開戦
「――胸、じゃな」
「胸、ですね」
「胸、だな」
「ちょっと、何よこれッ」
ツンデレが小刻みに震えておるな。大方儂の所有物という現状を鑑み、怒りを我慢しておるという所か。
「仕方なかろう。これから戦と言うに、素人を連れて行けまいて」
「それでも何で私をあいつの影武者として使おうって発想になるのよ!」
「丁度立端が似通っておったからな。しかしその胸が邪魔じゃ。もっとサラシをきつくするか?」
「無理に決まってるでしょ! これ以上きつくしたら、戦場に行く前に窒息して死ぬわよ」
さてどうするか。城下に行って代わりを探す時間もなし。かと言ってこやつをこのままモブだと言い張るのも無理がある。
「仕方あるまい。死ぬ覚悟でもう少しきつくするか」
「死ぬ覚悟ってあんたがする訳じゃないでしょ!?」
「いやいや儂も折角手に入れた玩具を手放すという、重大な覚悟持って望んでおるよ?」
「そういうのは覚悟って言わないわよ!」
「ええい暴れるな! 木偶、こやつを、抑えよ!」
「いやぁぁあああ!! 人殺しぃ!!」
勢いよく閉ざしていた襖が開かれる音に、気が削がれる。見るとモブが息を切らせながら、疲労から崩れ落ちそうな体を、膝に手を付き耐えていた。
「真和さ――」
近寄ろうとした木偶を糸目が手で制す。いい仕事じゃ、自分の役目をよく分かっておる。
「……二度と姿を現すなと、言うたはずじゃが?」
「はぁ、はぁ……ッ……やっと、やっと分かりました……!」
息が整ったモブがスクッと直立する。
「僕が、僕が背負います。この国を。この国に生きる全ての人達を! この国の為に死んでいった全ての命を! 僕が背負わなくちゃいけない!!」
そこにはかつての未熟さが完全に消え失せた君主たるべきものの姿があった。よくぞこの短期間で成長したものよ。
「……惜しいな」
「え?」
「もう少しでこの国を傀儡に出来たと言うに」
「おい信長!?」
「冗談じゃ。もしまた未熟さを見せれば、次こそは斬り捨てるからのぅ。覚悟しておけ」
「はい!」
「自分の祖国と戦わせようだなんて、あんたって本当に酷いサディストよね」
「そうか? 自分で言うのも何じゃが、かなり優しいぞ? 特に使える奴に対してはな」
「それは優しいって言わないわよ。合理的っていうのよ」
「カハハ、であるか」
さて、配置も終わり、そろそろ開戦か。前回と違い、此度は皆モブの打って変わった雰囲気に当てられ、士気が高い。激は必要あるまい。
「では始めようか。のぅ、ナポレオン」
道を阻んでいた光の壁が背を低くする。
此度の相手はナポレオン。となれば正攻法でやっても兵の練度も合わさり、恐らくは負ける。
ならば、裏をかくのみよ。
「飛車隊――――左じゃぁぁあああ!!!!」




