リスク
その後連れられたのは大広間で、豪勢な料理に舌つづみをうちつつ、芸事を楽しんだのち、寝室に案内された。
どうやら儂らの詳細までは聞いてはいないものの、それなりに重要な人物であることは察しておる様子。
「一応客人としてもてなしてくれはするのね」
「そうか? 儂には逃げたら許さんと言うておるように見えるぞ?」
出来るのならば儂らを懐柔したいであろう事が透けて見えるが、それも織り込み済みの手を打ってくるはず。
さて、どうするか。
「いっそ夜中に逃げ出す?」
「無理じゃな。この寝室。四方に部屋があった。恐らく常に見張りを置いてある」
「ならどうするのよ」
「それを今考えておる」
間違いなく言えるのは、しくじれば激高され二度と脱する手がないような所に閉じ込める。もしくは拷問にかけられるかのどちらか。
なれば一旦あの男に擦り寄るのが吉か。
「一つ言うておく。此度は勝手なことをするな」
「勝手なことって何よ。あれはあんたのために――」
「――声を荒らげるな。貴様の為に言うておる」
「私のためって……あっ」
「ようやっと気づいたか。ここは趙で貴様はドメルグの姫君じゃ。もし正体がバレてみよ。間違いなく厄介なことになる」
「厄介なことって、例えば?」
「儂ならば、そうじゃな。ドメルグ兵の目の前で公開処刑にする。全員に見える位置かつ、手出しができん場所で。何なら辱めを与えるオマケ付きじゃ」
儂の言うたことが虚言や、誇張しているわけではないということは理解しておるはず。むしろドメルグの士気を削ぐという意味ではかなり現実的。
故に此奴も声を上げることもせず、ただ恐怖を滲ませた。
「ならなんで私を連れてきたのよ?」
「関を越えるのに貴様を連れておけば可能性が増える。事実貴様は機転を利かし無事関を抜けられた」
此奴の差し出した条件が条件じゃ。ドメルグの関に置いてくるもしくは引き帰させるにしても、此奴を一人にするにはリスクがでかい。
「兎に角常に儂の傍にいよ。そうすればどうにか儂が誤魔化せる」
「わ、わかったわ」
此奴の性格ならば嫌と言いそうじゃが、流石に我儘を言えぬか。
しかしどうするか。やつは既に次の手を打ち始めているはず。うかうかしておれば足をすくわれかねん。
「どうにかせねばな。それも早急に」




