抜け道
「こちら権兵衛さん」
「どもっ」
「はぁ……」
「なんじゃその素っ頓狂な返事は?」
「いきなり知らない人を紹介されたら誰でもこんな声になるわよ」
ふむ、少し言葉が足りんかったか。やはり他者に思考能力を合わせるというのは大切じゃな。
「こちら山本権兵衛さん」
「どもっ」
「はぁ……」
先程と打って変わらぬ返事。それ程まで言葉が足りんか?
「こちらこの村に住んでおる山本権兵衛さん」
「そうじゃないわよ! この男は何者って言う意味のはぁ、よ!」
「じゃから言うておろう? この男は山本権兵衛さんじゃ」
「どもっ」
「うっせぇ!!」
「つまりこの男があの関所の抜け道を知ってるってこと?」
「そういうことじゃな」
そんな道があるとは思えないけど。仮にあったとしても、こんな都合よくその道を知っている人物が現れるかしら?
「えと、山本さん? ちょっと信長と二人っきりにしてくれるかしら?」
「なんじゃ儂と二人っきりになりたいとは、盛っておるのか?」
無視。この言葉に反応すれば余計言いくるめられることくらいもう分かる。
「大丈夫なの?」
「何が?」
「信用できるのかってことよ」
信長のことだから、何かしらの裏付けでもない限り馬鹿正直に信じないはず。
「少し見させてもろうたが、どうやら獣道。それもこの関所が出来てから後に出来たものじゃ。ドメルグが認知していない可能性は大いにある」
「ならいいけど……」
実際に見たのなら、ないなんてことはない、か。
「それに他の手段がないからのう。とりあえずあの男を信じるしかない」
「それもそうね。それで、いつ行くの?」
「今宵は月夜。闇に紛れるため、しばし雲の多い日を待つ。それまで精々体力を回復しておけ」




