜ存在しているのかは不明か……」
さらに詳しい情報はないかとサイト内を見て回るが、疑問の核心に迫る情報は載っていなかった。
「まあ、考えるだけ無駄であるな」
かつて志保が言っていたように、分からなくてもダンジョンには潜れるのだから割り切れば良い。
吾輩とて、これだけ小さなスマホでこれだけ便利な機能がなぜ使えるのか原理を知らぬが、こうして佳保殿に習って使うことができている。
なら、それでよい。
情報収集を続行しよう。
「ふむふむ。まだまだ先の話だが、第20階層付近となったら注意をしておくとしよう」
ダンジョンには東西南北の入口が設置されており、第20層で合流するまでは独立したものとなっている。
これは確か志保が動画内で話していたな。
おそらく第20層までは多くの冒険者が潜れるが、それ以上は4か所に独立させる必要がない数しか潜れないということだろう。
実際に、このサイトが推定値としてまとめた第20層以降のモンスターのステータスはそれまでと比べ物にならない強さであった。
「ほう。両ダンジョンの最下層についても載っているのか」
ダンジョンが関西と関東に1つずつの計2か所に存在しているというのは、三郎から聞いた情報と一致していた。
新情報としては、関西と関東で道中に出現するモンスターに違いはないが、階層数と最下層に居るモンスターが異なるのだという。
関西の最下層が第34層であり、関東の最下層が第41層である。
最下層に居るモンスターは、関西がヤマタノオロチで関東がドラゴンとなっている。
そのどちらとも非常に強力なモンスターであり、今まで勝利した冒険者は存在していない。
ドラゴンに挑戦した冒険者は加賀敏夫と常盤永久の2名だけだという。
曽根美咲は2人とは逆に、ヤマタノオロチとの対戦を経験しているとのことであった。
「確かに動画のランキングでも常盤永久がドラゴンと戦う動画が1位になっていたな。4億回再生以上されていたと思うが」
年間王者ですら倒せないモンスターが居るとは燃えるではないか。
いずれは吾輩の志保が倒してくれようぞ。
「む?」
さらに詳しい情報を得ようとしたところでEメールを受信した表示が出る。
はて、吾輩のアドレスを知っているのは佳保殿しか居ないはずだが。
もしかすると携帯ショップからの連絡の可能性もある。
「ともかく開いてみるか」
送り主は『有名冒険者E.T.』という名前で、件名は『稼ぎすぎて困っている』であった。
「有名冒険者E.T.か……まさかEikyu Tokiwaではないか?」
常盤永久がなぜ吾輩にコンタクトを取って来たのか謎であったが、文面を読めば謎が解けるだろうと思い本文に目を通す。
『突然のメール申し訳ございません。私は有名冒険者E.T.です(一番人気の動画は4億再生を突破しています)。』
一文目で確信する。
やはり常盤永久からのメールであると。
『実は動画人気が予想以上で、稼ぎすぎてしまい来年の所得税が非常に高額になってしまうことがわかりました。』
なんだ?
嫌味でも送りつけて来たのか?
『そこで、確定申告までにあなたに3分の1をお渡ししたいと思います。そうすれば寄付として控除を受けることができ、所得税を軽減することができます。』
なんだと……。
4億ポイントを全額換金すれば8000万円。
その3分の1となれば2600万円以上ではないか。
『お互いのためになることだと思います。もし受け取って頂けるのなら返信をお待ちしております。』
どうしたものか……。
しかし謎だ。
なぜ寄付先が吾輩なのだ。
冒険者仲間であれば志保に連絡をするはずであろう。
「これは佳保殿に相談する方が良いな」
どちらにしろ、これだけの大金を勝手に保有することはできない。
銀行口座もなければ、電子マネーの使い方すら学んでいない。
ここは相談するのが良いだろう。
階下に降りて昼のドラマを視聴している佳保殿に声を掛ける。
「佳保殿、すまないが相談があるのだ」
「はい。なんですか?」
「これなのだが……」
常盤永久からのメールを見せる。
「えっ、これがどうかしたんですか?」
「この金を受け取っても良いものだろうか」
「真中さん。これは詐欺ですよ」
「なんだと?」
「こうやって返信させて情報を手に入れたりして、最終的にはお金を騙し取られるんです」
ふざけおって。
人間の分際で、またしても吾輩のことを騙そうとしよったな。
「佳保殿、すまないが用事ができた」
「は、はあ。急ですね」
詐欺師よ、待っているがいい。
吾輩を陥れようとしたことを後悔させてやる。
「帰りは少し遅くなると思う。しばらく家を空けるゆえ、志保にも伝えておいてくれ」
「なら、スマホで真中さんが自分で連絡したらどうですか?」
「む。それもそうであるな」
なるほど。
これからは志保とスマホで連絡を取り合えるのか。
音声を送信するだけであれば、魔法でも良いのであるが、聞けばスマホを使えば画像や映像も送れるという。
今回は文字のみではあるが、試しに送ってみるとしよう。
慣れない手つきで文章を打ち込んで送信する。
「よし。それでは行ってくる」
「はい。戻って来るときには私か志保に連絡ください」
「うむ」
佳保殿に返事をしてから家を出る。
吾輩がちょうど詐欺師集団のアジトの情報を得た頃、『お母さんに事情聞くまでは詐欺師からのヤバイメールかと思って無視してたわ。ごめんやで。ってか、ウチへのメールで時候の挨拶とかいらんで』という返信が志保から来る。
魔王たる吾輩からの文に対して何とも失礼な娘だ。
そう思いつつも、吾輩はアジトへと向かうのであった。




