慣れ
「三日か。運がいい方ではあろうが、この状況で足止めくろうたのは痛いな」
ドメルグも慎重になっているはず。とはいえいつ攻めてきてもおかしくない。となると後半また走ることになりそうね。
「ともかく今は目の前の問題に集中せねばな。流石に獣道だけあって足場が悪い」
あの関所が出来てからのものだというのは本当らしい。聞かなければわからない程度には草木が生えていて素人目じゃ分からない。歩いて初めて地面が踏み固められてるのが分かる。
「これどのくらいかかるのよ?」
「へぇ、夜明け前までには抜けられるかと」
「雨が降らんでよかったな。この上足場まで泥濘んでおるとなると、半日はかかるじゃろうて」
先導してくれている山本さんはこの道を知っているだけあって、歩き慣れているのはわかる。にしても信長がこうも難なく歩を進めるのは納得行かない。
「ほれ、はようせんか。もたもたしておる暇はないぞ」
「分かってるわよ、うっさいわね。こっちはこんな獣道歩き慣れてないのよ。何であんたはそんなに早いの?」
「趣味でよう鷹狩りに出ておったからな。この程度の獣道問題ない」
「それは悪かったわね。どうせ私はただのお嬢様ですよ」
こいつの挑発に乗るだけ体力の無駄だ。だったら少しでも早く歩くことに集中しないと。
「ほれ、捕まれ」
「何よ、この左手は?」
「引っ張ってやると言うておる」
「冗談。自分の体を見てみなさいよ。万が一私が転けでもしたらあんたを巻き込むわ」
戦場で刀を振るってたあたり体力はあるのだろうけど、そもそもの体重が違う。信長の体で私を支えきれる訳がない。
「口から出る言葉が自尊心から来るものではなく、儂への気遣いとは貴様も随分可愛らしくなったな」
「へ? や、違──」
「ほれ、行くぞ。精々儂を巻き込んで転ばぬよう気をつけぃ」
声を遮られた挙げ句、無理やり手を掴まれる。またいつのまにかこいつのペースに飲み込まれていたらしい。
「ホントムカつく。…………アリガト」




