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筋書き

「――前ッ進ッ!!」

「「「「ォォォォオオオオ!!!」」」」

 戦場がかつて感じたことのないほどの熱気に包まれる。そうさせたのは他でもない織田信長と名乗る年端もいかない少女。

「2七歩前進!」

 今日が初陣であるはずの少女の指示に屈強な兵たちが素直に従っている。そうさせるのは他でもない彼女のカリスマ性だ。

「3七歩! 前進!」

 彼女は言った。角行である私にも手柄を取らせる、と。きっと彼女の頭には最初の一手から、最後の王手までの全てが描かれているのだろう。

 彼女が今何を目指し、どう攻めるのかは予測すら出来ない。だがそれでいい。きっと彼女の言う通りにすれば勝てる。恐らくこの場にいる全員がそう直感しているだろう。

「2六歩前進!」

 主攻となるのは信長のいる飛車。これはまず変わらないはず。チェスは駒の性能は高いが将棋ほどの数はない。飛車が前線の突破さえすれば道は開けるはず。

 ポーンが駒を取れるのは斜め前のみ。正面は脆いがポーン同士でお互いを庇い合えるのが強みだ。事実相手もポーンを横一列ではなく前後にずらして配置してきている。これをどう崩すのだろうか。

「3九銀! 3七まで前進!」

 銀? 銀を前線に出し、無理矢理こじ開けるつもりか? しかし相手も黙ってみている訳はない。出てきたのはナイト。開戦は2四か3五になると踏んでその二つ両方に対応できるナイトを出してきたか。

 信長が王の周りを固めた隙を突いて相手の右翼側が動き出す。動いたのは7二ポーン。この一手。この一手でついにチェス最強の駒、クイーンの道が開いた。

「4七歩前進!」

 クイーンの移動位置に歩を出しそしてナイトへの牽制、と言った所か。だが私とてチェスと幾度と無く戦った身だからこそ分かる。

 ──その程度でクイーンは止まらない。

 初戦が善戦したとしても今まで何度もあのクイーンに蹂躙され、敗北を喫した。そんなやつ相手に信長はどう戦うつもりだ?

  戦線は一次膠着状態。ならば一旦守りを固めるのが筋だが……。

「6九金! 7八へ! 7九銀は6八、4九金は5八、そして王は一つ左じゃあ!」

「……これは」

 この形、僅か四手という少ない手で、強固な陣を完成させた……。

 これを崩すならば相手もそれなりの犠牲が必要になるはず。

「9七歩、前へ! 6七歩も前! 5八金は6七! 7七歩も前進! 6八銀は7三へ!」

 王の周りが慌ただしく動いて陣形を変えてゆく。相手が仕掛けようと準備を整え始めている証拠だ。しかしこちらは未だ準備が整っていない。

 そう劣勢、そこが”引っかかる”。

 私でもそれが分かってしまうならば、あの信長という少女もそれが分かっているということ。それが分かっていながらこの形を描いたということだ。

 つまり奴には何か逆転の手があるというのか?

「飛車隊! 二つ左じゃ!」

 ついに信長自らが動いた!

 二つ左、4八の位置。あそこに何がある?

「5七歩! 前へ!」

 ついに仕掛けた?

 あの位置は次の手でポーンを取れる。そして相手も歩兵を取れる。つまり次何かが動き始める。

 きっと私にはまだ読み切れない何かが……!

 相手は5五のポーンを動かした。後ろにビショップがいるとはいえ、歩兵に取られれば駒数が少ない分不利となる。そしてポーンの移動した所は守りを固めている左翼側ではなく、右翼。即ち飛車の前!

 それに加え、開戦した位置は……。

「3七銀! 4六ポーンに仕掛けよ!」

 飛車と相手の駒の位置は──

「飛車隊、突撃じゃぁぁぁあああああ!!!!」

 ──ビショップの前! 更にその後ろにはナイト、ポーン、そして開幕から動いていないビショップ。前に出られる駒がいない!

 それに加え飛車は歩兵銀将の部隊と合流した形になっている。兵力差で言えば一対三。飛車の突撃を止められるものがいない。

 相手が逃がしたのはナイト。駒を無視できる特性を活かし攻撃の要として、利用できると踏んだのだろう。

「飛車隊! ビショップも喰らうぞ! 4二まで前進じゃあ!」

 ついに飛車が成った。王の周りにはポーンとビショップのみ。クイーンで助けようにも味方の駒で邪魔され助けに入れない。

 だが問題はどうやって詰ませるか。

 飛車一つでは王手はかけれても逃げられるだけだ。他の駒は全て敵の足止めをしている状態。

 そんな中一気に相手の中腹に潜り込める駒などどこにも――――いや、ある。

 一つだけ飛車のように攻撃の要になれ、飛車の前に躍り出ることのできる駒が……!

「8九桂馬! 9七へ移動せよ!」

『──安心せよ。しかと手柄は取らせてやる』

「なんて奴だ……」

 最初からここまで筋書き通りという訳か。

「角行! 九7ナイトへ仕掛けよ!」

「角行隊! ナイトへ突撃だ!!」

 邪魔なナイトを排除するとともに私の隊、角行隊と桂馬隊を合流させる。正しく一石二鳥。

「飛車隊! 4二ポーンへ突撃ッ!」

 これで王手、チェック。

 キングは左、6一へ逃げた。それしか無いのだ。飛車をキングで取ったとしても――

「角行隊! 5三へ移動せよ!」

 ──その後ろには我々角行隊の道が開いているのだから。

「角行隊! 行くぞぉお!」

「「「うぉぉおおおおお!!!!」」」

 これで王手! 士気高し! 兵力高し! 練度良し! 正しく負ける要素無し!!

 これで退路は塞いだ。そして相手に一手で飛車角どちらかを排除する術はない。

「飛車隊! 6二へ移動! これで詰みじゃ!!」

 ビショップが飛車の侵攻ルートに出るがそんな物ただの時間稼ぎだ。退路を私が塞いでいる以上ビショップが割り込んだ位置で詰みになるのだから。

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