駒
最悪居玉でも対応出来なくはないが、急戦は避けたいのが本音じゃな。穴熊でも組んでくれば話は別じゃが。
さて、ここからどうするか。
向こうはどうにかしてクイーンをねじ込んできよるはず。それさえ防げば駒数も含めこちらが有利。
逆に言えばクイーンに内側へと入り込まれれば、状況は絶望的とも言える。
将棋は極端に後方の敵に弱い。それこそ入玉されれば詰ますのは至難なほど。
つまり狙うて来るとすれば──
「──やはり5五かッ!!」
チェスの最も厄介なことはクイーンの戦力でも、ルークやビショップの展開力でもない。将棋で言う歩兵に当たるポーンが互いにカバーしあえる事にある。
将棋の歩兵は成らぬ限り、同じ筋には指せん。故に銀や飛車でカバーする必要がある。しかしポーンは進む時は真っ直ぐに進むが、相手の駒を取る時斜めに取る。即ち段をずらせばポーンでポーンをカバーすることが出来る。
それは即ち大駒をカバーせず遊撃として自由に動かせるということ。
「5六銀へ登れ! 次いで4四へポーンが来よる内に角は8七じゃあッ!」
攻めの形は上々。しかしこの形は後方へ入り込まれた途端、酷く脆い。
恐らくこの後相手は飛車角への守りを固めるはず。その隙に玉を移動させるか。
「やはり5三にビショップを置いたか。玉は今のうちに4八じゃ!」
さて、これで後は7筋から攻めれば──
「──6四ポーンじゃと!?」
彼奴め、やってくれおるわ。いきなりにも程があろうに!!
どうする? 飛車を6筋へと動かしたいところじゃが、それでは攻める手立てが無くなる。それが理解しておるからこそあのポーンは動かん。
かというて放っておけばあのポーンは後に必ず厄介な楔へと変貌する。
「……チッ。6七金じゃ! 6八が劣勢になるようであれば攻め入れよ!」
序盤で囲いの駒を失うのは痛手じゃが、仕方あるまい。こうなれば金も攻めに加え、一気に押しつぶすのみよ。
「7四歩じゃ!」
「ちょっと6六はどうするのよ!? それに4筋からもポーンが来てるわよ!?」
「4五のポーンはまだ放置しても問題はない。仮に5六に攻められても同歩、同クイーンが来て、兵数で押そうとしても、同金で守れる」
「じゃあ6六は?」
「奴らに増援を送っておる程時間はない。今攻めねばなし崩しに攻められ続けて前線が崩壊する」
「…………見捨てるってこと? 駒じゃなくて人間なのよ?」
「ここは戦場じゃ。戦場に居る限り、全てが駒となる。例え人間でもな」




