綻び
「出るぞ」
「へ?」
「いつでも発てるよう準備しておけと言うたはずじゃが、まさか何もしておらんのか?」
「いやできるけど、二、三日は大丈夫って言ってたじゃない」
「それが?」
「それがってあんた、早すぎじゃない?」
「向こうもそう思うであろうな」
常に裏をかかねば出し抜かれる。此度はそういう相手であることはこやつも理解はしておるはず。大方早まることは予想しておったが、昨日の今日出るとは思うておらんかったと言ったところか。
「でもこの部屋四方を監視に囲まれてるんでしょ? どうやって抜け出すのよ?」
「綻びを作るしかあるまい」
「どうやって?」
蝋燭で照らされる部屋に男が一人。男はその光を糧に本を読んでいた。
不審な物音はない。今日も読書にふけながら、日が昇るのを待つ。
と、思っていた矢先のことだった。突如として扉がゆっくりと開かれる。しかしドアが少し開いた程度で、向こう側に人がいるかどうかも分からない。
用心の為、剣を手に取りゆっくりとドアを開ける。そしてそこには監視対象の一人である白髪の少女が息も絶え絶えに座り込んでいた。
「如何されました?」
「ハァ、ハァ……すみません、突然……」
一見高熱にうなされているかの様子。しかし額に手を当ててみるも多少の火照りはあるものの、ここまで疲労困憊になるほどでは無い。
「お体に何か異常が?」
「……ごめんなさい、私……もう――」
持病か、毒が盛られたか、はたまた別の要因か。様々な可能性が男の脳内を駆け巡るも、得た返答はまるで見当違いのものだった。
「――体の疼きが、止まらないんです!」
「――は?」
あまりにも予想外な出来事に男は思考を止める。
狼狽える間も少女は男の裸体を顕にしようと服に手を伸ばした。
「お、お待ちを! そのような事をいきなり」
「お願いします。ここに来てもう五日。もう限界なのです」
「し、しかし……」
「……私では、駄目ですか?」
少女が胸元を広げる。全ては見えていないものの、顕になった谷間は男の理性を奪うには十分な魅力があった。
「で、ではせめて布団の上で……」
「ありがとうございます。ただ体に力が入らなくて……。手をお貸し頂けますか?」
少女からの要望に男は剣を起き、少女を抱えた。そして――
「――ごめんなさい」
少女の言葉が言い終えるのが先か、後頭部に強い衝撃を感じ、次の瞬間には意識を失っていた。
「なかなかの演技じゃったのぅ」
「やめて言わないで! もうやだ! 隼摩を出てからろくな事になってない!」
「良いでは無いか。別に操どころか接吻すらしておらんじゃろうて」
「ならあんたがすれば良かったでしょ! なんで私なのよ!」
「この凹凸の少ない体でか? 胸の大きい貴様がやった方が効果があろうて」
「そうかもしれないけど……」
さて、ここで言い争いをしておる時間も惜しいな。馬宿は確認してあるし、この男も拘束しておけばすぐにはバレんが、定期的に異常がないか確認しに来る役もおるはず。
「急ぐぞ。誰かと鉢合わせでもすれば言い訳すら出来ん」
「分かってるわよ!」




