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「…………屈辱だわ。私がこんな敵国の格好させられるだなんて」

「良いではないか。似合うとるぞ」

「そういう問題じゃないわよ」

 郷に入っては郷に従え。あの格好では目立ってしょうがなかろうに。やはり他人の心情はわからんな。

「ドメルグは国民一人一人が自分たちの文化に誇りを持ってるの。私もそう。国のためならば命を惜しまないわ」

「そういうやつほどいざそうなれば命を取るものぞ」

「そんなことないわよ! なんなら今からだって――」

「──殺せるのか? 儂を」

 出来もしないのならば虚勢など張らねばよいものを。儂が振り返っただけで身体を震わしておるではないか。

「行くぞ。こんなところで弄するほど時間を持て余してはおらん」

「あ、ちょっ…………出来るわよ、私にだって。それくらい」

 若さ、というやつか。懐かしな、儂にもあんな時代が…………あったか? 随分と昔故、思い出せんな。

「それで、どこに向かってるのよ?」

「呉服屋じゃ」

「何しに!?」

「服を買うために決まっておろう」

「誰の!!?」

「貴様のじゃ」

「何で!!??」

「あの服一つを着続けるわけにはいくまい。その着物は借り物じゃしな」

 よもやこの女は着替えんつもりじゃったのか? 清潔感がないというか。そういえば中世の西洋では糞尿を窓から捨てるというのが一般的と聞いたことがあるな。

「買うならせめてドメルグの服にしてよ!」

「服を買うために敵国に渡れというのか? 無理難題を押し付けよる」

「行商人とかいるでしょ!」

「周りを見てみよ。需要があるように見えるか?」

 多少なりとも需要があれば供給もあろうが、見渡す限り皆身につけている衣服は和服ばかり。探せば洋服を取り扱うておる店もあるかもしれんが、そこまでの労力をかける義理もなし。

「そも貴様に拒否権はないはずじゃが?」

「……わかったわよ」

「わかればよい」

 さて、此奴にはどんな格好をさせるか。着せ替え人形に興ずる趣味はないが、いざ考えてみれば意外と楽しきものよ。

「さて、この呉服屋で調達することになるが、何か要望はあるか? なければ儂の独断になるが」

「せめて動きやすい服装にしてちょうだい……」

 となれば着物ではなく、浴衣を基準にすることになるか。幸いにしてここは城下最大の呉服屋。大抵の衣服は揃っていよう。

「相分かった! 儂がコーディネートしてやろうぞ!」

「……不安しかないんだけど」

 英語が通じた? しかし木偶やモブには通じんかった。やはりドメルグは西洋が元になったということか? しかし行商人の行き交いがある以上言語の隔たりは少ないはず。

「……ご都合主義というやつか」

 そもこうして輪廻転生を繰り返すこと自体が本来ありえん現象。言語なぞ些細な問題に過ぎんか。

「何一人でブツブツ言ってんのよ」

「気にするでない。他愛のない独り言よ」

 さてはて中々の品揃え。こうも数があると迷うのう。

「店主、近う!」

「へぇ、どうも」

 えらく腰の低いやつが現れたな。まぁ横柄なやつよりはマシか。

「売れ筋はどれじゃ?」

「へぇ、一番売れておりますのはこの紫陽花模様ですわ」

「ほう、なかなか良い仕事じゃ。これは綿紅梅か? となると値が張ろう?」

「よぅご存知で。ほんならこちらの綿絽なんてどうです? お値段は綿紅梅よりお安くなっておりますが、勝るとも劣らない代物ですぜ」

 金があれば二つ返事で買うんじゃがな。木偶かモブを煽てて金を落とさせるか? ……糸目が止めるじゃろうな。

「幾つか纏めて買う故負けてくれんか?」

「そいつぁ構いませんが……」

 一瞬左上を見たな。碓か左上は過去の体験を思い出す行為。なるほど、儂にふっかける腹積もりか。

「そうですねぇ、こちらの五枚。品はいいんですが、中々縁がないんですわ。そこでこれまとめて六つでどうでっしゃろ?」

 こういう場合少し上を言うておるはず。六つとなると妥当なのは四つといった所か。ならば……。

「二つじゃ」

「ご冗談でしょう?」

「そう聞こえるか?」

 目の色が変わったな。ようやっと儂を子供扱いしなくなったか。

「正直今でもキツいんですが……わかりました。負けに負けて五つ」

「二つ半」

 様子も見ず一気に値を下げるとは。交渉慣れしておらんのか。じゃがこれは好都合。

「……一つ提案じゃが――」

「どうでもいいけど早くしてくれない?」

「…………チッ」

「ちょっと!? 今舌打ちしたでしょ!」

 これじゃから苦労を知らん温室育ちは。もう少しで引き込めたものを。

「三つじゃ。それで手打ちにせよ」

「しかしこちらも商売ですからねぇ」

「次いで貴様に依頼したいことがある。そちらは金が下りる故そちらで吹っ掛けよ」

「なるほど、分かりました。それで依頼というのは?」

「甲冑を拵えてほしい」

「甲冑ってあんた持ってるじゃない」

 まさかあれを儂の物と思われるとは心外じゃな。

「あれは急拵えの安物じゃ。儂の趣味に合わん」

「そんなの守れればどれでも同じでしょ?」

「はぁ~、これじゃから世間知らずのガキは。あんなセンスの欠けらも無いものを身につけるなんぞ慚愧に堪えん」

「……悪かったわね。どうせ私はナンセンスよ」

 詰まらん。反論もせず素直に謝るとは。少しいじめ過ぎたか?

「貴様の甲冑も新調してやろうか? そのくらいならば出せるぞ?」

「冗談。あれはお父様が初陣のお守りとしてくれたものなの。いくらあんたの命令でもあれだけは譲れないわ」

「もしあの甲冑を壊すか打ち首か選べと言うたらどうする?」

「…………もし、そうなったら。……例え刺し違えてでも、あんたをッ…………!」

 敬慕とは時に残酷なものよな。これほどまでに思うても届かんとは。

「そう警戒せずともよい。ただの例えじゃ。店主、包帯と傷薬はあるか?」

「へぇ、只今お持ちします」

「何のつもりよ?」

「いいから右手を出せ。強く握りじゃ。血が滲んでおるではないか」

 言われて初めて気づいたか。集中力があることはよいが、過ぎたるは身を滅ぼすということを教えねばな。

「……あんた、あたしをどうしたいのよ?」

「それは貴様が自分で探るべき事柄じゃ」

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