戦型
ノッブ戦2
「左じゃぁぁあああ!!!!」
戦場に信長の声が木霊する――って左!?
「7八まで行くぞ! 隊列が整い次第、7七歩は7五まで前進せよ!」
「ちょっと、話が違うじゃない! 定石は初手2六歩か7六歩じゃなかったの!?」
「此度の相手は定石に捕らわれていては勝てん。常に相手の居を突かねばならぬ」
「だからってこんなの一手無駄にしてるだけじゃない!」
信長の事だから何か考えがあっての事だというのは分かる。だけどただでさえ展開力が劣るのに、こんな手は悪手にしか思えない。
「解説は後じゃ。急がねばナイトが来よる。飛車はこのまま7六まで行くぞ!」
「7六ってそれこそビショップが来るわよ!?」
「いいから黙って見ておれ」
ビショップが8五に来るという私の予想に反して、相手が動かした駒は3三ポーン。形としては攻めではなく、展開を優先させたという事だ。
「どういう事よ?」
「盤上と戦場は違う。儂ら飛車は大駒故兵数が多い。正面から一対一で当たれるとなるとクイーンかキングのみじゃろう。それに後ろから銀を詰めさせておる。この序盤で兵を合流させたくはないんじゃろうて」
そうか、盤上ではビショップで飛車を牽制できるけど、兵数はこちら側が有利。それにビショップは単体に対し、こっちが銀という後詰がいる。この状態で当たれば向こうが兵を無駄に消費することになるんだ。
「6六歩後、7七桂じゃ! 急げ! クイーンが来る前に終わらせるぞ!」
そう、問題はそこだ。クイーンが出てきたらはっきり言って防戦一方になる。今までもそうだった。序盤でいくら有利を作っても、終盤にクイーンが暴れて結果ドメルグが勝利を収めてきた。
対してこちらは主戦場になるであろう場所への展開はある程度進んでいるものの、信長の言っていた囲いっていうものを作っている気配がない。
このままだと──
「──来よったな」
クイーンの旗が大きく揺らいで移動を開始する移動先はおそらく3四。6七に銀を上げれば金と紐付けできるとはいえ、クイーンに対しての壁にしてはあまりにも心もとない。
「右銀は3八へ上がれ!」
「ちょっと! そんな事してる場合!? さっさとクイーンの対処をしないと間に合わなくなるわよ!」
「盤上と戦場は違うと言っておろう。頭の中でしかと整理してみよ。儂らの指した手番は同数か?」
「そんなの同数に決まって──」
いや、違う。 序盤こそ遅れたものの、気がつけばこちらが一手、いや二手多い。
そうか、チェスは展開力が高い代わりに移動距離が多い。対して将棋は殆どが一升しか移動ができない。
展開力で見れば不利だけど、手番で見れば戦が長引けば長引くほど駒数の多いこちらにアドバンテージが生まれるんだ。
「そして儂らが最初に左に寄ったのも、そこにつながる。この形はな、最初から展開で勝とうという手ではない。展開を諦め、カウンターを狙う形じゃ」
「カウンターを……?」
展開力ではどうやっても将棋はチェスに勝てない以上、将棋は必然的にカウンターになる。だったら最初からその一点のみに集中して展開すれば──
「──勝機が生まれる」
「そう。そしてこの戦型にもう一つ利点があってな。玉とその周辺の駒を見てみよ」
玉の周り。未だに居玉。だけどさっき金と銀を上に上げて歩兵の壁は強固なものになってる。
「あとは隙を見て玉を8八に入れれば完成じゃ。つまり城壁とも言える囲いは既に完成しておる」
僅か二手で囲いを……。カウンター狙いの戦型にぴったりな囲いなんだ。
「向こうも展開は終わった。こちらも囲いが未完成とはいえ、対応はできる。そして仕掛けぬのならば囲いを強固なものにするだけ」
つまりこれ以上チェス側は展開に割く時間がない。普段追い込んでいた側であるチェスが逆に追い込まれてる形になった……!
「さぁ始めようか、ナポレオン公。主の槍と儂の盾、どちらが強固か勝負といこうではないか」




