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第10話 動画内容を伝えられた冒険者

 カーテンから差し込む日の光で目が覚める。

 ただ、この前と違うのは部屋に同居人がおることやな。


「ふわぁ~。あ、おはよう」


 昨晩と同じようにベッドに背を預けている魔王に朝の挨拶をする。

 ……ウチも毒され過ぎやろ。

 というか、またいつの間に寝とったんや。

 布団に入った記憶なんぞあらへん。


「やっと目が覚めたか」

「ずっとその姿勢でおったんか?」

「うむ。なに、玉座にずっと座しているよりも楽しかったぞ」

「そ、そうか……」

「ほれ、スマホを返しておこう」


 魔王がスマホを返してくれる。

 画面は投稿動画ページのままや。

 まあ、他のものを盗み見てて、慌てて表示させたんかも知れんけど、疑ってもしゃあない。

 というか、ここで魔王を疑うのはなんか申し訳ない気すらする。


「あれ、充電が減ってない」

「ああ、途中で画面上部の数値が減少していることに気付いてな。母親に尋ねたところ電力が必要だと聞いたので魔法で充電しながら視聴していた」

「ほ、ほんまめちゃくちゃやな……」


 もう疑わんとこ。

 こいつは魔王や。

 絶対に魔王やわ。


「そんなことよりもだ」

「うん?」

「お前の最初の動画内容が決まったぞ」

「ホンマか!?」


 久しぶりに冒険者関連で胸が弾んどる。

 弾む胸なんてないやろって思ったやつは死刑や。

 魔王が良く分からん村娘とかいう評価しただけで、別にこれでも普通やからな。


「それで、一体どんな内容なん?」

「その前に一応確認したいのだが、ダンジョン内にはある程度のものを持ち込むことができるのだな?」

「できるで。職員の人が許可してくれたらやけど」


 実際にダンジョンに何日も潜るサバイバル動画を撮るためにリュックいっぱいの食糧を持ち込む人もおるし、動画を華やかにするためにクラッカーみたいな小道具を持ち込む人もおる。

 なんやろか。

 何か道具を持ち込むんやろか?


「あ、当然包丁みたいな武器は持ち込まれへんで。というかそんなもんを持ってダンジョンまで移動したら銃刀法違反で捕まってまうわ」

「安心しろ。そんなものは持ち込まない」


 とりあえずは安心や。

 ほんならどうするんやろうか。


「最初の動画は分かっていると思うがゴブリンを相手にする」

「うん。けど、ゴブリンのステータスは見たやろ? ウチじゃ攻撃ができへんで? 魔法でムキムキにでもするんか?」

「なりたいのか? それでいいならやるが」

「絶対に嫌や!」


 そんなことになったら、冒険者で成功する前に色々と失ってまうわ。

 どんな顔して学校行けばええねん。


「お前のステータス不足は承知している。だが、だからこそゴブリンを倒せたら凄い動画になると思わないか?」

「まあ、そりゃ思うけどやなぁ……」

「よって、お前にやってもらう動画のタイトルは【レベル1で初期装備の女子高生でも○○を使えば簡単にゴブリンが倒せる件】だ!」

「は、はい?」


 ってか、タイトルから妙に動画投稿に手慣れてる感があるなぁ……。

 この魔王、どんだけ研究したんや。


「で、○○ってなんやねん」

「いまお前の母親に買いに行ってもらっている」

「お母さんが買いに?」


 そんな簡単に手に入るもんなんやろか。


「ああ、今朝の味噌汁で使い切ってしまったようだったからな」

「今朝の味噌汁……って、いま何時やねん!」


 今更になって時計を確認する。

 既に昼過ぎとるやん。

 ね、寝すぎやろ。


「あかん、気付いたらお腹空いたわ」

「なら何か食べてくるといい」

「そうするわ。で、結局ウチは何を使ってゴブリンを倒すんや?」

「タマネギだ」

「…………うん?」


 ウチの聞き間違いか?

 今、こいつタマネギって言うたか?


「タマネギって、あのタマネギ?」

「そうだ。野菜のタマネギだ」

「皮をむいたら涙が出る、あれか?」

「安心しろ。吾輩の思うタマネギとこの世界のタマネギに齟齬そごが無いかどうかは、朝食の調理前に母親に現物を見せてもらって確認している」


 念のため確認を取ってみたけど、ますます理解できへん。

 なんでタマネギ持ってダンジョン潜らなアカンねん。


「どの世界でもゴブリンというのはタマネギが苦手なのだ」

「そんな攻略法聞いたことないわ!」

「知っている。ゴブリンの関連動画を全部見たが、誰もタマネギを使ってゴブリンを倒していなかった」

「そりゃそうやろ!」

「なんだ? 吾輩の言うことが信じられぬのか? 我は魔王ぞ。お前なんぞよりモンスターのことを熟知しておるわ」


 うぐぐぐ。

 そう言われるとそうかもしれんけど……。


「それにもし上手くいかなければ動画を投稿しなければ良いのだ」

「わ、わかったわ。乗ったるわ!」


 どうせウチには後がないんや。

 嘘でも乗ったろう。

 ほんでダメなら諦めも付くやろう。


「ともかくなんか食べてくるわ」

「うむ。戦の前だからな。しっかりと食べるといい」

「え、今日行くんか?」

「当たり前だ。タマネギが手に入り次第だ」


 アカン。

 めっちゃ緊張して来た。

 下痢止め飲んどこ。


「けど、タマネギをどうやって使うん?」

「決まって居るだろう。ゴブリンの目の前で皮をむくんだ。あと、実を切り刻むのもよい」

「はい?」


 うそやろ。

 もしかしてあれか。

 ゴブリンもタマネギで涙流すんか?

 いや、確かにあれは辛いけどもやな……。


「まあ、後は実際にやってみてのお楽しみだ」

「は、はあ……」


 ホンマに大丈夫なんか。


「ただいまー!」

「お、どうやら母親が帰って来たようだな」

「あー、朝食食べる前に昼食になってもうた。まあ、ええか」


 あれ?

 そう言えばお母さんが買い物に行ったってことは玄関は開くんか。

 なんでウチは逃げ出してへんのやろうか……。


「まさかお前、何か食べた後に昼食も食べるつもりであったのか?」

「う、うん……」

「そ、そうか。その、なんだ。若いというのはよいものであるな」

 

 意味不明な言葉と共に魔王の視線が腹部に向けられた気がする。

 もう腹ペコで怒る気もせんから見逃したろ。

 次に視線を腹に向けたら容赦なく怒ったるからな。


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