関所
「丘ーを越ーえゆこうよー、口ー笛吹きつーつ♪」
「何で山道をそんなに早く歩けるのよ。ていうか、何で私達が趙に向かってんのよ!!」
説明ならばしてやったものを。それともこやつの頭はそれ程までに悪くなったか?
「そんなこと、結論として儂が行くのが一番手っ取り早いと言うたじゃろうて」
「あんた一人で行けばいいでしょ! 何で私までついて行かなきゃいけないのよ!」
「か弱い女子に一人で旅をしろとは酷なことを言うのう」
「見た目だけでしょうが」
言い返す言葉すら途切れる程体力を消耗したか。まぁ慣れぬ山道でよう着いてきたと褒めてやるべきか。
「登り坂で休むと次の一歩を踏み出すのに苦労する。もう暫く歩けば下り坂になる故、そこまで何とか歩を進めよ」
「言われなくても歩くわよ」
しかしそう時間もかけていられんな。目立つ故馬が使えん以上徒歩で行くしかない。となればドメルグに入るまで約一週間。そこから趙に入るまで一月はかかる。
ドメルグが軍備を整えるには充分過ぎる時間がある。
趙の呼応を警戒して直ぐには動き出す可能性は低いとしても、賭けるには少々分が悪い。
「ほれ、そこに丁度いい岩がある。そこに座れ」
趙に渡るまで少なくとも三つの関所。木偶と一つ越えるだけでも苦労したというに、それが三つに増えるとなると、恐らく秘密裏に越えるのは不可能。となれば抜け道を知りおる奴を見つけ出すが吉か。
「ちょっと?」
「何じゃ?」
「暑いんだけど」
「そうか」
しかしそう都合よく協力者が見つかる訳も――
「そうかじゃないわよ」
「何じゃ不満そうに。今考え事をしておるんじゃが?」
「何で私の足に座るのよ?」
「この儂に立てと申すか? 儂とて疲労は溜まるぞ?」
「どっか別の場所に座ればいいでしょ!」
「他に椅子となる場所が目につくか?」
「だったら地面とか――あッ」
自身の失言に気づき、とっさに言葉を止めたか。しかしもう遅い。
「ほう、この儂に地べたに座れと申すか。いい度胸じゃ! 今一度貴様の立場というものを理解させてやろうぞ!」
「や、やめ……いゃぁぁあああ!!」
「予想以上に早く着いたのう」
「ハァ、ハァ……走って……来たんだからッ当然でしょ……」
「そうまで急くとは、主も中々に勤勉じゃな」
「何度も追いかけ回したくせに、よくそんなセリフを、吐けるわね……」
さて着いたはいいが、どうやってこの関所を抜けるか。
「しかし最早これは城じゃな」
この関所は国境であるため間違いなく警備を固めておるはず。さらにいえば今の儂らのような使者を警戒しておる故、他の国境にある関所よりも守りは固い。
しかし後の事を考えるならば、ここは絶対に事を荒立てることなく、通らねばならん。
「少し戻ったところに小さい村がある。今日はそこで宿をとるぞ」
「ほんと!?」
「なんじゃ、やけに嬉しそうじゃな。貴様の事故、城下に泊まればいいとでもごねるかと思うたが」
「そりゃあんたはともかく私は顔を知られてるわけだし、そんな状況でワガママ言うほど馬鹿じゃないわ。それに宿ってことはお風呂と布団があるんでしょ? 川と土の野宿と比べたら天国よ」
「そうかそうか、ならば存分に楽しむがよいぞ」




