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第13話 冒険者を出迎える魔王

 時刻は既に夕方になり、空はオレンジ色になっている。

 どこか魔王城の存在する領域を思い出させる光景である。

 そんな中、吾輩の前には少し落ち込んだ様子の志保が立っていた。


「何があったのだ?」


 というのもダンジョンの外で待っていると、何故か倒された冒険者が転送される救護室から出てきたのである。


「まさかタマネギが通用しなかったのか?」


 まさかそんなはずはないと思うが一応尋ねてみる。

 タマネギのせいでゴブリンが寄り付かなったようであるから効いているはずだ。


「ちゃう……タマネギはゴブリンに効果抜群やったで……」

「ならタマネギを使ってもお前のステータスでは倒せなかったか?」


 もしそうならお手上げである。

 今の志保でゴブリンを倒すこれ以上の方法は存在しない。


「それもちゃうで……ゴブリンはちゃんと倒せたで……なんなら5体倒したで」


 十分すぎる成果である。

 落ち込むのではなく胸を張るべき戦果だ。


「ならどうしたというのだ?」

「その……調子に乗っとったらゴブリンの集団に遭遇してもうて……せやけど、タマネギの在庫がなくて……」

「それで負けたのか?」

「うん……最初のときと一緒で囲まれてボコボコにされたわ……うぅ……」


 なるほど。

 それで落ち込んで居るわけか。

 最初の失敗を思い出したのか、はたまた順調に行っていたことが中断したことが辛かったのか。

 どちらか知らないが、ともかくこんな顔を見せられてはこちらもたまったものではない。


「ともかくステータスを見せてみろ」

「ほい」


 随分と素直にスマホを差し出してくれる。


 …………………

【ステータス】

 氏名:掛田 志保

 レベル:2/100

 必要経験値:200(現在150)

 体力:25 ≪基礎5・レベル補正20≫ 

 攻撃力:23 ≪基礎3・レベル補正10・装備補正10≫

 防御力:16 ≪基礎5・レベル補正6・装備補正5≫

 魔防力:5 ≪基礎3・レベル補正2≫


【装備】

 青銅の剣:攻撃力10

 青銅の鎧:防御力5

 …………………


「ほう、ちゃんとレベルアップしているではないか」


 このステータスならタマネギがなくともゴブリンに攻撃を通すことができる。

 まあ、それでも大したダメージではないからタマネギは今後もしばらくは必要かも知れないが。


「うん……」

「ほら、しっかりとするがいい。吾輩の言う通りにしてこうして成長したのだ。これで今までと違って勝てる見込みもできたし、稼げる見込みもできたのだ。何よりも凄い動画は撮れたのだろう?」

「せやで」

「なら良いだろう。嫌なことは忘れて家に帰って編集作業をするぞ。想像してみろ。動画を投稿する瞬間を」


 そう言ってやるとみるみる志保の顔が明るくなる。

 どうやら元気を取り戻してきたようだ。


「そ、そうやな! ウチは何を落ち込んでたんや。これからやな」

「その通りだ」


 うむ。

 吾輩とて魔王と名乗っているが、別に嗜虐しぎゃく趣味があるわけではない。

 素朴な志保の顔は好きだが、悲しむ顔を見て喜んだりはしない。


「ところで真中さんは今まで何をしてたんや?」

「吾輩はしばらくこの辺をうろついていた」


 なにやら志保の顔が疑わしいものを見るような目に変化している。


「お金もないのに暇やったやろ?」

「そうでもなかった」

「ホンマか? 魔法でも使って変なことしてないやろな?」

「グッズ店に行って色々な商品を見ていた」

「なっ! まさかウチのグッズも見たんか!?」


 何をそんなに焦ることがあるのか。

 一般に公開して販売しているものなのだから別に良いだろうに。


「もちろんだ。ところで冒険者一覧でもそうだったが、写真ではもう少しにっこりとすればいいのではないか?」

「な、な、なにを言ってるんや!」

「なぜだ? そうしたら売れるのではないか。残念ながらお前のグッズは売れていなかったぞ」

「ああ……最悪や……身近な人に見られるほど恥ずかしいことはないやんか」


 どうやら吾輩は志保にとって身近な人にカウントされているようだ。

 これは収穫と言っても良いな。


「はぁ……なんか疲れたわ……」

「それは何というかすまないな」

「別にええよ。真中さんのおかげで今日は冒険者で初めて楽しかったし」

「そうか」


 ここで志保はやっと笑顔になる。

 よしよし、機嫌を戻してくれたようだ。


「お腹すいたし、なんか食べて帰ろうや」

「ああ……それなんだが……」

「うん? どないしたんや?」


 これは正直に言うべきなのだろうか。

 しかし、秘密にすると言うのも信頼関係を築く上では問題だろう。


「実はだな……」

「実は?」

「お前との魔法での会話を終えたあとに、散策を再開したのだがな。その間に色々な女性に声を掛けられたのだ。最初は面倒であったので断っていたのだが、そのうちに断るのが面倒になってな」

「ほーん。ほんで?」


 ぐっ、魔王たる吾輩を圧倒するこのプレッシャーは何なのだ……。


「誰かと居れば声を掛けられることも無くなるだろうと考えて、2人組の女性としばらく居たのだ」

「ふーん。それで?」

「ちょうど腹も減っていたので、食事を共にしたぞ」

「へー、そうかそうか。ウチが死ぬ気で頑張っとったときに、真中さんは女の子と楽しく食事しとったんか。しかも女の子のおごりで」


 今までにないくらい冷たい視線を浴びせられる。


「いや、楽しくはなかったが……」

「おごってもらっといて、それはそれでクズ過ぎへんか……」


 実際、女性と居ても何を話して良いのか分からなかったので、適当に相槌を打って食事に集中していた。

 これでもダンジョン内で無事だろうかと志保を案じては居たのだが。


「何か気分を害したのなら謝ろう」

「はぁ、まあええわ。別に真中さんが誰と何をしようと勝手やし」


 どうやら許してもらえたようだ。

 なぜ魔王である吾輩が人間に赦しを乞わなくてはならないのかはなはだ疑問ではあるが、ここは引き下がっておくのが大人というものであろう。


「ウチが食べるのには付き合ってくれるんやでな?」

「当たり前だ。でなくては帰りの電車代がない」

「そんなことを悪気わるぎもなく言える根性はホンマ凄いで……」


 真実を伝えただけなのに呆れられてしまう。

 むむむ。

 これは冒険者についてだけでなく志保についても学んだ方が良いかもしれん。

 全くもってこちらの予想していない反応をされてしまう。


「ともかく行こか。食べて帰ったら編集作業や」

「その通りだ。編集作業とやらも楽しみにしている」

「ただの女子高生のウチに楽しませるほどの技術力はないで……」


 さて、果たしてどれほどの動画が撮れたのか。

 そしてどんな反響を呼ぶのか。

 楽しみだ。


「あとそれとやな」

「なんだ?」


 何やら妙に恥ずかしそうにしている。

 ふむ。

 何かしてしまったのだろうか。


「その……ありがとうな……」

「ふむ。行くぞ」

「せ、せやな!」


 再び笑顔になって志保が歩き始める。

 何がそんなにも嬉しいのか。

 本当に志保のことが良く分からん。


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