第18話 魔王を待つ冒険者
午前中は始業式が終わったら、今学期の授業に関する話を担任の先生がしてくれただけで早めに終わった。
ただ、受験までのタイムスケジュールに関してはかなりしっかりと説明された。
嫌でも受験生なんやなって意識させられる。
ほんで、今から少し長めの昼休みがあって、午後から身体測定の予定になっとる。
「あー、ホンマ最悪や」
ウチはというと校門前で体操服を魔王が持って来てくれるのを待っとる。
まさかこんな形で魔王の世話になるとは思わんかった。
ダンジョン以外ではあんまり絡みたくなかったんやけどなぁ。
周りには昼ご飯をコンビニに買いに出ていた生徒が戻りつつある。
うぅ、ウチもお腹すいたわ。
というか、チャリで20分の距離やから昼休み中に間に合うんやろうか。
いや、魔王のことやからきっと魔法を使って間に合わせるんやろう。
「さっきの人、めっちゃイケメンじゃなかった」
「ね。どっかの事務所の人かな?」
「けどテレビとかで見たことないよ」
「ってか、なんで手に巾着袋持ってたんだろう?」
「さあ? もしかしてうちの学校の生徒だったりして」
ウチの隣を通り過ぎて学校へと入っていた女子2人組の会話を聞いて確信する。
魔王はもう直ぐ側まで来とる。
間違いない。
そして自分の犯したミスを悟る。
「しまった……こんなところで待つんやなかった……」
そう思ったときにはもう遅かった。
視界の先にはウチの体操着入れを片手にこちらへと歩いてくる魔王がおった。
周囲に何人もの女子生徒を引き連れて。
なんともミスマッチな絵やなぁ……。
「おい、これでよかったのか?」
ウチの姿を見つけるなり、魔王は迷うことなく直進してきて話しかけてくる。
いや、まあそうやんな。
ウチが呼び出したんやもんな。
当然の行動やわ。
「あ、うん。そうですね。ありがとうございます」
「どうした?」
「いえ、なんでもありません。それでは、失礼します」
女子の視線に耐えかねて、体操着を受け取ってから素早く教室に帰還しようとする。
「ちょっと待て」
が、なぜか魔王に呼び止められる。
頼むから今は見逃して欲しい。
周囲の視線がヤバイ。
「な、なんですか?」
「お前がなぜ標準語なのか気になるところだが、それ以上に聞きたいことがある」
「は、はい? 今じゃないとダメですか」
「ああ、大切な話だ」
や、やめいや!
こんな状況で大切な話とか切り出すから、周りがなんかざわついとるやん!
「実はな。お前の父親のことなのだが」
ああ、なんでよりによってそんな話題やねん。
場の空気が一気に変わって、『ねぇ、聞いた。父親だって』、『え、なに。両親公認の仲ってこと?』、『あの子どこのクラスの女子よ』なんて声が聞こえてくる。
もう、どうにでもなれ……。
「先ほど留守番をしていると電話がかかって来てな。仕事でトラブルを起こしたから助けて欲しいというものだった」
「なんやて!?」
お父さんが大変と聞いて、ウチも素に戻る。
『留守番ってことは同居してるの!?』なんて驚きが沸き起こってるけど気にしとる場合やない。
「トラブルの解決に100万円が今すぐ必要と言われたが、佳保殿が居ないので保留にさせてもらったのだ」
「うん?」
なんかどっかで聞いたことあるような話の流れやぞ。
これはもしかして……。
「しかし、大志殿はあろうことか佳保殿などどうでも良いから金を振り込めと言って来たのだ。このことを注意したところ電話を切られてしまった。留守番を命じられたものとしてありのままに佳保殿に話すべきか……」
あ、これはあれやな。
うん、まず間違いない。
「真中さん」
「なんだ?」
「その電話、冒頭で『オレオレ』って言ってなかったか?」
「ああ、言っていたぞ。良く分かったな。さすが親子だ」
「いや、ちゃうねん。それお父さんを語った偽者や」
「なんだと?」
それから魔王にオレオレ詐欺という犯罪が存在しとることを説明する。
けど、魔王を引っかけた詐欺師なんて世界で初めてやろうな。
「なんと許せん奴らだ!」
「まあ、てなわけでお母さんに報告はせんでええよ。一応ウチからお父さんに大丈夫か聞いてみるし」
「そうか。なら頼んでおこう。吾輩はそろそろ戻ろう。用事ができた」
「そ、そうか。ほな、ウチも教室に帰るわ。体操服ありがとな」
「なに、気にすることはない」
それだけ言い残して魔王は去っていく。
しばらく見ているだけでも、5人の女の人に声を掛けられとった。
「早よ戻って昼ご飯食べんと」
開き直って、周囲の視線を無視して体操着を片手に教室へと戻る。
すると、今度は美優を筆頭にクラスの女子が何やら悪そうな表情をして待ち構えとった。
ああ、まだ受難は終わってへんのやな。
体操服忘れただけでここまでするのは神様も意地悪や。
……魔王とつるんどるから神様が嫌がらせしとるんかもな。
「ええと、美優。これは……」
「まあまあ、志保さん。座ってご飯でも食べなよ」
「う、うん」
標準語の美優に気持ち悪さを感じつつも、体操着入れを机の横に吊ってから、椅子に座ってお弁当を広げる。
すると、サッと席の周りを囲まれてしまう。
しもうた! これは罠や!
こうなっては逃げられへん!
「まず聞きたいんだけど、その体操着はさっき《《男の人》》に持って来てもらってたわね?」
「は、はい……」
「ほー、それでかなりのイケメンが持って来たらしいわね?」
「イケメンかどうかは知らんけど……」
というか、魔王なんやけど。
イケメンやけど、イケメンとか認定したくないわ。
「なるほど。志保さんはあれくらいではイケメンとは思わないと……」
「曲解や!」
クッソ、自分のミスが招いたことやから魔王のせいにもできへん。
「それであの人は誰なの? 友達なの? まさかの彼氏? それとも婚約者? ひょっとして許婚? 実は婿養子!?」
「ちょっと落ち着いて! そんなんとちゃうから!」
なんだろうか。
周りの女子は私がイケメ……魔王と親しくしていたことを追及している感じやけど、美優はどうにも私に男が居るかどうかを気にしてるみたいや。
お、嫉妬か?
かわいい奴め。
「というか、よくもまあそんなに男女関係を表す言葉がスパスパと出るなぁ……」
「それは毎日のように私と志保さんがそうなったらいいなって考えてるから」
「あ、はい」
「で、あの男はなんなの?」
「えーと……」
どう答えたらええんや。
冒険者事務局の人間って答えても、それはそれでウチの体操服を持ってくるのはへんやし。
しかも、下位冒険者のウチにわざわざ事務局の人が付いてることも説明できん。
こうなったら仕方ない。
「あの人は真中王太郎って言って、ウチの遠い親戚なんや。この辺で用事があるから春休みから我が家で居候してるねん」
「……本当?」
「ホンマや」
うぅ……目が怖い……。
けど、ここで目を逸らしたら負けや。
ウチはゴブリンにも勝ったんやから、美優にも負けへんで!
「……………。なら問題ないわ! なんや心配させて。ほら、志保。早よご飯食べ」
「あ、うん」
周りの女子が『え、美優さん。それでいいんっすか!?』って感じの顔になっとる。
やっぱり他の子とは気にしとるところが違ったみたいや。
「けど、親戚とはいえ間違いがないとは言えないしなぁ……」
「ないわ!」
これは気を付けなアカンな……。
そんなこんなでチャイムが鳴ってしまって、満足にご飯を食べられへんまま身体測定をしてから家に帰るはめになる。
ま、まあ、おかげで体重はちょっと軽かったで!
健康的な痩せ方じゃないよなぁ……。
ちなみに、その日は魔王は家に帰って来んかった。
ただ、翌日の朝のニュースでオレオレ詐欺のグループが捕まったって報道されたけどなんでやろうなぁ。
魔王も丁度、そのくらいに帰って来たけど、なんでやろうなぁ。




