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記憶

「……トイレ」

 信長は、流石に起こす訳にはいかないか。真夜中だし。

 ……そういえばトイレの場所知らない。まぁ、少し歩き回れば見つかるか。

 でもこうして歩き眺めるだけで文化の違いがわかる。私にとってはこれが普通だけど、信長は地続きでこれだけ文化が違うのは珍しいって言ってたっけ。

 そう言われればそうなのかもしれない。昔っから争ってるとはいえ、商人とかは越境してる訳だし、普通ならある程度似通ってくるのかも。

「――こんな夜中に一人で何してるのかの?」

「あ――」

 まずい、まさかこんな夜中に起きてるなんて。信長はいないし、どうしよ……。

「あの、お手洗いはどこですか?」

「あぁ、案内役が説明しておらんかったのかの。付いてくるといいの」

「あ、ありがとうございます」

 どうしよう。何だかまずい方向に行ってる気がする。

信長はこの人の事狡猾だって言ってたし、的外れとは思えない。それにそういう人って大体勘がいい。

「――ところで其方等はどういう関係かの?」

 やっぱり来た。そりゃそうよね。この髪と目の色だし、多分隼摩の人間ということすら怪しまれてる。

「……ただの従者です」

「隼摩の者の髪の色ではないようだがの? どちらかと言えばドメルグではないかの?」

「母がドメルグの人間で、それが濃く出たんです」

「ほう、混血とは珍しいの。しかしそれにしては目の色から顔つきまで隼摩からは遠い気がするがの?」

「よく言われます」

 やっぱり誤魔化すにしても限界がある。ドメルグから亡命した事にする? いや、どっちにきろ詳細を聞いてくるはずだし、そうなったらどこかでボロが出る。

 そうなる前に会話を変えないと。

「ところでだがの」

 自ら会話を変えた? なんで? 私の正体を探るつもりなら変えるより、あのまま食い下がった方が有効なはず。

「余は前に使者としてドメルグに行ったことがあるんだがの。その時非常によく似た風貌の子供を見かけたんだの」

「――ッ」

 まずい! まずいまずいまずい!

 ここで切り出してくるくらいだ。この男は間違いなく確信してる。どうしたら……。

「その子供というのが、ドメルグ国王のひm――」

「――こんな所で何をしておる?」

「……信長」

「そやつを勝手に連れ出されては困るのじゃが?」

「お手洗いを探しておったからの。案内をしてやったの」

「厠はこの方向ではないと思うが?」

「そうだったかの。記憶違いしておったの」

「こっちじゃ」

「ちょっ……」

 私の手を引いて信長が歩き出す。あの男はその姿を見送るだけだった。

「……ごめん」

 繋がれた手は暖かい、と言うよりは熱い。暗くてよく見えなかったけど、近くで見ると首筋も汗ばんでる。

 どうやら私を探すためにかなり走り回ったらしい。

「何か言われたか?」

「子供の頃の私を見られてた。多分ドメルグの姫って事もバレてる」

「で、あるか」

 信長の事だから恐らく次の次位の手を既に模索し始めてるはず。

「本当にごめん」

 私のせいで考えてた計画は全て頓挫。一から練り直す羽目になった。それも早急に。

「貴様が謝る事ではない。顔を見られていたのならばどの道こうなった。強いて言うなれば、ノコノコとあの男に付いて行った事は貴様の落ち度じゃがな」

「ごめん」

「やつは儂を警戒しておる。であれば二、三日は動きを見せなくなるはず。兎も角いつ何時でもここを発出るよう準備しておけ」

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