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定石

 これから先、将棋やチェス等が深く関わってきます。しかし私自身素人に毛が生えた程度の知識しかない上、調べながら書いているレベルなので、かなり『それは悪手だろ!』というツッコミどころ満載になると思います。

 なので将棋やチェスにお詳しい方は、あまり深く考えず、駒の動かし方を覚えた頃くらいの脳みそで読んでいただければ幸いです。

「長家、どうしました? 何やら騒がしいようですが」

「おお、頼近。ちょっとこっちに来い」

 木偶よりは頭の切れそうなやつ。あからさまな軍師キャラじゃな。

「信長、紹介する。我が盟友、瀬川 宇治元 頼近だ」

「……信長。貴方が」

 儂が名を知っておるということは、どうやら木偶から話を聞いておるようじゃな。ならば自己紹介は無用か。

「貴方のお話はそこの長家から伺っています。なんでもその歳にして非常に聡明な御方だとか」

「さぁどうじゃろうな。儂が聡明かどうかは頭の良き者の絶対数で変わってくる」

「いえ、その返答で十分です」

「頼近様、そろそろ……」

「ああ、すみません。すぐ行きます」

 そう言えば徴兵の選別中じゃったな。

 しかし見れば見るほど不思議な光景よ。長家の周りには力溢れる腕自慢。長槍に刀があることから足軽の選別じゃろう。

 それに対し先程頼近が来た方向には細身の者達。恐らくは軍師志望の者共。

 この国を旅してある違和感があった。 やけに将棋が流通しておる。おかげで金を稼ぐのは楽じゃったが、ただの暇つぶしとも考えられん。しかもこのような徴兵する場においても棋盤があるなどとありえん。

 まさか将棋と戦を同等に考えておるのではあるまいな?

「一局どうです?」

「ふむ、いいじゃろう。精々楽しませよ」

 頼近が指すと聞いて野次馬が砂糖に群がる蟻のように押し寄せよる。気にはならんが、見世物みたいで落ち着かんな。

「貴様は強いのか?」

「ええ、まぁそれなりですね」

 嘘をつけ。一国の軍師たるもの、弱いわけがなかろう。

「先手後手、好きな方を選ぶが良いぞ」

「では公平に振り駒で」

 歩が二枚、と金が三枚。儂が先手か。

「そうじゃな、2六歩じゃ」

「8四歩で」

 まずは定石通り互いに飛車先の歩を突く形となるか。……まぁ当然じゃな。

 此奴は見たところ奇策には走らず、堅実に行くタイプ。劇的な勝利も無いが、大敗北もない。

「2五歩じゃ」

 守りは性に合わん。やはり攻めねばな。ここは棒銀でいくとするかのう。

「3二銀」

 銀? 金ではなく銀じゃと? 相掛かりで? どういう腹積もりじゃ? しかも何か違和感がある。まるで探り探りでやっているかのような……。

 まぁ暫く進めればいずれ違和感の正体も掴めよう。

「…………貴様、儂を馬鹿にしておるのか?」

「馬鹿に、とは?」

「攻めもせず、囲いもせず。行き当たりばったりで儂に勝てるつもりか、と問うておる。儂は儂を侮辱する者を許さん。次ふざけた手を指してみよ。喉元に食らいつき殺すぞ」

「……なるほど、わかりました」

 儂の言葉は真意。間違いなく相手にも伝わった。しかし儂の3四飛に対し此奴が指した手は7六飛──

「――貴様ァ!!」

「待て!」

 命乞い? 否、近衛兵への令か。にしては反応が早い。何故? 儂が法螺を吹いたとでも――。

「──貴様、儂を謀りおったな?」

「こうまで躊躇なく飛びかかってくるとは予想外でしたが」

 相横歩取りならば普通後手は角交換をしてから7六飛と駒を進める。にも関わらずこ奴はそのまま飛車を7六へと駒を進めた。

 一国の軍師となる程の頭を持つ者が、その不利を知らぬはずがない。

「砂に塗れるのは初めてか?」

「いえ、幼少の頃に何度か」

 違和感の正体はこれじゃったか。それならばそうとはっきり申せば良いものを。

「いやはや、お強いですね」

「こんな序盤戦では実力など分かるまいよ。勝負はお預けじゃな」

「おい、どういうことだ? 説明しろ」

 未だ理解出来ぬとは。木偶が木偶を脱するに如何程時間を要するか。……気が遠くなるな。

「長家、あたなが言っていたことが本当かどうか確かめたのです」

「俺が嘘をついていたと?」

「……はぁ、何故その場におらなんだ儂の方が理解できておるのか。貴様は儂の記憶について糸目に告げたじゃろう」

「糸目……ですか」

 儂が輪廻転生を繰り返しているという記憶。木偶は笑い話のつもりじゃったのだろうが、糸目はそれを冗談とはしなんだ。

 確証もなしに戯言を信じるタマではあるまい。

「して、根拠を教えよ」

「いいでしょう。しかし長家を含む三人のみでお話させて下さい」

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