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モブ君主

「う~、帯がきつい。そも着物は窮屈で好かん」

「あんな見窄らしい服を着たまま陛下とご対面させられるか。我慢しろ」

「早う済ませてくれよ?」

 両脇に控える家臣はあからさまな馬鹿そうなやつはおらん。然りとて賢そうなのもなし。

「殿の御成~」

 さてあれほどの忠を得られる君主とはどのような尊顔か。

「面を上げて下さい」

 …………敬語? いやまさか。兎にも角にも頭を下げるは性に合わんし、姿を確認するか。

 ……ふむ、右から露払い、露払い、刀持ち? いやいや、そんなわけはあるまい。恐らく中央に座す者がこの国の君主であるはずじゃが。

 ……よもやジャンヌがされたという、本物の君主は家臣の中に混じっておるというあれか? いやしかし儂は神の使いを謳うておるわけでもなし。そのようなことをする必要性がない。

「おい、木偶。よもやあの中央に座りおる者が、貴様等が崇めておる奴ではあるまいな?」

「その通りだ」

 どうやら儂の目が狂うておるわけではなし。木偶の口調からして儂を試しておるわけでもなさそうじゃ。

「……嘘じゃろ?」

「こんなことで嘘をつくわけないだろう。あの方こそ我等が主君、桐生 阡冠照せんかんのしょう 真和様だ」

「アレがァ!?」

「アレとか言うな貴様! 無礼にも程が有るぞ!」

「それはこちらの台詞じゃ! 儂にアレを崇めろとは抜かしよる! 刀持ちの方がまだ威厳があるではないか!!」

「グフッ」

「威厳が無かろうが真和様が君主である事実は変わらん!」

「ガフッ」

「ほれ見い、否定せんということは貴様とて感じておるのではないか!」

「お前少し黙れ!」

「儂を黙らせたいのならば反論の一つでもしてみせよ!」

「それは……! とにかく黙れ!」

「ゴフッ」

「お二方とも」

「何じゃ!」

「何だ!」

「それ以上はおやめ下さい。陛下の心が限界です」

 見れば欠片ほどあった威厳が消え失せ、乞食にも劣る貧相な面をしておる。

「いいんです。…………器じゃないのは自分が一番分かってますから」

「おい木偶、最早見るに耐えんぞ」

「お前がいらないこと言うからだ」

「否定せんかった貴様にも問題があるぞ」

「お二人ともです」

 儂も同罪とは心外じゃな。きっかけはともかくとして、より多くの痛手を負わせたのは木偶であろうに。

「ともかく本題に移らせていただきます。この者の名は織田上総介信長。山賀にて傭役いたしました。然る後、我が国全軍の指揮を執らせたく存じます」

 流石にざわめくか。そりゃそうじゃろうな、いきなり出できた小娘に全軍の指揮を任せるなど誰が賛同しようか。

「宇治元、貴様正気か?」

「私が冗談を言っていると?」

「寧ろそうであってほしいくらいだ」

 さて、ここからどう説き伏せるのか。見せてもらうとしよう。

「なるほど、納得が出来ないと。確かに皆様の意見は御尤もです。寧ろそのように思えなければ家臣失格でしょう」

「それでも意見は覆さないと?」

「ここで覆すようであれば私は最初からこのようなことを言い出しません。しかしそれでは皆様が納得できない。そこで提案です。異議のある方は彼女と将棋をしていただく。彼女の実力を示すにはこれが一番手っ取り早い」

「ほう、いい度胸――」

「――ただし、皆様の首を賭けていただく」

 糸目の一言に全員の口が止まりおった。目は瞬きを忘れ、開いた口は閉じることをしない。こうなれば終いじゃな。臆した時点で糸目の勝ちじゃ。

「無論彼女が一度でも負ければ私の首を差し出しましょう。しかし彼女が勝った場合、負けた者の首を刎ねる。以上のことを踏まえた上で各々方異議を述べられよ」

「……時間をくれ三日、いや一日でいい」

「もうよい」

 形だけの話し合いなんぞ無意味にも程がある。

「兵を温存しすぎたな。平和ボケがすぎるぞ」

「お恥ずかしい限りです」

「小娘! 我等を愚弄する気か!」

「今命を賭けられん者が明日になれば命を賭けられると? もし本気で言うておるのならば望み通り侮蔑してやろうぞ」

「グッ……」

 反論の一つもないとは。プライドだけが無駄にでかくなりおった典型的な無能じゃな。

「そこなモブ。木偶から儂等が捕まった時の状況は聞いたか?」

 …………聞こえんかったのか? 静まり返っておるしそれはないとは思うが。となれば無視か?

「おい、貴様に問うておる! そこなモブ君主!」

「え!? 私ですか!?」

「当たり前じゃろう。貴様以上のモブはここにおらん」

「もぶ、と言われましても……」

 ああ、モブの意味が通じなかったか。となれば外来語は通じん可能性が高いな。

「まぁよい。して、聞いたか?」

「ええ、粗方は」

「では儂等が逃げられた経緯も知っておるな」

「はい、確か生け捕りという命令が出ていたことと信長さんの気転で逃げられた、と」

「そう、では何故生け捕りという令が出ていたと思う?」

 普通ならば抵抗すれば殺すのが常。逃げても問題ないのであれば、それ以上に殺しても問題ない。

「……どうしても生け捕りにしたかった。どうしても欲しい人材だった?」

「そう、真喜ばしいことに儂か、木偶はそうまでして欲しい人材らしい。そしてその人材が敵国へと流れた。じゃがその敵国は弱小国家。いくら兵を温存しておるとはいえ、攻めれば潰せる。さて、こういう場合手段を選ばないのならば、貴様ならどうする?」

「──ご注進! ドメルグ国兵士の大規模越境を確認! 既に蝦尼城は陥落! それに伴い尾木城から後詰の要請が来ております!!

「そうら来た。どうする? 大人しく地位を捨て降伏するか、それとも藁にもすがる思いで儂に任せてみるか。好きな方を選ぶが良いぞ?」

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