第十四話 不死身?
「おかしい、どうも負傷者が多いな。それにそろそろ終わってると思うんだが、通信役が来ない」
先程色々教えてくれた男が魔獣を狩りながらつぶやいていた。
「トラブルが起きた?」
「その可能性はある」
「ん~、どうする? サイモン」
「前線の方へ行ってみようか」
「まじ? まあ止めはしねえけどよ、やばくなったらとっとと逃げるんだぜ」
「はい」
「それから本当にヤバイ場合は街が終わるからこっちに逃げても無駄だ。他の街へ逃げたほうがいい」
「わかりました」
俺はミューとファムを連れ前線へと向かった。
途中冒険者に厄体の場所を聞く。彼らもまた現状に違和感を覚えているようだった。
「戦闘がなかなか終わらない、何かあったかもしれないな」
そう聞いた瞬間森の奥地から数人の冒険者達が大きな声を上げならこちらへ向かってきた。
「討伐は失敗! 各自撤退せよ!」
「げ、やっぱ駄目か」
話を聞いた冒険者達はすぐさま撤退の準備を始めた。
「やれやれ、やっぱりこんなことになっちまったか。だから王様にはあの三賢者は信用ならんと何度も言ったんだがな。結局俺達の出番ってわけだ」
「彼らは口がうまかったからね。我々は政治が苦手だからな」
二人の男が現れなにやら愚痴をこぼす。一人は重鎧に巨大ハンマー。もう一人は魔法使い風。彼らも我々と同じでルスルを倒そうとしているのだろうか。
「おー! あんたらまさかカルセ兄弟か!」
「そうだ。後は俺達に任せな」
「恩に着る。厄体はこの奥だ」
(俺達も帰るふりをして隠れながら奥に進もう)
(了解)
そこから少し進むと木々をなぎ倒す音や唸り声のようなものが聞こえた。
「居た、あれが厄体ルスルか」
全長20メートル、とにかく巨体でイノシシに似た生物がそこに居た。
カルセ兄弟の重鎧の方と向かい合っている。
「弟よ!」
「わかってるよ兄さん! 『アースウォール』」
ルスルの前に巨大な土壁が現れた。
「でかした! 逃げるぞ!」
「ああ!」
「20年前はこんなに強くなかったぞ。ちくしょー!」
走って逃げていった。
「……俺の出番のようだ」
ルスルの後ろを取る。
「こっちだ!」
声に気づき俺の方を見るルスル。
VRモード起動。ゲームでは普通の厄体ルスルとパワーアップしたルスルの二つのパターンがあった。今回はパワーアップした方のルスルだな。もちろんルスルを知っていたが知らないふりをしてミューに話を合わせていた。
普通の1、攻撃主体かな。さっさと片付けたいところだが。
『ブオォォーーーン!』
こちらへ突進攻撃。音楽スタート。指示通り、横へかわしながら斬りつける。胴の半分ほどを剣でぶったぎった。
「やった!」
と見せかけて斬った部分が即治った。ゲームでもそうだったがしばらく不死身。ダメージを与えることでルスルからエネルギーが抜け出し最終的に不死身も解け倒せるようになる。
「ふ、不死身?」
「タフなだけだよ」
「ならいいけど」
時間がかかるからある意味一番厄介なタイプかな。
3時間後、ようやくダメージを与えられるようになってきた。
「ふー、長い戦いだったがコイツで終わりだ」
『ブォーーーゥ!』
ルスルの突進に対し剣を上段に構えて待つ。頭に一本線の光があらわれる。例の三角形の図形がなくなった瞬間、その光めがけて剣を打ち下ろした。
「バガーーン」
頭を真っ二つ、ルスルは絶命した。
「かなり厄介な相手ね。ここまでタフだとは」
「完全に不死身なら俺でも勝てないだろうな」
「さて、どうしようかな、この状況」
「素直に我々が倒したって言うしか無いかなぁ」
街に来たばかりでいきなり目立ちたくはないが倒してしまったから仕方ないかな。放置は無責任だし。
「背中に生えた角が討伐の証だね。持ってく?」
「そうしよう」
背に駆け上り角を根本から剣で斬った。
「じゃ、これを持ってギルドへ」
「おかしい、静かですね」
人の声がする。
「こ、これは!?」
姿をあらわしたのは3人組の男女。
「あなた達が厄体を?」
「はい、冒険者をしている者です。失礼ですがあなた達は?」
「キット・タテクミと申します」
彼は周りを見渡し何やらうなずいて語りだした。
「私は王の命を受け三賢者の身辺を調べていました。それで最近になって厄体退治は半分ペテンだとわかりまして」
「半分ペテン?」
「はい。ルスルを退治せず魔法で大地にエネルギーを逃していたようです」
「そうすることで一時的には治まりますが、そもそも大地のエネルギーを過大に摂取してしまった魔獣がルスルとなるので次回のルスルはそのエネルギー分も加わった強さになります」
「つまり回数を重ねるほど強くなると?」
「簡単に言えばそうですね。さらに5年に一度が半年に一度と頻度も上がっています」
「三賢者を逮捕、拘束しようと考えていたのですが厄体に詳しい者から「そろそろ限界で退治しなければならない」と言われ強者探しを優先したため遅れてしまいました」
「ふむ」
「賢者を部下達に任せようかと思ったんですがクセ者なうえ、そこそこ強いのでおよがせることにしました」
「仕方ないですね、危険ですし」
「ところで、キットさんの後ろにいるお二人がルスルを倒すため連れてきた方達ですか」
「はい」