第八話 弓? 魔法? そんなものは森へ捨ててきた
エルフ達、手伝った冒険者達が拍手喝采。
さて帰ろうというところでファムに呼び止められた。
(今回の作業でとても良く働いてくれた人だけ、特別にエルフの国の王都に招待して宴会をするの。どうしても移動に時間がかかるから二泊三日になっちゃうけどね。で二人も選ばれてるけど来る? 来るよね!?)
小声で話しかけてきた。確かに手伝った人を全員呼ぶと大変な数になっちゃうしな。仕方がないね。
(どする?)
(いこうか)
(そうだね、それこそ急ぐ旅じゃないし)
(ファム、我々もその宴会出るよ)
(わかった! じゃ明日の9時までにここへ来て、待ってるわ)
宿屋で一泊し、次の日の朝時間通りにここへ来た。
「きたきたー。二人はこっちへ~」
馬車が用意してある。きれいな装飾が施してあり高級そうな馬車だ。
「ささ、乗って」
「うむ」
他の馬車にはすでに冒険者達が乗っているようだった。
俺達二人とファムが乗ると馬車は走り出した。他馬車も走り出す。
「エルフの国か、ミューは行ったことある?」
「私も初めてだね」
「ふふふ、とても美しいところよ。自然に囲まれて」
「何となく想像はつくな」
「着くまでは森の中を走っていくから風景はあまりおすすめできないけど」
「やっぱり森に囲まれた土地なんだね」
「そうそう、今後の予定なんだけど今日の夜は宴会、明日はエルフの国の見学、最終日は帰宅、となっております」
「なかなか豪勢な旅だね~」
「ははは」
適当に会話をしつつ、ファムの体をじっくりと眺めていた。やっぱりパワー系には見えない。不思議な体だな。
「ふふ、エルフの国についたら一発する?」
「ヘブッ」
ファムの問いかけにミューが吹き出した。
「そうだね、やろう」
彼女の能力が少し気になっていた。
「ふぉばっ」
ミューが吹き出す。
「あ、あなたたちねぇ」
「多少は格闘技が出来るから後で手合わせ願おう」
「ほんと!? 楽しみにしてるわ!」
「ああ、そういうことね……」
「?」
馬車は6時間走行、森が少し開けた場所に出る。
「ここが王都ジャミマラ。そしてあの大きな城が王城パニラよ」
エメラルド色の大きな湖、その周りに点在する家々、湖畔につくられた城。非常に美しい景色が広がっていた。
「ほんとキレイだね」
エルフの街に到着、そのまま城へ入っていった。
「おもむきのある城だなぁ」
馬車から出て城を眺める。苔のようなもの、蔓のようなものが城に張り付いている。かと言って美しさを損なわない不思議な魅力があった。
城の中からあらわれた男がこちらへ向かって歩いてきた。
「ファラ様、おかえりなさいませ」
「んー?」
「ハハハ、隠してたわけじゃないけど私はここの王女なのよ」
「そうだったのか」
「それとこの人はこの国の兵士よ。武器は持ってないから服装で判断するしかないのよね」
周りを見ると、なるほど彼と同じ服をした人がちらほら。
「王女様、まだ説明してなかったんですね。あ、王族の方ですからここにいる間は敬語の使用をお願いします」
「わかりました」
「サイモン、早速だけど一勝負どう?」
「いいですよ」
「私も見学するよ」
「そうですか、では闘技場の方へご案内します」
「あ、私は父さんに挨拶してくるね。闘技場で待ってて」
兵士についていく。城のすぐ近くに大きな建物がある。
「ここが闘技場です。では中へ」
中へ入ってしばらく歩くと中央に広い広間がある空間に出た。
「王女様が来るまでここでお待ち下さい」
数人の兵士が訓練している。
「すごい動きね」
「おまたせー、アッチの広いほうでやろう」
「このへんでいいかな」
武器を置き、ファムと相対する。
「いつでもいいよ!」
VRモード起動。問題なくファムが表示された。素手、布の服。手加減5くらいかな。後は防御主体で。
準備ができた。音楽が流れ始め支持に従って構える。
お互い構えて少し時間がたつ。俺は防御主体であるからこちらからは動かない。
「様子見かな?」
「そちらがこないのならこちらからいくわ」
しびれを切らしたファラが地面の砂を巻き上げながら高速でこちらに向かってきた。早いな。右腕を振り上げている、ストレートのパンチかな。音楽と指示に合わせる。体を左にひねりながら少し左側へ移動、彼女の拳が俺に届く前に体を捻りながら左腕を前へ突き出す。見事相手の攻撃をそらすことに成功した。
「うっふっふ、思ってたとおり。あの砂利を軽々持ち上げるなんてただ者じゃないと思ったのよ。それにしても格闘技の技術まであるなんて。そこまでは想定してなかったわ」
「じゃ次からは本気で!」
そう言うと砂を蹴り上げ目眩ましをするファラ。
『うつむきの構え』をとる。床が前の方へ一直線に伸びていた。床に合わせて進む。土煙の効果範囲外まで出た形になった。そしてすぐ振り向く。
ファムが追いかけてきていた。後方を取ろうとしていたのかな。
ファムは気にせず攻撃を仕掛けてくる。ローキック、これを難なくかわす。次はバックブローから踵落としのコンビネーション。そしてこれもかわす。
(嘘でしょ、全く攻撃が当たらない)
その後もすべての攻撃を受けきっていく。
途中何度か相手を倒す指示があったがそれを選ばないことで戦闘を続けてきた。いわゆる遅延行為であるが長時間戦えば彼女も満足するだろうと思い耐久戦をすることにした。
そして戦闘を始めてから1時間経過、少し彼女の動きが鈍くなってきた。
(そろそろかな)
「くっ、うおぉぉーー!」
超接近からの頭突き攻撃。それにあわせて衣服を掴み体を沈めながら巻き込むように彼女を投げ、そのまま地面に叩きつけた。
「ドシャーン」
「グブッ」
拳を彼女の顔に突きつけトドメのポーズをとった。
「参った」