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勝機

「儂らが求むべきは大局の勝利よ。一兵卒の命ではない。貴様も理解しておろう?」

「……分かってるわよ」

 若いというのは武器でもあり、弱点でもあるな。

「それに見捨てたわけだはない。後回しにしておるだけじゃ」

「どう違うってのよ?」

「6六には相手方の増援は送れん。何せあそこにはポーンが”存在しておる”事になってるからのう」

「……どういうこと?」

「これは盤上遊戯に則った戦。そして仕掛けたのは向こうじゃ。つまり相手方のポーンが儂らの歩兵をとった形になる。自分の駒がある所に自分の駒は指せんじゃろうて」

 ツンデレの目が見開き、戦の火蓋が切って落とされた6六に視線を送る。ようやっと気づいたか。もう少し思慮深さが必要じゃな。

「そっか、向こうは6六はポーンの頑張りにかけるしかないけど、こっちは金将の効きがあるからいざとなれば増援を送れる」

「他の駒であれば突っ込んですぐ引かせる事もできようが、何せ駒はポーン。次動くには桂馬か歩兵かと連戦させねばならん」

「ナポレオン様がそんなことも読めないとは思わないけど、なんでそんな事を……」

「簡単なことよ。ナポレオンは儂の不意を突き、そこに慌てて増援を送らせたかった。それだけじゃ」

 まったくこうも思考が似通ってくると笑えてくるな。

「何笑ってんのよ?」

「いやなに、似た者同士の戦いかと思うとな?」

「似てる? どこが?」

「カハハ、正面から頭脳戦でやり合うなどまっぴらという所じゃ」

「何よそれ──」

「──さて7四歩は前身じゃ! ナイトが来るが安心せい。儂らが後詰を引き受ける」

 こういう時ポーンは不利じゃな。何しろ正面の敵に対しての対応策がない。されどやすやすと歩に成らせるわけにはいかん。

「かつて貴様の部下だった者達との殺し合いじゃ。ツンデレ、覚悟はよいか?」

「そんなの聞くまでもないでしょ。この戦場に出てきた時済ませてきたわよ」

「いい返事じゃ。飛車隊、突撃じゃあ!!」

 前方の歩兵に合流するとともに、懐かしささえ感じる血の匂いが鼻を燻る。最早癖となったか、その匂いを嗅ぐだけで一瞬で高揚感が儂を支配した。

「成っただけで十分じゃ。クイーンが来る前にできる限り数を減らして引くぞ!」

 覚悟を決めたというておったが、やはりまだ出来ておらんか。ツンデレの握る剣先が小刻みに震えておる。

 幸いにして肉壁があるおかげで戦わずにすんでおるが、この先どうなるか……。

 早う覚悟を決めよ──

「六段まで引くぞ! まだクイーンとやり合うには早すぎる!」

 ──この戦の勝機が尽きる前に。

第23部分の最期辺りの棋譜が間違っていました。正しくは6六、5六でした。今後完全に無いとは言い切れませんが、出来る限りこういったミスは無いように勤めます。申し訳ございませんでした。

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