第七話 エルフの拳
「よし、通っていいぞ」
無事検問を通過。それから5日後に寄った街で変わった人達を見かけた。男女とも金髪、耳長、長身。
「エルフだね。比較的近くに彼らが住んでいる場所があるんだ」
「エルフはね――」
ミューがエルフについて説明してくれた。
ゲームでは男女問わず格闘攻撃主体、自己回復能力が高い、状態異常もすぐに治る、という特徴を持つ。ミューの説明とだいたい同じかな。
一般的には弓・魔法を使うイメージが強いと思う。このゲームにエルフが出た当初は見た目は一緒だが中身は違うとよく言われていた。ファンの間ではゲームのシステム上遠距離攻撃の表現が難しいため接近戦タイプにされたのではと噂されていた。結局最終作が出てバトルマトリックスが終わってもその理由はわからないままだった。
検問を抜けて10日、立ち寄った街ドニーロのギルドで通常とは色が違う依頼書をみつけた。
『山道が土砂崩れにつき、応援急募 エルフ族族長より』
ミューは依頼書の前に立ち腕を組んでうなずいた。
「普通は白の依頼書、緊急は黄色、ほぼ強制が赤。黄色だから緊急の依頼だね。今回は刻印制限がないから我々でも参加できる。ただこの手の依頼は報酬が良くないから敬遠されがちだな。ほら、刻印一つで攻略できる依頼より報酬が少ない」
二つの依頼書を指差すミュー。
「ふむ」
「それとエルフ族、彼らはここから南側、森と山に囲まれた地域に住んでいる。今回の依頼は彼らの領土で起きた問題をこちらに持ってきたってところかな」
「うーん、急ぐ旅でもなし。お金もまだまだあるし、この依頼受けてみる? 山道が使えないと色々と不便だからね」
「はは、ミューは優しいな」
「な、なにを言って」
その優しさをもう少し自分に向けられたらいい、のかな? ここいらのバランスは非常に難しいね。
「OK。受けよう」
「うん」
依頼を受ける。近いから徒歩で現場へ。
街を出てから一時間で到着。十数人のエルフと一人の冒険者らしき人が土砂を運び出していた。
(たしかに人気無いみたいだな)
(そうなんだよね)
「お、兄ちゃん達は応援? だったらそこの小屋のなかで受付やってるよ」
現場監督風の男に聞いたとおり、小屋へ入り受付で手続きを済ませた。
「改めてよろしくな。じゃ、早速仕事を頼むかな。サイモンさんはあっちで力仕事。ミューさんは悪いけど雑用を頼む」
「おう、こっちだ。砂利をスコップですくって手押し車に乗せてくれ。結構大変だから疲れたら交代な」
「この砂利は普通の砂利より重くてな。重量のある鉱石が含まれているみたいなんだ」
「お兄さんそっちお願いね」
見た目が十六歳? くらいのエルフの女の子がスコップ片手に話しかけてきた。
「ああ、わかった」
指示を出し終わると砂利をスコップですくう。ガッシャガッシャと軽々手押し車に乗せた。
エルフは格闘主体。そう考えると女の子でも力があるんだろうな、と納得して仕事を始めた。
2時間経過。
「お兄さん大丈夫?」
「問題ないよ」
「そっかぁ、まああんなデカイ剣使ってるなら力もあるんだろうね。引き続き頼むわね」
「ファムさ……ん! 大きな岩が見つかり皆対処に困っております」
「今行きます」
「おーっす、ついでに休憩しようや、兄ちゃん」
「はい。ところで大きな岩はどうするんですか?」
「今から破壊すんのさ」
「ほぉ」
ファム、か。気になった俺は彼女が歩いていった方へ行ってみた。
「お、兄ちゃん。へっへ、今から面白いもんが見れるぜ」
ファムが岩の前に立っている。集中しているのだろうか、構えたまま全く動かない。
「戦闘民族エルフ、あの子はその中でも特別製でね。100万人に1人と言われる特殊筋肉『I.S.Z.』の持ち主なんだ」
『エタニティラッシュ』
目を見開いた瞬間、大岩に向かって超高速の掌底を決めた。
瞬間大岩が爆発するように弾け飛んだ。
「ぱっと見細身の体だろ? 普通の筋肉の数十倍の力を秘めているらしいから少量、細身でもあんな感じよ。ちょっと硬い材質みたいだが、このくらいの岩なら楽勝さ」
ふむ、この子もゲームに出てるね。設定も同じだな。
「どうなっているんだ、あの子の体は」
ミューも見ていたようだ
「はっはっは、面白い子だろう」
男は笑いながら去っていった。
「はい、飲み物」
「ありがとう」
「なんだかとんでもない子だけど彼女がいれば仕事も早く終わりそうだね」
「ハハッ、そうだな」
「どうしようかな、撤去が終わるまで手伝っちゃう?」
「そうしようかな」
今日の仕事を終わり、帰り支度をしているとファムがこちらへ近づいてきた。
「明日も是非来てね! 力自慢は大歓迎なのよ!」
「ああ、その予定だよ」
「そうかそうか!」
次の日、その次の日と順調に作業が進む。
そして依頼を初めて受けた日からちょうどニ週間。
「よーっし! 終わりだーー!」
「うおーーー!」
「みなさんありがとうございました!」