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「寂しき茶室じゃな」

「豪華な方がお好きですか?」

「いや、これはこれで趣があるというものよ」

「それは良かった。ではこれから話すことは他言無用でお願いします」

 木偶が知らんということは、恐らく糸目は誰にも話していない。それこそ確証がなかったということか。

「一から説明させていただきます。まずこの世界、とでも言いましょうか。この世界には大きく分けて三つの国があり、二十年の間血で血を洗う戦を行っています。しかし数えて十年前、この世界の人間全員が例外なくある夢を見ました」

「夢、とは?」

「それが先程の将棋と繋がります。その夢とは戦をそれぞれ将棋、チェス、シャンチーといった盤上遊戯に則り行うというものです」

 なるほど。となればこの国は将棋。儂を最初連れ去ろうとしていた国が西洋甲冑からしてチェス。そしてもう一つの国がシャンチーか。

「誰もがただの夢だと思いました。しかしその夢を見た翌日から世界は一変しました。戦場にて相対すれば地に升目が浮かび上がり、我々はそれに疑問を覚えつつも、何をどうすればいいかがわかった。将棋という名前すら知らなかった我々がです」

 記憶の追加か。随分と大それたことをしたものよ。

「戦が変わってから三年経った頃です。付随された記憶は駒の動きと戦の決まり事だけ。定石までは知らないため駒の数で勝っている我々は当時善戦していました」

 戦と机上の遊戯とは別物。捨て駒が良策と睨んでも、実行しようとすると躊躇してしまう。駒が多ければ互いで補えるからな。前線を突破する隙も少なくなる、か。

「しかしある日のことです。変わったんです、敵の動きが。あからさまに」

「あからさまに、とは?」

「ええ、まるでこちらの動きに対し、どう対処すればいいか分かっているかのように」

 定石とは言わば先人が数百年かけて無駄を省いた物。三年では追いつけんじゃろうな。

「各地に間者を走らせ、私はある情報を得ました。それがドメルグ国には輪廻転生を繰り返す将がいる、という情報です」

 俄には信じられなかったが、戯言とも流せんかった。何しろそれ以外に説明が付かぬ。いや、それ以上に納得の出来る事象がなかったと言うが正しいか。

「もしも相手に輪廻転生を繰り返す者がいて、その者が定石を知っているのならば、私共に勝てる道理はありません。故に待つことにしたのです」

「儂のような、定石を知る者、言わば転生者を」

 仕掛けても悪戯に兵を失うだけ。ならば虎視眈々と機会を伺うか。狸もそうやって最後に天下人になっとったのぅ。

「……そうだったのか」

「すみません、私がそのような世迷い言を信じていると漏れれば、家臣に動揺が走りかねなかったので、誰であろうとも漏らすわけにはいかなかったのです」

 ようやっと木偶が捕まっておった理由がわかったわ。大方攻めねば勝てぬなどとほざいて、独断で兵を動かし返り討ちにおうたという所か。それでも尚処断されぬことから察するに、それほどまでに腕が立つのか、将又随分と温い君主がおるのか。まぁどちらでも良いか。

「単刀直入に申し上げます。織田信長殿。貴方に我が軍の指揮を取っていただきたい」

「……ほほぅ、儂に従属せよと宣うか。それは当然儂が仕える価値なしと思わば、その君主を斬り捨てても良い、という意味を内含しておろうな?」

「それは――」

「そう思われて結構です」

 ほう、木偶は躊躇したが糸目は言い切ったか。それほどまでに権威のある君主。……興味はあるな。

「おい、頼近!」

「私は真和様を主君たる器と信じている。そしてこの者が味方にならねばどの道滅ぶ運命。ならば私は真和様に賭ける……!」

 そうぬけぬけと斬らせはせんじゃろうが、それだけの覚悟はあるということか。

「……信長、いや織田上総介信長殿。私からもお願いする。どうか貴殿の力を貸してほしい!」

 糸目の鬼気迫る態度に木偶も腹を決めたか。良い目をしておるわ。

「相分かった。されど条件がある。なにそう警戒せずともよい。儂が提示する条件は一つ」

「……何でしょう?」

「とある骨董屋にある碗を買うてくれ」

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