第十三話 厄体ルスル
鍛冶屋を出る。
「お腹が空いたな、昼食にしよう」
「さんせーい」
適当な店に入り食事を頼んだ。
「今日一日じゃとても周りきれないわね」
「ここは色々あるからね。数日はかかるんじゃないかな」
「はっは、のんびりまわろうじゃないか」
三人で会話をしていると、メガホンのような物を持った衛兵が歩きながら大きな声で周りに呼びかけていた。
「厄体が現れましたー! 問題はないかと思われますが念の為避難の準備だけはしておいてください!」
「厄体?」
「移動しながら説明するよ。ギルドへ向かおう」
お金を払ってお店を出た。
「魔獣から稀に生まれる特別変異の個体。その力は凄まじく、小さな街なら簡単に破壊し尽くしてしまうほどの力を有している。ただ寿命が異様に短く遠出もしないためここに街がなかった頃は放置して死ぬのを待っていたらしい。そんな魔獣がこの地には三種三体もいたんだ」
「ちなみに厄体は毎回同じ種族がなるようだ」
「ふむふむ」
「ただここは資源が豊富な土地。ここを開発すれば人々の暮らしは豊かになると考えた王は厄体を退治出来る者を募集、そして見事これを倒した三人の男達は三賢者と呼ばれた。これが20年前だよ」
「へー、たった二十年でここまで発展したのか」
「そう、それだけの発展が簡単にできるぐらいにこの土地は人間達にとって旨味のある土地だったわけさ」
「最近の研究では肥沃な土壌のほうが痩せた土地より厄体が生まれやすいと言われているね」
「それで3体もこの地方に湧いたってのか」
「うん」
「それから三賢者は全員魔道士タイプらしい。さっき衛兵が大丈夫だと思われるがって言ったのは彼ら三賢者が毎回事を収めてくれるからさ」
「ほぉ、強いんだな」
ギルドに到着。やはり非常時のためか慌ただしい。
依頼書掲示板には他の依頼書を押しのけるように赤い依頼書が堂々と貼られていた。
『厄体ルスル退治』
「赤の依頼書です! ギルドの有志達、どうぞよろしくお願いします!」
大声で冒険者達を呼ぶ受付の人達。
「そういえば赤の依頼書は、ほぼ強制って話だったな」
「もちろん体調不良やどう考えても殺される、攻略不可能って場合は受けなくてもいいけどね。ところが実際のところは体調万全だけど受けないって人は多かった」
「まあ、死んだら終わりだからな」
「まあね。そこでギルド側は考えて参加者にはギルドポイントが上がりやすいという特典を付けたんだ。そうしたら一気に人気の依頼になったよ、赤の依頼書」
「人間ってわかりやすいな」
「ところでルスルってのはどんな魔獣なんだ?」
「『厄体ルスル』。イノシシ型の魔獣でとにかく獰猛で怪力。さらに同種の魔獣を操るらしいよ。その魔獣から逃げてくる魔獣が居てそいつらが街に突っ込んでくるってのがよくあるパターンみたい」
「ふむふむ」
「私達も受けよう。刻印が少なくても街に入ってくる魔獣の撃退とかで依頼が受けられる」
「そうしよう」
受付で厄体退治の依頼を受け町の外に出た。
「たくさんいるね」
「お、見ねえ顔だな。新入りかい?」
40歳くらいのガタイのいい男が話しかけてきた。冒険者かな?
「ええ、最近この街に来たところで」
「はっはっは、お前らは運がいいな。参加するだけでギルドポイントがたんまりもらえる依頼、イベントに遭遇するとは。まあ、たまに魔獣が来るから気をつけるんだな」
「はっはっは、それにしても最近はバンバン来るからポイント稼ぎ放題だぜ。他の街からも冒険者がよく来ているな」
ミューが男と話をする。
「厄体が来る頻度ってどのくらいですか?」
「ん? そうだな~、街ができ始めたときが5年に一回、前回現れたのは半年前ってところだな」
「そうですか、情報ありがとうございます」
「はっは、気にすんな」
豪快に笑いながら去っていく男。
「5年と半年か。大きく開いているな」
「うーん、なんだろうな」
「まあ、考えていても仕方がないか。街に向かってくる魔獣を狩ることに専念しよう」
厄体退治最前線。
「三賢者様、今です。向かってください!」
「ああ、雑魚共は任せた」
「はい!」
三賢者と言われた三人の男達が森の奥深へと進行した。
「いたいた、ルスルだ」
「いつものように魔法で力を奪ってしまおう」
『アースレンダー』
「カンッ」
ルスルに魔法を仕掛けたが弾かれたような音がした。
「……」
「どうした?」
「こりゃダメだな」
「20年間、大地に力を封じてごまかしてきたがいよいよ限界か」
「今まで大地に封印してきたエネルギーを備えた厄体か。初期の何倍の強さだろうか」
「なに、倒すのは無理でも時間が経てば寿命で死ぬさ、短命だからな」
「そうだな。あの街は滅ぶが世界が滅びるわけではない。大したことではないな」
「では逃げよう。もう少し遊んでいたかったが」
「はっはっは、俺もそう思う」
三賢者達はその場から逃げ出した。