裏切られた信頼
「おい、信長! お前どこほっつき歩いていた!?」
「何じゃ騒々しい。城下巡りくらいしてもよかろう」
「それどころではないのだ! 兎に角来い!」
相も変わらず騒々しい。木偶は落ち着くと言う言葉を知らんのか?
連れられてきたのは狭い部屋か。糸目からモブにその他むさ苦しい家臣がすし詰めな様は地獄絵図じゃな。
「前置きは不要。糸目、簡潔に述べよ」
「……先程ドメルグから使者を名乗るものが現れました。今は謁見の間で待たせております」
「それホント!?」
「ツンデレッ」
逸る気持ちが先走ったか。直ぐおとなしくなるあたり、空気は読めるらしい。
「数は?」
「一人です」
「要望は?」
「先の戦を指揮した軍師と対面させて欲しい、と」
一人で参る度胸にまるで儂を織田信長であると知っているかのような言動。誰じゃ? 儂の知っているやつか?
「相分かった。貴様等は下がれ。儂一人で会う」
「よろしいのですか?」
「それしかあるまい。ここで下手を打てば器を疑われるは儂等ぞ」
手を出せば弔い合戦に発展する。数で押せば小心者と貶され士気を上げられる。全くやりづらい相手よ。
「信長、私も――」
「ならん。貴様もここで待機じゃ」
「お願い! 絶対に迷惑かけないから! だから……!」
「くどいッ!」
「――ッ!」
人の気も知らんとグダグダと。知らぬ仏はのん気で羨ましい。
「木偶、ツンデレをよぅ見ておけ。決してこの部屋から出すな。何があろうともじゃ」
「あ、ああ……わかった」
これだけ強く言うておけば大丈夫か。木偶の体格ならば力尽くでの突破もあるまい。
「待たせたのぅ」
見た目は木偶と同い年か少し若いな。二角帽が印象的じゃ。
ふてぶてしく音を立てて座ってみるも直立不動のまま反応なし。
「名乗れ」
「…………我輩である」
「誰じゃ」
「我輩である」
「誰じゃ、と問うておる……!」
「我輩である……!」
「誰じゃあ貴様ァ!!」
「我輩であるッ!!」
恐ろしく話の通じん奴。こんな変わり者な知己など…………いたな。というかよくよく考えてみれば儂の知己には変人しかおらん。
類は友を呼ぶとは言うがあれは嘘じゃな。儂正常人じゃし。
「久しいのう、ナポレオン。何時以来じゃ?」
「……信長か?」
「何故疑問符が付く」
「また幼女のなりかと思ってな」
「うるさい黙れ儂とて好き好んででこんな姿になっておるわけではないわ」
「だが嫌ではないのだろう?」
「まぁな! というかもう慣れたわ」
されどやはり体躯は男の方が便利じゃな。多少筋力の補正があるとはいえ、鍛え抜かれた男にはかなわん。
「しかし何だそのキャラは?」
「いや、ここではカリスマ性を大切にしていこうかと」
「その発言が既にカリスマ性を損なっているぞ。第一今更取り繕った所で意味などあるまい」
「マジでぇ? もう修正不可ぁ?」
どうしてこうなった。結構カリスマ性たっぷりなキャラなことが多かったよ儂。
「まぁよい。して、此度は何用で参った?」
「念のための確認だ」
「確認とは?」
「降れ」
「断る」
「だろうな」
反応からして頭でわかっていたが、上から指図されたか。腹は読み切れんが、此奴が一時的とはいえ誰かの下に付くなど珍しいこともあるもんじゃ。
「他に要件は?」
「ない。それだけだ」
気にする様子もなく、背を向けそそくさと帰ろうとするとは薄情なやつじゃ。最も薄情にならざるをえない人生を歩んでおったろうが。
「可愛い可愛いお姫様のことはよいのか?」
「……もしアンリが人質となっていた場合、殺せと言われている。曰くたとえ初陣であろうとも敗する弱者などドメルグには不要、と。どうせ死ぬのならばついでに貴公を道連れにしてもらいたいものだがな」
「なるほどのう。しかも殺してしまえば弔い合戦と銘打ち士気もあげられる。貴様等の君主は随分と冷酷無比なことを考えるものじゃ」
「貴公ほどではないだろうよ」
「カハハハハハ、言えておる」
今度こそ用は済んだとばかりに背を向けるとは。少しは昔話をしてもよかろうに。
「……どちらが勝つにせよ恨みっこは無しじゃ」
「いちいち口にするまでもあるまい」
……行ったか。さて、あやつが相手となると次の戦一筋縄ではいくまい。それ相応の準備をせねばな。
じゃがその前に――
襖をゆるりと開けるも逃げる気力もないか。まぁ当然といえば当然か。信じていたものに裏切られれば誰でもこうなろう。
「部屋から出すなと、言うたはずじゃが?」
「……すまん。どうしてもと涙ながらに訴えられてな」
それほど親しくもないのに情に訴えるとは中々機転の利いたやり方よな。少々過小評価しすぎたか。
「…………信長、あんた……わかってたの? こうなるってことを……」
「勘の域は抜け出しておらんがな」
「ねぇ、私はどうしたらいいの……? 自害すればいいの? あんたを殺せばいいの? ねぇ、教えてよ……! あんたなら分かるでしょ!? 教えてよ!! 教えてったら!!」
「……それくらい自分で考えよ」




