第二十九話 飛んでみよう
「ハァッ!」
「ガイィィィン」
ここは街の闘技場。今ファムの蹴りを素手で受け止めたところだ。
「かなりパワーアップしたな」
「エルフの国に居たときより強くなっていると思う」
「ふむふむ」
VRモード起動。彼女が表示されない。
これは彼女がパワーアップして、俺が持っているデータと今の彼女の強さに大きな差が出てしまったためだ。この場合、VRモードを起動したままファムと相当数の対戦することによってまた表示されるようになる。データの更新といったところかな。
VRモードでしばらく戦闘。彼女が表示されるようになった。
「ふぅ、疲れた。今日はここまでにしましょ」
「お疲れ様」
「あ、いたいた」
ミューが俺達のところへ歩いてくる。
「コスラさんが秘密のお話があるから来てくれって」
「秘密の話?」
「うん」
街から出て人気のない森の中、コスラさんが待っていた。
「呼び出して済まなかったな」
「いえいえ。ところでどんなお話で?」
「話というのはこの袋に入っているものについてだ」
コスラさんの隣に大きな袋が置いてあった。その中から金属でできた小さな羽のようなものを取り出す。
「『ブレイド』と言ってな。魔力を使って空を飛べるようになる装置だ」
「へー、それはすごい」
「国家機密だから秘密な」
空を飛べる者は案外少ない。羽が生えている種族はもちろん飛べるが少数であることが多い。人類では魔女のホウキで飛べるくらいだがあれは特殊で一般的ではないらしい。空を飛べるようになれば基本的には様々なことに対して有利になるので国家機密で制作していても何らおかしくない。
「そりゃそうですよね」
「今回は皆にコレを使ってもらって使い心地、改善点その他何でもいいから意見をもらいたいと思ってね」
男性用一つに、女性用2つを取り出し、3人に渡す。
「結構ガッチリした作りですね」
「人間を持ち上げて飛ぶわけだからな」
「森の中で着替えてきます」
女性陣は森の中の人目のつかないところに移動。俺はその場で上着を脱いでブレイドを装着、また上着を着る。準備完了だ。
「ふむ、ではサイモンから。これは翼に魔力を送り込むことで空を飛ぶことが出来る。魔法はつかえるかい?」
「いえ、まったく」
「それならとりあえず集中して翼に何かを送り込むことをイメージしてみてくれ」
「わかりました」
集中、とにかく集中。
俺の周りに何やら白い物質があらわれている感じがする。これが魔力かな? それをブレイドに注入していく。
よし! これで飛べるか!?
「あれー、魔力が全然たまらないな」
俺の背中を見ながらコスラさんは言った。
溜まってなかったか。
「見るところがあります?」
「背中にゲージが付いている」
「それは使用者にも見えるようにしたほうがいいですね」
「ふむ、それもそうだな。要望に入れておこう」
もうしばらく頑張ってみた。が、飛ぶどころかゲージの魔力が0のままだった。
「あれー、0なんてありえないと思うんだけど……」
これは異世界人だからかな?
「特殊な体質かもしれませんね。私も筋肉が特殊ですし」
戻ってきていたファムが助け舟を出した。
「ふむ、そういうこともあるかな」
「では二人にもやってもらう」
「はい」
二人は集中。
変化はすぐ起きた。始めて数秒後、ミューが飛んだ。
「おー、飛んでる」
ブレイドの見た目には変化がない。どういう構造なんだろう。
「魔力を送ったらブレイドから透明な羽が生えた、感じがした。それを動かすと飛べるようだ」
「そうだ。順に説明しようと思っていたんだがいやはやもう飛んでしまうとは」
ミューは自由に飛び回っている。
一方、ファムは苦戦していた。
「なかなか魔力を集められないなぁ」
「はっはっは、焦らなくてもいいぞ。本来は慣れるまで時間がかかるものなんだ。特に普段魔法を使ってない者はな」
「ミューは魔法剣を使うからでしょうね。なんとなく似ているのかな」
「だと思う」
「うらやましい~」
飛びながら魔法剣も発動している。器用だな。
その後ファムは少し浮き上がるところまでは出来た。俺は相変わらず魔力ゲージが0のままだった。
「3人ともお疲れ様。ではブレイドは回収していく」
「コスラさん、ミューと非常に相性がいい装備ですから頂戴っておえらいさんに言っておいてもらえますか? 出来ればファムの分も」
「わかった、伝えておこう」
「ありがとうございます」
その場でコスラと別れた。
「ところでサイモンは今まで飛ぶ相手はどう対処してきたの?」
「それはジャンプだな」
「ジャ、ジャンプね」
飛んで剣を振って終わり。
(参考にならないわね)
俺達は街へ帰った。




