第三話 音楽VRゲーム
侵入したはいいものの丸腰だ、これでは心もとない。
(武器がほしいところだな)
いくつかの部屋を物色し、剣を飾ってある部屋を見つけた。
(おや? このグレートソードはバトルマトリックスで見たことあるぞ。レベル21の武器、アイアンマースだ)
暗がりでわかりにくいが確かにゲームの武器だった。ちなみに俺が最終的に持っていた武器はレベル50。
(拝借しよう。なに、何もなければすぐ返すさ)
普段ならこんなことをしないがどうも胸騒ぎがする。剣を持ち出すとロビーの方へと向かった。
ロビーでは豪華な装飾を施した服を着る男と片膝をついたミューが向かい合っていた。
「……ぅ…」
遠くて聞こえない、もう少し近づくか。
「どうだ、そろそろ俺の女にならないか、ミューよ。そうすればきつい肉体労働ともおさらばできるぞ。そうだ、そこの執事達もうちで使ってやるぞ」
「申し訳ありません、その件はお断りさせていただきます」
「そうか、仕方あるまい」
その後、しばらくとりとめのない会話をする二人。
「そんなことはありませ……ぐうっ、これは」
男が邪悪な笑みを浮かべる。
「しびれ薬がようやく効いてきたか。ご苦労だったな、ラオケ」
「……」
「ラオケ、何故……」
「簡単な話よ。そいつらの家族を人質にとったのさ。そしたら簡単に裏切ったくれたぜ?」
「オート・ハロイ! 貴様! ウグゥ」
「ハッハッハ、そんな体じゃ自慢の魔法剣は扱えまい。そもそも動けないかな? 安心しろ、今からたっぷりかわいがってやるからな」
ミューが力なく崩れる。その目には涙が。
「ことが済んだらそのまま持ち帰ってコレクションに加えてやろう。お前は死ぬまで俺のおもちゃだ! アーッハッハッハ!」
「ガラシャーーン! ズドン!」
「な、なにごとだ!」
あまりにもゲスな話に心の底から怒りが溢れ出した俺は、奴らを驚かせるため、わざわざガラス窓の前まで行ってそれを突き破って派手に登場、そのままミューの近くに飛び降り彼女を抱え、ロビーの入り口まで運ぶ。
「ここなら安全でしょう。ちょっと待っていてください」
「君は一体……」
オート・ハロイの前まで歩み出る。
「女一人ををよってたかってとは感心しないな」
「ふん、何者かは知らないが邪魔者には消えてもらおう。魔術師共、やってしまえ!」
魔術師たちが呪文を唱え始めた。彼らもゲームで見たことあるな。ということはVRモードが使えそうだな。
目をつむり、心をしずめ、精神を集中させる。
そして目を開けるとVRゴーグルをかぶったような状態になっていた。早い話、ゲームのやりすぎ、もとい修行のし過ぎで「少し集中するだけでVRゴーグルをかぶってゲームが出来る状態」を素で作り出せるようになったというだけだ。音楽にも絶対音階ってのがあるし、それと一緒、一緒。
ただし、このモードには欠点がある。相当数の経験を積んでいない場合は音ゲー化されない。
周りの魔術師たちを見るとゲームモードが作動しているのがわかった。
つまりこの魔術師達はゲームに出るやつと同じなためゲームと同じように戦うことができる、というわけだ。あ、俺は初代から最終作までの敵は全部ゲーム化できます。
現在の装備を確認、両手剣 アイアンマース レベル21、服 布の服 レベル1。最弱の『服』だが武器があるし、ミスらないから問題ないだろう。
次は力の出し方、加減を決める。本気、普通、手加減と選ぶ項目がある。メニューから呼び出すことでもっと細かい力の加減を設定できるが今回はこの3つから選ぶかな。
えーっと、本気、普通だと魔術師の体を真っ二つにぶった切ってしまうから手加減にしておくか。後は戦闘スタイル。防御主体、攻防一体、攻撃主体。攻防一体かな、ぽちっと。
こんなところか。心で念じ、ゲームをスタートさせる。スタートと同時に頭の中から音楽が流れ始めた。床がひかり、音楽に合わせタイミングよくその上を移動する。先程より左斜に少し進んだ感じかな。そして武器を構えて体をひねろ、と指示があり、俺はそのとおりにした。
『フレイムスフィア』
魔術師が炎の玉を同時に放ってきた。ここで初期位置より少し左側へずれたことがいきてくる。同じ魔法、同じ速度。着弾は左側の炎の玉から。
そう、左側から斬っていけば順番に魔法を処理できる。
最も左側の魔法の玉がこちらへ近づいてくる。更にその左側には三角形マークがいくつか並んでいた。それが順々に消えていく。最後の一つが消えた瞬間、剣を振り抜いた。
「ズババババババババン」
8つの炎の玉を順々に斬り破壊。間髪入れず床が光る。魔術師に向かって伸びていた。
指示通り床の上を走り魔術師に近づくと腹部が光りだした。拳のマークが出ていたのでここへ軽くボディーブローをかました。壁まで吹っ飛んでいったが手加減したから死にはしないさ、大丈夫だろう、多分。