表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/60

第二話 女剣士

 ゲームセンターの中に居たはずなのだが、現在は外、周りは野原、立っているところは石を敷き詰めた道。


「どーなってんだ、こいつは」


 しばらく考えていたが結論を出せなかった。


「まずは情報が欲しいな」


 遠くで馬車がこちらへ走ってくるのが見えた。


「馬車? そんなもの日本にあったか? まあ、この道を走っているようだしとりあえず隅の方に避けるとしよう」


 しかし体が動かない。ゲームクリアのために力を使い果たしたからだ。


「うぐっ」


 なんとか動かそうとするもびくともしない。それどころか意識も遠のいてきた。


「ダメか。……せめてシャツは着たかった」


 上半身裸の俺はその場に倒れ込んだ。


「ザザザッ」


 馬車が近くで止まった気配がした。


「これは行き倒れですな。半裸なのは何故かわかりませんが」


「野盗に襲われたのかもしれない。屋敷が近いからとりあえず連れて帰ろう」


「しかし……」


「困った人間を見過ごすわけには行かない」


「わかりました」


 薄れていく意識の中、歳のいった男の声と若い女の声が聞こえ、俺を助けようしていることがわかった。


(助けてくれるのかな?)


 少し安心したのだろう、そこで俺の意識は途切れる。


 次に目を覚ましたのはベッドの上だった。

 上半身を起こし周りを見渡す。


「あ、お気づきになられましたか!」


 メイド喫茶の服のようなものを着た少女が俺に近づいてきた。


「お体の具合はどうですか?」


 まだ体に痛みが走っている。筋肉痛だとは思うが。


「まだ痛みがありますね」


「体を楽にしていて下さい。私は目を覚ましたら呼んでくれとミュー様が仰られていたのでちょっと行ってきます」


 また体を横にして体を休める。

 しばらく時間が過ぎたところで部屋の扉が開き先程のメイドさんとゲームでよくある剣士風? の服装をした女性が入ってきた。

 あわせて俺も体を起こす。


「体の方はどうだい?」


 剣士風の女性が話しかけてきた。


「また痛みが残っている感じですね」


 んん? どこかで見たことがあるような。

 ああ、ゲームに出てた女剣士の人かな?


「? 私の顔になにかついているかな」


「なんでもありません、気にしないで下さい」


 やはりそうだ。『バトルマトリクス』の三作目『ソードダンス』に出てくる女剣士だな。その時は敵としてあらわれ戦うことになった。

 ふーむ、まあ今は戦いになる気配はないし様子見かな。


「とりあえず意識を取り戻してくれたようで良かった。丸一日寝ていたよ?」


「そんなに寝てましたか」


 いつもなら一日経てば体調も普段どおりに戻るんだけどラストの200連射が効いたかな、まだ体が痛い。


「私はこの家の主、ミュー・サダンだ」


 どうしよう、名乗らないと失礼だよな。とりあえず適当にそれっぽい名前を。


「サイモン・ライスです」


「上半身裸で特に外傷もなく街道に倒れていたんだが何があったんだい?」


「え~と、それはですねぇ……」


 音ゲープレイ中にシャツが弾け飛んだ。ゲームをクリアしたら知らない場所に立っていた、なんて言っても信じてもらえないだろうな。俺なら信じない。


「う~ん」


 困っているとメイドがハッと何かをひらめいたような顔をする。


「ミュー様、これはもしや記憶喪失なのでは?」


「ふーむ」


 ムムム、これは都合がいいかもしれない。今の段階で話をするのは危険な気がする。体も動かないしね。その話、乗った!


「ええ、実は上半身裸で街道に立っていたところから前の記憶がなくて。名前は思い出せたんですが」


「ふむふむ、話はわかった。まあしばらくのんびりしていくと良い。とりあえずは体を治すことが最優先かな」


「ありがとうございます」


 ミューとメイドは部屋から出ていった。ふぅ、なんとかごまかせたかな。

 次の日、朝食を食べた後歳のいったの執事が部屋に入ってきた。


「おはようございます」


「おはようございます」


 この声は、昨日助けてくれた人かな? なんだか言葉に圧がかけられている感じがするけど。


「明日の夜、ミュー様にとってとても大事なお客様がいらっしゃいます。できれば体調が良くなったらお屋敷から出ていってもらえると幸いです」


「はい、わかりました」


 なるほど、そういうことね。


「申し訳ありません。とても大事なことなので……」


 うーん? 何やら思いつめている感じがする。


「それでは失礼します」


 執事は部屋から出ていった。入れ替わるようにメイドが部屋に入ってきた。

 仕事はしているがボーッとしているように見える。心ここにあらずといった感じだ。


(明日の夜、か)


 次の昼過ぎ、時間にして3時位で屋敷を出ることにした。


「まだ居てくれても良かったのに」


「いやいや、これ以上世話になるわけには」


 周りを見渡す。昨日よりも執事とメイドの顔色が悪い。


「そうか」


「ありがとうございました。この御礼は後ほど」


 軽く礼をして、ミュー家を出た。


 夕方6時くらい。戻ってきた俺はミュー家の前の森でその『大事な客』を隠れて待っていた。

 ほどなくして5台ほどの馬車が街道を通りミュー家に入っていった。


(彼らだろうか?)


 どうにも先程の執事、メイドたちの様子が気になっていた。

 ゲームに出てきたキャラだから気になるってのはある。しかしそれよりもなによりも行き倒れを助けて貰った恩がある。なにかあるなら手を貸したい。


 そう心に決め、ミュー家にコッソリ侵入した。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ