主義
これでただでさえ遠いキングとの距離が更に増した。近いようでいて遠いなど恋愛ドラマだけでいいというに、真厄介なことよ。。
「どうすんの? 相手の駒は玉の目の前よ。対してこっちはあんたの飛車が生きてることになるからキングを取るには邪魔が入らなくても二手はかかる」
「そして4七が押し負ければビショップが玉の目の前にいることになる、か」
駒数で言えばビショップ一隊に対してこちらは歩と銀。しかし一駒あたりの兵数で言えばチェスのほうが多い故、人数の広がりはそこまで多くはない。寧ろ十分に押し負ける可能性もある。となれば4七がやり合うとる内に決着を付けるのが吉か。
「ツンデレ、貴様がドメルグであれば次はどう指す?」
「……クィーンを一つ上げるわね」
「で、あろうな」
飛車を成らせるわけにはいくまい。そしてここの部隊も助けたい。となればクィーンを5三にあげるのが最善。となれば──
「──6五桂じゃ! 急げ!」
「あんた、これって……!」
「退路を断った。これで儂らは攻めるしかない」
「……正気?」
「カハハ、正気など、とうの昔に失うておるわ」
6一ルーク……誘いじゃな。向こうから飛車に仕掛けては兵力差でどうしても不利になる。ましてや今儂らは五駒程の兵力。であればクィーンで取りに来たいはず。しかしクィーンでも兵力差は大きいため、儂らの行く先に先に駒を配置することにより、兵力差を埋めるか。
「5三桂成らずじゃ! 安心せよ、向こうは手出ししてこん!」
「この配置、あんたまさか──」
「──儂は6一へ行く。貴様はここに残れ」
儂を睨みながらの沈黙。恐らくは儂の考えが読めんのか、それとも気に食わないのか。
「……6一飛、同クィーン、同桂、同ルーク。こっちが勝つにはどう考えてもクィーンが邪魔。飛車が突っ込んでくれば兵力差から間違いなくクィーンが来る。向こうにしちゃクィーンが無くなってもルークがあるから十分に玉を詰ます事が可能だから尚更。そんな所でしょ?」
「その通りじゃ」
「死ぬわよ?」
「知っておる」
常に傍に置いていた故、儂に情でも移ったか。貴様は元々儂を殺すために戦場に来たくせに。
「しかし儂もただ死にゆくのを待つだけではない。貴様にこれをやる」
「これは──」
手渡した物をマジマジと見つめる。此奴の頭であれば、これだけで察せよう。
「ここに兵力の半分を残しておく。後はは分かろう?」
「待ってよ! 私はドメルグ国王の娘よ! あんた達の敵なの!」
「今は儂の所有物であろう?」
「それにッ……私は出来損ないで……そのせいで父様にも見放されてッ……!」
「──儂を馬鹿にする気か?」
「……ッ!!」
全く、腹が立つ。冷静に考えれば分かるものを、卑下ばかりしおって。
ツンデレの目に涙が溢れ始める。強く怒り過ぎたか? いや、今まで抑えておった感情が吹き出したか。
「なんで、何であんたが怒ってんのよ……」
「はぁ、儂はな──有能しか傍に置かん主義じゃ」




